ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action88 −仮題−
「俺が地球側のスパイだって!?」
「十分有り得る話であろう。儂の目は誤魔化せんぞ」
「待て待て、何なら俺が前線に立って刈り取り兵器を破壊しまくってるんだぞ」
普通スパイ疑惑をかけられれば、まず身元の証明から行う。
それが何より手っ取り早く、一目瞭然だからだ。
しかしながら、カイにはその身元がまず証明出来ない。タラーク国民を示すものはなく、酒場の店主に拾われただけの子供だからだ。
出生を証明できない以上、実績で訴えるしかなかった。
「相手を信頼させる手段とも言える。
事実、海賊の女達はこの一年間でお主を心から信頼するに至っておる。
お前も知ってのとおり海賊達は脛に傷を持つ連中で、連中は簡単に他人を信用せん。
文字通り体を張って実績を積まなければ、信頼は勝ち取れなかったじゃろう」
「それで最終的に手のひらを返すってのか」
「事実地球は総戦力を持ってタラークとメジェールを滅ぼしに向かい、海賊達はほぼ全員捕まった。
そしてお前はこの艦に残っておる――残念ながら、儂がここに残っておったがな」
「! お前がこの保管庫に隠れて残ったのは」
「ヴァンドレッドを構成するのはお前以外に、機体が必要じゃ。
ここを堅持すればお主に出来ることは限られておる」
――カイとSP蛮型。彼らのエンジニアを自ら名乗り出たのはアイ本人だった。
アイがカイに名乗り出たのは、カイがヴァンドレッドを駆り出して頭角を示した頃だった。
もしその時からカイを怪しんでいたと仮定すれば、その後の彼女の行動にも全て説明がついた。
彼女は献身的にカイとSP蛮型の面倒を見て――パイロットであるカイの実力と、SP蛮型の機体性能を分析していた。
「なんで俺が地球のスパイなんぞやらなければいけないんだ。
刈り取りの思想を考えれば、連中に味方をするなんてありえないだろう」
「臓器の刈り取りという側面を見れば、たしかに狂気じみておる。
しかし、"地球"という側面で見れば話は別じゃろう」
「どういう意味だ」
「連中は自分達こそ宗主であると高を括り、その他全てを配して生き残ろうとしている。
お主も自分が生き残るために、我々を地球に売るという事だって考えられるではないか」
「何いってんだ、そんな自分勝手がまかり通るわけ無いだろう」
「今、タラークとメジェールがやろうとしていることが正にそうではないか」
冷静に語っていたアイがレーザーガンを突きつけたまま、鋭くカイを見やる。
カイは一瞬息を呑んだが、彼女が初めて見せた感情で逆に冷静になれた。
両手を上げて無抵抗を示したまま、カイは指摘する。
「俺のことばかり言っているが、お前はメジェール側のスパイなんだろう。
マグノ婆さんからすれば裏切り者なんじゃないか」
「別におかしなことではあるまい、連中は海賊じゃぞ。
たとえ故郷に捨てられた自分達を守る為とはいえ、海賊行為を続けていい理由にはなるまい。
連中が奪うタラークやメジェールの物資だって無限ではないのじゃぞ」
そう、所詮この世にある資源は有限である。
特にメジェールはテラフォーミングにもまだ成功しておらず、船団国家としてかろうじて成り立っている。
こんな状況で海賊達から物資を奪われ続ければ、国家だって立ち行かなくなるだろう。
カイもその点は反対していたので、突き詰めることは出来ない。
「だから連中を裏切って、国家に無条件降伏させていいってのか。
メジェールはお前の言う通り、地球の手先として国民達を差し出そうとしている。
こんな状況でスパイをしたって未来なんぞないだろう」
「地球のスパイを行っているお主にも同様のことが言えるじゃろうな」
「だから違うっつうのに」
カイは内心頭を抱えつつも、考えてみる。
アイの言っていることはメジェール国家の視点で考えてみれば有益な行為であり、スパイも国を考えての軍事行動とも言えるかもしれない。
彼女は国を思って、マグの海賊団を排除するべく行動に出ている。しかしその国が、地球の手先と成り果てている。
聡明な彼女がこの矛盾に築かないはずはない。
「分かった、言い争っても仕方がない。話を整理しよう」
「自白する気になったかのう」
「アホか。
そもそもお前、俺を吊し上げてどうするつもりなんだ」
「どうするとは何じゃ」
「俺が本当に地球のスパイなら、地球側の人間になる。
で、メジェールは地球の手先に成り果てている。
つまり巡り巡ってお前と俺は同じ陣営のスパイになるんだから、こうしていがみ合う理由にはならなくなるぞ」
――そういう事になる。
メジェールと地球の関係を明確に示すものはないが、メジェールやタラークの動きを見れば一目瞭然だ。
マグノ海賊団が地球に関するメッセージポットを送った結果がこれなのだから、彼らは明らかに地球の敵となったマグノ海賊団を排除している。
メジェールと地球が繋がっているのであれば、同じ立場のスパイ同士が争っていることになる。
「ここでお主の実態を知ることはプラスになれど、マイナスにはならん。
お主が地球のスパイだと明らかになれば、地球側の動向も探れるやもしれんしな」
「地球の実態なんてどうやってしれってんだ」
「あのユメという精霊は今までの言動や態度、そして行動からして明らかに地球側のオリジナルペークシスであろう。
あの娘を通じて地球側に情報を渡していたのであれば、逆に地球側から何かを受け取っているかもしれぬ。
お主が本当に地球のスパイでないなら、なぜあの娘に何も追求しない。そうした行動に出ないことが、何より怪しい」
「いやさっきミスティにも指摘されて、ユメに追求したけど?」
「え?」
「え?」
――沈黙が支配した。
<to be continued>
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