VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 6 -Promise-






Action8 −危篤−




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 苦戦に次ぐ苦戦、激戦に次ぐ激戦。

メイアというチームの指揮官が戦線離脱して、チームの頭脳線であるマグノ達は対策を練る事すらままならずにいる。

結果チームメンバーは実に半数以上の負傷者を出して、撤退を余儀なくされていた。

チームワークすら成り立っていないドレッドチームを立て直すためにと、副長ブザムが選んだ苦渋の選択である。

ブザムとて分かっている。

このまま撤退させれば、僅かでも機能していた防衛線が完全に消えて母船は丸裸となってしまう。

敵は悠々とニル・ヴァーナ攻略に全戦力を投入する事が出来て、集中攻撃をかける事が可能なのだ。

撤退命令が下されて数十分、圧倒的な速度を誇る鳥型を筆頭にキューブ型数百機が母船シールドに全方位でビームを放っていた。

青白い閃光を宇宙に散らして、母船そのものが悲鳴を上げる。

現状ではまだ完全にシールドが破られた訳ではないが、このままではもはや時間の問題であった。

何とか対抗しようにもドレッドチームは全機退却をしており、ブザムの命令なしでは勝手な行動は出来ない。

副長からの命令はクルーにとって絶対であり、破る事は自分の生命すら危うくする可能性があるからだ。

それほどまでにブザムの戦略的頭脳は卓越しており、マグノ海賊団がここまで規模が大きくなったのもブザムの功績が大きい。

そのブザムも現状況には頭をフル回転させても対処すら出来ずにいるのだが、それも無理はない。

敵の戦力が常識を超えた規模であり、その能力は人知を超えているからだ。

休む事無く襲い掛かる無人兵器に対して、ドレッドを操るパイロットも策を立てるクルー達も人間である。

戦い続ければ疲労が蓄積し、追い込まれれば精神が磨耗してしまう。

人間ならば誰でも当たり前であり、どれほど歴戦の戦士であれ弱気になるのも無理はないのだ。

しかし――

数ある修羅場を越えた海賊団の女性パイロット達が全員退いていたにも関わらず、一人戦い続ける一人の男がいた。


「ふう・・はっ・ぐ・・・・・」


 口から出る呼吸は苦痛に塗れており、額から流れる汗には血が混じっている。

外部モニターに映し出される敵を見つめる瞳のみが禍々しい光を放っていた。


「ど・・・どこにいきやがった・・・あの野郎・・・・」


 肩口は痛々しい怪我があり、何の応急処置もされていない。

操縦桿を握る手は震えが走っているが、コックピット内で戦い続ける男に恐怖はない。

苦難に陥っている海賊達を支えようとする気持ちも、同じ境遇の仲間二人を助けようという気持ちもない。

男にあるのは、螺旋状に絡み合った感情のもつれ。

取り除けない刺のように、絶えず付きまとう影のように、男の胸の内に芽生えたものは消える事はなかった。

キューブを何体も倒しても、キューブの群れに何度も攻撃を受けようと、男の勢いを止める事は出来ない。

男を駆り立てているのは――
















『・・・動くな』


 リングガン銃口を向けて威嚇する一人の女。


『私を殺せ・・・・殺さなければ、お前を必ず殺す!』


   自らが捕虜となる事を許さず、誇りのために自分の命を省みようとしない女。

男は初めて女を見た。
















「・・・・!?見つけたぞ!!」


 目標はたった一つ。

メイアを無残な目に合わせた嘴のない鳥型。

男は自分の機体を操縦し、矢のように一直線に目標に向かって飛び出していった。

弾丸のように突き進む男の機体は鳥型を倒すまでは止まらないだろう。

男には、それしか目に入らなかったから――
















『ん・・・・』


 男の背に女がもたれかかる。

ピロシキ型との戦闘後男と女は一体化して、女は意識を失って男の背に身を預ける。

男は初めて女に興味を抱いた。
















「許さねえ・・・・お前だけは・・・・お前だけは!!」


 一目散に突き進む男を嘲笑うかのように、鳥型はぐんぐん距離を離していく。

機体同士の能力の差、機体同士の破損状況の差。

鳥型は何も考えず、ただ目標をプログラミングに従って怜悧冷徹に破壊を実行する。

男は様々な感情を胸に、ただ目標を沸き起こる感情に従って破壊を実行する。

冷静さを失っている男に、誘い込まれるように大多数のキューブ型と同型機である鳥型数機が迫り来る。

完全に周囲を囲まれて、男は叫び声を上げた。


「邪魔だぁっ!!」


 男は果敢に敵艦隊に斬りこんで行った。
 















『・・・お前に逃げられると困るからな』


 女は男の機体に乗り込む。

男は言い返す、そんな事はしないと。

対して、女は男にこう言った。


『急ごう。ディータ達に何かあっては手遅れだ』


 男は初めて女を知った。
















「クソが・・・・・」


 一対百。

男も乗っている機体も心身共に限界が近い。

何の修復もしていないまま長時間無理な操縦を続け、何の治療もしていないまま戦い続けたのだ。

気を抜くと意識を失いそうな程疲れきっており、機体は先程から緊急避難の信号を出し続けている。

各部破損を知らせる情報覧にも、頭部から脚部に至るまでの破損を知らせていた。

尚且つ、周囲は敵が密集し始めている。

どうやら敵はここで完全に男を機体ごと叩き潰す気のようだ。

男は自分の状況を再確認しようとはしなかった。

何故なら、男にとっての敵はたった一つでしかなかったから。

外部モニターには男の有効攻撃範囲から離脱していく目標がデータとして知らせた。


「待て・・・・待てやがれ!俺と戦え、テメエ!!」


 男の悲痛な慟哭にも耳を貸さず、別の鳥型数機が男に必殺のビームを四方から放った。

周囲を包囲されたこの状況下では回避する事も出来ない。


「がっ!?」


 まともに胸部を撃たれて、男は激しく仰け反った。
















『やれやれ・・・まさかてめえと考えが合うとはな・・・』


 タラーク・メジェールという相反する両国の出身者という事実を差し引いても、男と女は日常から喧嘩はしていた。


『・・・勝手にすればいい。お前はお前、私は私だ』


 男は初めて女と仲違いをした。
















「俺は・・・・」


 苦痛にまみえた身体をぼんやりと自覚する。

ビームは胴体部分を凪いで、パイロットの胸部に重圧なる衝撃を与えたのだ。

男にもう戦う力は残されていない。


「俺は・・・・・・・・・」


 額から流れる血で視界が真っ赤に染まりながら、男は答えなき声を上げ続ける。
















『お前に何を任せろと言うんだ!敵であるお前に!』


 女は男を糾弾する。

男は言葉を受け入れて、女の言葉に真っ向から立ち向かった。

女の考え方に、どうしても納得がいかなかったから。


『・・・・・お前は理不尽すぎる』


 男は初めて女を拒絶した。
















   力なく宇宙に漂う一体の機体に、キューブ達が総攻撃を仕掛ける。

主力は母船に集中、後方部隊を担当するキューブ達が孤立した男を攻撃した。

ニル・ヴァーナやドレッドとは違いシールドを持たない男の機体は、防御もままならずビームを浴び続けた。

機動性と堅固性を誇る機体だったが、囲まれて動きを封じられ、集中攻撃を受ければひとたまりもない。

装甲は砕けて剥がれ落ち、手足や頭部を繋ぐ関節部分は火花を散らしている。

このままでは男は機体ごと爆発して消滅するだろう。

大規模な敵に対して、男は機体を翔ける。

機体は最後の力を振り絞るかのように、操縦者の意志に応えて加速度を高めていく。

周りを飛び交うキューブ達も、高速飛行で男の機体を追撃する鳥型は視野にも入れていない。

危機を知らせる赤色灯が、不吉にコックピット内を照らしていた。
















『助けてくれと頼んだ訳ではない』
















「俺は・・・・・」
















『お前に助けられるくらいなら死んだほうがましだ』
















「ただ・・・・・・・」
















『お前がどうしようと私には関係のない事だ』
















「あいつに・・・・あいつに・・・・・・・」
















 男と・・・・・
















『これで清々したぜ』
















 女は・・・・・
















『お前がやばくなっても助ける必要はないからな』
















 最初から・・・
















『せいぜい宇宙で無様な死に方晒せや』
















 最後まで・・・
















『!?な・・・・・・・・』
































 

見つめ合う事はなかった――


































「あああああああああああああああっ!!!」


 心が張り裂ける。

捻じれる思いが咆哮を上げて、蓄積された感情が嵐を巻き起こす。 

血の色を塗した瞳から赤い雫が流れる。

熱せられた気持ちを吐き出さんと、男はただ絶叫を口から吐き出した。

途端、横合いから男へ急接近する一体の鳥型。

嘴に殺意を込めて、男の喉元へとまっしぐらに向かってくる。

皮肉にも外部モニターから映し出される鳥型と、男の脳裏に消えては浮かんでくる映像を思い出させた。

嘴がドレッドを庇うように立ち塞がった白亜の機体に衝突したその光景を――


『カイ!』


 破損した機体に止めを刺す事に注意がいっていたのだろう。

声と同時に突如襲い掛かってきたミサイルに対抗できず、鳥型は激突して爆発した。

一瞬の光景にただぼんやりと見つめていた男に、通信回線が開いて楊枝を口にした大柄な女性が映し出される。

女性はガスコーニュだった。


『カイ、退くんだ。敵の戦力は予想を遥かに超えている。
今のままじゃ犬死するだけだよ』

「・・・・・・・・・・・・」


 蛮型とカイは神経に至るまでリンクしており、ダメージ部分は共有される。

全身がずたぼろになっているカイは、ガスコーニュの言葉に無反応だった。

まるで聞く耳をもたないように。

実際、カイは退くつもりなど毛頭なかった。

ガスコーニュの次の言葉を聞くまでは――
















『カイ、メイアが危篤だ。
もう・・・助かる見込みはないらしい』















「っ!?」


 全身が、心が、一瞬にして冷え切った。

あれほどまでに激情が渦巻いていた胸の内が全て霧散して消え失せてしまう。

カイが呆然と通信モニターを見つめていると、ガスコーニュは不憫げな表情をする。


『ドクターからの知らせによると、呼吸が停止したらしい。
懸命に蘇生処置を行っているみたいだけど、覚悟はしておいてほしいと言われてね・・・・』

「ふざけんな・・・・・ふざけんな!!
何が覚悟だ!あいつが死ぬのを認めろってのか!!」

『メイアが・・・・それを望んでいるとしたら?』

「なっ!?
なん・・・・だと・・・・・・・」 


 衝撃的な事実に呆然とするカイに、厳しい表情を崩さないままガスコーニュは厳かに告げる。


『とにかく、まず船に戻るんだ。いいね』


 カイは答えなかった。答えられなかった・・・・

瞼を震わせて声も出せずにいるカイに、ガスコーニュは沈痛な表情をしたままデリ機にシールドを張る。

蛮型を強引に収納したデリ機は敵陣の中を駆け抜けて、母船へと帰還した。

カイは顔を俯かせたまま、何も言わずに語ろうとはしなかった。

















カイは初めて、メイアを・・・・・・・






























<Action9に続く>

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