VANDREAD連載「Eternal Advance」
Chapter 6 -Promise-
Action9 −気持ち−
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副長からの直々の命令により、前線で激しい戦いを繰り広げていたパイロット達は全員母船へと帰還した。
命令違反を犯したカイは撤退に背いた唯一の例外であるが、ガスコーニュがデリ機で回収し事無きをえている。
とはいえ、危機は去った訳ではない。
敵部隊は再編成を行い、目下全力で男三人と女百五十名の乗船する融合戦艦ニル・ヴァーナを破壊すべく攻撃を加えている。
強力なシールドも度重なる敵攻撃により徐々に歪曲し始めて、保たれていた形態そのものが維持出来なくなりつつあった。
事態を重く見たブザムはシールドに母船のエネルギーの大半を供給。
徹底した篭城戦を行うべく周辺を取り囲む密集した小惑星郡に潜んではいるが、すべてはあくまで一時凌ぎである。
敵とて馬鹿でもなければ、無能でもない。
どこに隠れていようと全長三キロメートルを超える母船を発見するのはたやすく、シールドで完全防御仕切れない程の攻撃力がある。
マグノ海賊団は追いつめられていき、最早逃げ場も失いつつあった。
母船内に退避したパイロット達は傷ついた身体を治療し、束の間の休息を取っている。
現在ドクターであるドゥエロはメイアの治療に専念し、傷の手当てはもっぱらパイウェイが一人でこなしていた。
その際にメイアが命を散らしつつある事を知り、パイロット達は気持ちを落胆させている。
無理もない。
敵は数が二百を超えて強力であり、自分達の指揮系統は混乱。
加えて一番の頼りの綱であった筈のメイアは危篤状態であり、マグノ達は何の手立てもうてずにいる。
自分の命が危ないという恐怖と、自分の仲間が危ないという哀しみ。
希望的な観測は何も見えず、自分達の目の前が真っ暗に見える消失感はパイロット達の精神を蝕んでいく。
更に長時間の苦戦はドレッドチームに大きな痛手を被っており、パイロット達の半数以上は怪我人である。
中には戦闘続行が不可能な重傷を負っている者もいて、巻かれた包帯が痛々しい。
戦いに直接関わってはいない他のクルー達も、当然ながら他人事ではいられない。
信頼しているパイロット達やマグノ達重鎮達が追いつめられていく様子に、足元から崩れ落ちそうな不安定な気持ちを抱えているのだ。
戦況を立て直そうと対策を練るマグノやブザムは話し合いを行っているが、クルー達の暗い心境を解消する手立ても満足にうてない。
自分達ですら落ち込みたいのを我慢している程なのだ、気持ちの余裕すら持てないでいた。
トップクラスの上司達を間近に見つめるブリッジクルーは慰めたいとは思っているものの、沈痛な表情を隠せずにいる。
辣腕のブザムですら何とも出来ない今の状況を、自分達が改善できる訳がないという気持ちがあるのだ。
実質、敵を完全撃破するには戦力も戦略も蜘蛛の糸のように儚く細い。
警備・機関・クリ−ニング・イベント・整備・レジ・キッチン・エステ等など、海賊団の主要スタッフ達は皆戦いの様子に陰鬱でいた。
艦内は水を打ったように静まり返っており、明るい表情をしている者など一人もいない。
マグノ海賊団設立以来の危機と心の暗礁。
その中で特に絶望と恐怖に晒されている女性が、レジシステム内の隅に頭を抱えて座り込んでいた。
「私には・・・・無理よ・・・・・」
日頃は優美に流れる金髪も輝きを失ったかのように力なく垂れており、妖艶な美貌は暗い影を落としている。
今日初めてのリーダー補佐役を務めていたジュラであったが、完全に自信を失っていた。
今更ながらに、ジュラはメイアが普段どれだけ困難な仕事を当たり前のようにこなしていたのかを知ったのだ。
ジュラがのびのびと何も考えずにパイロット業に勤められたのも、余裕でいられたのもメイアがリーダーとして頑張っていたからなのだと。
メイアが退陣し、自分が実質上のリーダーとなった時の責任感の重さはジュラの想像を遥かに越えるだったのである。
「メイアの代わりなんて・・・・私にはできっこない・・・・」
レジシステムには、現在戦えるパイロット達が全員集まっている。
包帯からガーゼを張る者まで様々だが、皆が示し合わせたようにレジに集合したのだ。
誰もが一人でいては気が狂いそうな心境であり、とにかく何か言葉を口に出さなければ胸が押しつぶされそうな圧迫感があるのである。
ジュラは戦闘待機中は蛮型が格納されている主格納庫にいるのが義務付けられているのだが、今回ばかりにはお咎めはされていない。
チームワークを立て直すには、現状のリーダー役を務めるジュラがいなければ始まらないからだ。
パイロット達やマグノ達重鎮はそう考えており、ジュラがパイロット達と共にレジにいるのは当然とさえ思われている節がある。
しかし、当人であるジュラはそんな考えは微塵もない。
むしろそんな周囲からの期待が、ジュラを強烈なプレッシャーとなって押し潰そうとしていた。
現況を改善し、皆の不安を一掃し、敵を倒して勝利へ導く。
声を大にして言いたかった。
自分には無理だと、そんな大それた事を出来る訳がないと。
座ってなければ倒れてしまいそうなジュラの胸の内に、ある言葉が冷たく突き刺さる。
『この戦いが負けたらお前のせいだぞ!!』
勝ってこそリーダー補佐の役目、負ければ全て自分の責任。
マグノ海賊団全員を救う救世主役を暗に背負わされている事に、ジュラはもう耐えられなかった。
隅で壁にもたれ掛かって嗚咽を漏らすジュラだったが、そんな彼女の頭上に大きな影が覆う。
「こんな隅っこで何泣いているんだい」
「ガスコ・・・さん・・・・・・」
頬を伝っていた涙を拭いてジュラが顔を上げると、そこにはレジシステム店長のガスコーニュが立っていた。
表情こそ厳しくはあったが、ジュラを見つめるその瞳には思い遣りがこもっている。
ガスコーニュに見つめられ、弱気な態度でジュラは心の内を語った。
今ではもう虚勢を張る元気も、自身を鼓舞する心の余裕もジュラにはない。
自分を信頼してくれている親友のバーネットや仲間のパイロットには到底言えなかった弱音を、ジュラはポツリと口に漏らす。
「私には・・・メイアの代わりなんて・・・出来ない・・・・」
本当に限界だったのだろう。
声こそ小さいが、この旅に出て初めて自分を否定する言葉をジュラは言葉にした。
誰にも言えない気持ちだったが、目の前の頼れる姉さんでもある古くからの自分の上司たるガスコーニュには話せる。
それだけジュラがガスコーニュを信頼しており、マグノやブザムよりクルー達に近しい人間である証拠でもあった。
ジュラの後ろ向きな言葉を耳にして、ガスコーニュはゆっくりとかみ締める様に口に出す。
「・・何を思い上がっているんだい」
「え・・・?」
思いもよらないガスコーニュの言葉にジュラが視線を向けると、ガスコーニュはゆっくりと近づいてくる。
そのまま大柄な体格を膝を曲げて屈み、まるでジュラを威圧するように眼前に顔を持って来た。
「誰もお前さんにメイアの代わりなんて期待しちゃいないんだよ」
「!?・・・・・・」
初めから仲間に期待されていなかった。
ガスコーニュの辛辣な指摘に愕然となり、ジュラは言い返す事も出来ずに唇を振るわせた。
無力に崩れそうなジュラに、ガスコーニュは静かに諭す。
「よく聞くんだ。いいかい?
お前さんはジュラなんだよ。メイアじゃない。
だから安心して、皆に頼ればいい」
今にも現実から逃げそうな脆さがあるジュラに、ガスコーニュは力づけるように優しく微笑んで顎で指した。
「周りをしっかりと見てみな」
「・・・・・・・・・・・あ・・・・・・」
レジクルーにパイロット達。
そのどれもが必死で働いており、怪我を押して話し合う様子が見られる。
どの顔どの顔にも悲壮感が漂っており、気持ちの余裕が見られない。
指摘されて、ジュラはようやく気づいたように声を上げる。
苦しんでいるのは自分だけではないのだ。
この船にいる限り、仲間達と行動を共にする限り、一蓮托生であり続ける。
「苦しいのも、辛いのも、皆同じなんだ。
だから、自分が出来ない事を無理にしようとする事はない。
何が出来て、何が出来ないのか、ちゃんと皆に伝えてあげればいいんだ」
メイアがドレッドチームのリーダーという事実は、メイアが離脱したからと言って変わる事は当然ない。
同時に、ジュラがリーダー補佐である事という事実もまた変わる事はないのだ。
補佐は補佐であり、リーダーではない。
もしその事実を仲間達が勘違いしているのだとするのならば、自分の口から言わなければいけないのだ。
伝えなければ今回のようにバーネット達がジュラに多大な期待を寄せてしまう結果となる。
無理をしようとして分を超えた頑張りを見せた所で、それが必ずしも成果に結びつくとは限らない。
自分を見つめ、仲間をもっと信じる事。
ガスコーニュはジュラにその事実を伝え、最後にこう締めくくる。
「ジュラがきちんと言えば、後は皆が何とかしてくれるさ」
一時の恥か、一生の恥か。
何が大切で、何が間違えているのか、その境目は本当に危うい。
たった一つの過信が、たった一つの過ちが全てを台無しにしてしまう。
ジュラはこの戦いで自分の器量を知った。
自分一人では出来ない、だからこそ仲間がいるのである。
ガスコーニュの大人の説得力に、ジュラはようやく落ち着いたのか表情に生気が戻る。
少し悩ましげに顔を俯かせ、瞳に力を乗せる。
「・・・何とか・・・やってみる」
「ん、その意気だ」
ようやくの立ち直りを見せた事が嬉しいのか、ガスコーニュは口元を緩める。
ジュラも釣られたように表情を緩め、ふと不安そうに曇らせた。
「・・・・ガスコさん」
「どうしたんだい?」
「皆を・・・何とか元気づけられない?」
ジュラは真摯な顔つきで、ガスコーニュに頼み込む。
自分を元気付けてくれたガスコーニュなら、クルー達が慕っている人望の厚い目の前の人なら。皆を救えるのではと思ったのだ。
見ているだけで辛そうなバーネット達の暗い表情。
普段の仲間達の明るい笑顔を知っているジュラは、何とかして取り戻したいと心から思っているのだ。
戦いに勝たなければ意味がない、それはわかる。
だがそれ以上に、危機的状況に立たされて怯える仲間達を奮い立たせなければ始まらない。
それは生死の境を彷徨っているメイアもまた同じ事が言えた。
ジュラの切なる願いに、ガスコーニュは皆を見つめて首を振った。
「・・・・アタシは神様じゃない。
励ます事は出来ても、本当の意味で皆を支える事は出来ないよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ガスコーニュとて全能ではない。
現況を憂いているのも事実なら、皆と同じように悩んだり苦しんだりしているのだ。
恐怖や悲しみはガスコーニュもまた無縁ではない。
悲観的な返答にジュラが肩を落としていると、ガスコーニュはけど、と言葉を続ける。
ジュラがはっと顔を上げると、どこか遠くを見つめて笑みを浮かべているガスコーニュの姿があった。
「・・・何とかしそうな奴には心当たりがあるけどね」
「心当たり?」
不思議そうに目をパチパチするジュラに、ガスコーニュは言った。
「そう。だから、あんたは自分の出来る事に集中しな」
ガスコーニュの言葉を区切りに、ジュラは戸惑いつつももう一度はっきりと頷いた。
静かだった。
外部からの衝撃音も防音壁に遮られて、場の静寂を乱すのは船全体より沸き起こる揺れのみである。
元旧艦区主格納庫。
タラーク軍が誇る蛮型の数々と、メイア・ジュラ・ディータの改良型ドレッドが収納されている保管庫。
現在照明は使用されていないものとして消されており、暗闇が全体を覆い尽くしている。
静謐に包まれている影の中、ある一体の蛮型のコックピット内のシートに一人の男がじっと座り込んでいた。
「・・・・・・・・」
額には乾いた血がかさぶたとなって張り付いており、肩口からは痛々しい裂傷の跡が見られる。
ガスコーニュの手引きで主格納庫へと強制送還されたカイは、どこへ行く事もなく一人じっとしていた。
怪我の治療も行わず、蛮型から降りる事もない。
彼方此方のパーツを破損させたカイの蛮型は、酷使した末の無残な有様を晒していた。
「・・・・くそ・・・・」
コックピットのハッチは開かれており、血が飛び散っているコックピット内が正面から見えている。
SP蛮型搭乗者のカイは吐き捨てる様に呟いて、視線を虚空に向ける。
瞳には何も映ってはおらず、カイもまた何も見ようとは思わない。
精神的にも肉体的にも疲労の限界が訪れている筈なのだが、カイの胸にあるのは虚しい空洞だった。
戦場では荒れ果てていた感情は消え失せており、まるで人形のように無表情でいる。
何もしたいとは思わなかった。
戦う事すらどうでもよくなっており、海賊達やドゥエロ達二人の元へ行く気にもならない。
今はただ一人でいたかった。
シートにもたれたまま微動だにしないカイの脳裏に、先のガスコーニュの言葉が思い浮かぶ。
『カイ、メイアが危篤だ』
危篤。
カイが記憶喪失であるとはいえ、タラークにおいて教育の一切を受けてはいないにしても、言葉の意味は知っている。
人という生命体の死に間際。
この世とあの世の境目とも言える水平線に、メイアは今漂っている状態なのだ。
カイはぼんやりと暗闇に視線を向ける。
『もう・・・助かる見込みはないらしい』
ガスコーニュの言葉が本当なら、メイアはドゥエロの手に負えない状態にあるという事。
すなわち、メイアを助ける事の出来る人間はこの船に一人もいないという事だ。
もう誰も助けられない。もう誰も救えない。
ただ、死ぬという事実を見続ける事しか出来ない。
『メイアが・・・・それを望んでいるとしたら?』
「何でだよ・・・・何でだよ青髪!!」
カイの声は格納庫内に響き渡り、反響して広がっていった。
分からなかった、理解出来なかった。
死を望む人間の気持ち、死に委ねる事を良しとする心の有様。
カイは死に逝こうとしているメイアにどうしても理不尽さを感じずにはいられない。
死ねば全ては終わってしまう、もう何も出来なくなるのだ。
悲しむ事も、苦しむ事も、喜ぶ事も、楽しむ事も。
そして――――笑顔でいる事も。
「そういえば俺・・・・・・・」
カイは気づく。
「あいつの笑顔・・・・見た事なかったな・・・・・」
いつもいがみ合っていた。
協力する事は幾度か合っても、それは利害が一致したからに過ぎない。
目的がなければ、会う事も避けていた。
仲良くしたいとも、触れ合いたいとも、微塵にも思わなかった。
そんな人間だった、そんな女だった。
女が敵であるというタラークの教えはどうでもいい。
メイアという人間そのものを嫌っている、その認識だけでカイはメイアを拒絶していた。
相反する者として、メイアもきっと同じ様に思っていたはずだ。
どちらかが敬遠しているのではない、両者共に避け合っていたのだ。
否定する気はない。
ならば――
どうして――
俺は――
こんなに―――
『さっきも言ったよね。メイアの死にあんたが納得できるのかって』
「出来るわけ・・・ねえよ・・・・・・・」
『メイアがこのまま死んでもいいってのかい?』
「よくねえよ・・・・・・・ちっともよくねえよ!!」
辛いの・・・・だろうか・・・・?
ガスコーニュに二度問われたメイアの死への答え。
一度目も、二度目も、答えられずにいた問いにカイはようやく答えを出した。
ようやく気がついたのだ。
何故怒っていたのか、何故辛いのか、何故憤りを感じていたのか。
「俺は・・・・お前に生きてほしいよ・・・青髪・・・・」
死ぬ事なんて望んでいない。
生きていて欲しかった、どうしても死んでもらいたくはなかった。
何故そう思うのか?
カイは自問し、そして自答する。
「青髪・・・・俺は・・・・・・お前が嫌いじゃないよ・・・」
口にして、カイは心が澄み渡るのを感じた。
まるで溜め込んでいた泥が流れていくように、胸の内に清涼感が生まれる。
自分の奥底にあった本当の気持ちを知り、カイは苦い表情を浮かべた。
「どうにもならねえのか・・・・・このままあいつは死ぬしかないのか!」
カイが気持ちに気がついたとしても、メイアの容態は変わらない。
このまま見守るだけでは、ほぼ確実にメイアは死を迎えるだろう。
ドゥエロに任せれば何とかなるとも思う。
だが、カイはどうしてもじっとしてはいられなかった。
思えばメイアが医療室に運び込まれた時から、自分はもどかしさを感じていたのだ。
「俺は・・・自分が何も出来ないのがむかついてたんだな・・・・」
怪我を治すのは確かに医者の仕事だ。
敵と戦うのはパイロットの仕事だ。
自分には自分にしか出来ない領分があり、自分の出来る事に全力になるしかない。
自分の仕事をしろ、出撃前に言われたガスコーニュの言葉だった。
正しいとは思う、何も出来ない事は分かっている。
自分は魔法使いではない、怪我を治す術など持っていないのだ。
だけど――
「宇宙人さん・・・・・」
「赤髪・・・・か?」
「うん・・・・・・・・」
光量がないので一メートル先も見えない状態だったが、カイは声で誰が入ってきたか分かった。
表情は何も見えないが、声からディータが沈んでいるのがカイには分かる。
「宇宙人さん・・・・」
「どうした?」
もう気分は落ち着いているので静かにカイが尋ねると、ディータはぐすっと鼻を鳴らす音を立てた。
恐らく泣いているのだろう、話し掛ける声すら涙に濡れていた。
「リーダー、死んじゃうのかな・・・・?」
「・・・・・・・・・」
カイが黙っていると、ディータは悲しみに暮れたまま言葉を続けた。
「皆、もう駄目なのかな・・・・・・?」
「・・・・・・・・・」
仲間の危機を、苦しむ姿を艦内のあちこちで見てきたのだろう。
感受性の高いディータが仲間の悲痛な表情に心を痛めているのがありありと分かる。
カイにこうして弱音を吐けるのは、カイに助けを求めているのかもしれない。
「そうなったら、ディータ・・・・・」
「おい」
「え・・・?」
とつとつと話していたディータを遮るようにカイは小さく、だが強い声で呼びかける。
戸惑ったような声を出すディータに、カイは言葉を投げかける。
「俺は何だ」
「え、え・・・?」
「もう一度言うぞ。俺は何だ」
「え、えと・・・・宇宙人さん・・・・・・」
「もう一度言うぞ」
カイはコックピットから降りた。
怪我も何も気にしないまま、カイは暗闇の中で笑った
「この俺は何だって聞いているんだよ、赤髪!」
揶揄するような、それでいて暖かいカイの声。
いつもの普段のカイだと気がついた時カイの言いたい事が何か分かり、ディータもまた明るい声を上げる。
「宇宙一のヒーロー!」
「そうだろうが!」
「うん!」
「宇宙一のヒーローにな、不可能な事なんぞねえんだよ!」
「うん!!」
「宇宙一のヒーローはな、この程度の事で負けないんだよ!」
「うん!!!」
ディータの声に再び涙の色が浮かぶ。
だが、それは決して悲しみではない。
カイは大きな声で、全ての暗雲を吹き飛ばすように叫んだ。
「宇宙一のヒーローがいる限り、青髪は死なねえんだよ!」
「っ・・・・・・・・・・うん!!!!」
何の根拠もない。
だからといって希望を否定して何になるというのだろう。
メイアを助けるのは不可能?
誰がそんな事を決められる、どうしてそんな事を断言できる。
未来は夢と同じである。
叶えようとしない限り、変えようとしない限り、何も変わらないのだ。
そう、いつだって自分は自分のやりたいようにやって来たのだ。
誰かに言われてやったのではない。
カイはようやく自分のスタンスを取り戻した。
暗い格納庫に明るい灯火が宿った時、蛮型の通信回線が開かれてジュラの声が響く。
『皆、聞いて!』
蛮型の内部機能はそのままだったので、カイやディータにも音声が耳に届いた。
二人が耳を済ます中で、ジュラの音声のみが元気よく響いた。
『バリアとビームの周波数を変動させる。送ったデ−タのパターンにあわせて!
そうすれば同士討ちだけは避けられるわ!』
ジュラなりに考えた今後の打開策だった。
内容だけを見つめれば、根本的な解決とは程遠い。
確かに周波数を変動させる事により、味方の撃つビームはドレッドより出力されるバリアには反射するだろう。
チームワークの乱れの原因の一旦だった仲間同士の混線はこれで回避できるだろうが、
この作戦でもチームワークを回復させるには、皆を引っ張る者か指導力を持つ者が必要となる。
そして何より、落ち込んでいる皆を何とか励まして前向きにさせなければいけない。
そういった意味では心もとない提案かもしれない。
しかしジュラにとってはこれが精一杯であり、大きな前進への一歩なのだ。
仲間を信頼しているからこそ、ジュラは全てを出し尽くして戦いに挑もうとしている。
「・・・なるほど!そういう手があったか。
あいつ、なかなかやるじゃねーか」
カイはジュラの心意気を知り、好意的な笑みを浮かべる。
そして何か閃いたのかしばらくそのまま考え込むように思案し、カイは拳を握ってパンと景気よく鳴らした。
「さーて、次は俺の番だな。
あの馬鹿共に教えてやるぜ。戦う事だけがヒーローの仕事じゃないって事をな!」
カイはそのままコックピット内に入り、通信回線を開く。
回線領域は艦内全域。
この船にいる全ての女性に――
そして今まさに眠ろうとしている一人の少女に届くように――
<Action10に続く>
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