ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action94 −肝胆−
――融合戦艦ニル・ヴァーナが鳴動した。
睨み合っていたカイ達はお互いに顔を見合わせ、一つ頷いて辺りを見渡した。
一瞬こそ警戒したが、すぐに解いた。
ニル・ヴァーナ内部で何が起きた形跡はない。誰かが動く気配もなかった。
「外で何か起きたようじゃな、心当たりはあるか。ニル・ヴァーナから誰か外へ出たとか」
「! 先程青髪がこっそり外へ出て、海賊団のアジトへ救援に向かった」
メイア・ギズボーンがマグノ海賊団アジトへ救援を呼ぶべく、リスクを承知で飛び出していった。
勿論武装満載のドレッドでは出撃出来ない為、ガスコーニュの船を借りて射出している。
デリバリー船は戦闘時の支援や救援を行うべく、ステルス機能が搭載されている。
無人兵器での死闘でも役立っていて、おいそれとは見つからない筈ではあるが――
「なぜ儂に何の相談もなくそんな真似をしておるんじゃ、バカモノ」
「お前は思いっきり俺を疑っていたじゃねえか」
「脳細胞がところてんで出来ておるのか、お主は。
儂はお主のエンジニアじゃといっているじゃろう。
あくまで過ちを糾すために事を構えただけであって、誰かを犠牲にする気なんぞないわ」
渋々という体裁で一旦矛を収めて、アイは保管庫内のシステムを起動させる。
ニル・ヴァーナの全システムはシャットダウンされて、タラーク・メジェール両軍にニル・ヴァーナは捕獲されている。
しかしシステム自体はパルフェ達が率先してダウンさせており、下手に弄られないようにした配慮でもあった。
だからこそ、一部のシステムは使用できる。
「メジェール軍部にアクセスしてみたが、両軍に動きはないようじゃ」
「何でアクセス出来る、と思ったが、お前はメジェールのスパイだったか」
メイアが発見されれば、無条件降伏した筈のマグノ海賊団が叛意を起こしたということになる。
両軍が狂ったように大騒ぎして、良くて捕獲、悪ければ即時抹殺命令が下るだろう。
しかしながらニル・ヴァーナに鳴動こそ起きたが、両軍に大きな動きは起きていない。
油断は決して出来ないが、発見されたということではないのだろうか。
「人聞きの悪い、故郷思いのオナゴじゃというのに」
「やかましいわ。それで?」
「周辺を探っておるが、警戒網に動きは――むっ」
「どうした」
「どうやら鼻が利く奴がおったらしい。
タラークの人型兵器が一機、警戒網から外れて急速に飛び立っていっておる。
恐らく明確な根拠はないが、怪しいと察して隠密行動中のデリ機を追っておるようじゃな」
「タラークの蛮型が追っているのか!?」
敵影に明確に気づいたのではなく、不穏な動きを察して自己判断で動いた軍人がいるようだ。
直観ということになるだろうが、勘一つで報告なんてすれば軍部に叱責されるだけだ。
とはいえその軍人は単なる気のせいではすませず、自分の直観を信じて勝手な行動に出たらしい。
だからこそニル・ヴァーナは鳴動しただけで、軍部に動きは見せなかったのだ。
「明確にまだ見つかった訳じゃないんだよな」
「うむ、発見でもされていればそれこそ大騒ぎになっておるじゃろう」
「でも軍人が勝手な行動に出たら、普通警戒網にだって動揺が走るんじゃないのか」
「普通はそうなんじゃが、放置されているな……これは憶測に過ぎぬが」
「ああ」
「お前さんのような人間が軍人にいて、普段から問題行動を起こしているのかもしれん。
だから今回もまた勝手な行動に出ていると、呆れ混じりに放置されておるのやもな」
「何だそれ!?」
カイ達からすると不幸中の幸いではあるが、それはそれとして軍としては問題である。
容認されているのではなく、放置されているのだ。
普段からその軍人はよほど問題を起こしているのだろう、我の強い人物であるのかも知れない。
比較対象にされてカイは憤慨するが、アイは涼しい顔をしている。
「で、どうするんじゃ」
「どうするって……」
「いかなる理由があるにせよ、この軍人の直観は間違えておらん。
まだ見つかっておらんが、このまま追跡でもされれば海賊のアジトにまで来られるぞ。
途中で気のせいだと諦めればいいが、そんな人間がこんな行動になんぞ出ないじゃろう」
「ぐ……」
そう、厄介なのは軍人の直観は正しく、メイアは本当に隠密行動に出ているのだ。
デリ機はステルス性能に優れているが、このまま捜索されれば見つかる危険もある。
見つからなくても執拗に追われれば、アジトの居所がバレてしまうかも知れない。
デリ機にも武装があるが、戦闘になればそれこそ軍部に見つかるだろう。
これまで各陣営がそれぞれの役割を持って行動していたが――ついに、綻びが出てしまった。
<to be continued>
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