ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 24 "Men and Women"






Action87 −木野−








「後は儂自身の責任を果たす時が来た」

「責任はすべて果たしてくれただろう」

「それはあくまで儂の仕事じゃよ。これから果たすべきは責任じゃ」

「だから責任って――っ」


アイと呼ばれる少女は奇抜な服装と物言いをする人間で、海賊団の中でも浮いた存在である。

独特の気品があり、世間離れした器量と容姿を持っているが、独自の価値観が浮世離れしていて浮いてしまう。

世間にも馴染めず、国からも追い出されて、海賊に入った。そういった経緯を持っている――


と、本人が周囲に語っていた。


「本当に単細胞な男じゃの。少しは考えなかったのか」

「お前、どういう――」


 カイの専属エンジニア、彼女の名前はアイ・ファイサリア・メジェール。

少女の出身は、少女の口から語られている。


彼女本人が、そう言っているだけである。


「副長のブザムがタラークのスパイだった。ならば――
メジェール側にもスパイが居るのだと、考えんのか」


 ――カイが並び立つ隣を見た瞬間、銃口が向けられる。

マグノ海賊団の標準装備であり、メジェール軍の兵士が愛用するレーザーガン。


殺傷能力は低いが、決してゼロではない。


「……お前も、メジェール側のスパイだったという訳か。果たすべき責任とは何だ」

「政府側の人間で女海賊への責任とあれば、果たすべき事は一つじゃろう」


 メジェール政府にとってマグノ海賊団とはどういう存在か、もはや語る必要もないだろう。

強弁を恐れずに言えば不倶戴天の敵、ある意味では男性国家タラークよりも始末に困る存在であるかも知れない。

同じ女でありながら自国より物資を強奪する海賊達、ただでさえテラフォーミングも上手く行っていない船団国家とあれば疲弊する一方である。


壊滅させるためであれば、もはや手段を選んでいられない。


「この旅を始めるにあたって我々が故郷に向けて発信したメッセージポットを覚えておるか」

「刈り取りの危機を訴えたアレか。まさかお前――」

「スパイが情報を仕込むのにうってつけであろう。
もっとも流石にお頭達もチェックするポットにあからさまな種は仕込められん。

だから怪しまれんように、故郷への帰還予定日時を逆算して伝えておいた」

「! だからあいつら、万全な態勢で待ち構えられたのか」


 カイ達はあくまで故郷からワームホールで飛ばされた以上、故郷からの正確な距離は掴めていなかった。

故郷への針路は掴めていたが、実際の距離まで正確に把握するのはほぼ不可能である。ならばどうして機雷まで仕掛けて、両軍揃えて待ち構えられたのか。

勿論タラークやメジェール上層部は地球の言いなりなのだから、マグノ海賊団が送ったメッセージ自体はある意味で無駄であり、どのみち待ち構えられてはいただろう。


しかしスパイの手が入れば――そして優れた計測技術を持つ人間がいれば、ある程度であっても帰還予定日時は計算できる。


「どうして裏切ったと聞くのは無駄か」

「海賊相手に情をかける余地なんぞなかろう」

「仲間意識とか芽生えたりしないのか」

「自分で言ってて虚しくならんのか、お主。結局最後まで海賊に加わらなかったくせに」


 ドゥエロやバートは捕虜になったとはいえ、元々はタラークの士官候補生である。海賊に誘う余地はない。

しかしカイはあくまで労働階級であり、マグノ達から見れば単なる下働きの小僧である。

だからお互いの関係が深まった時は海賊に誘われたし、カイが断った時はジュラ達にも落ち込まれたりしたものだった。


カイはマグノ達を仲間だとは思っているが、海賊を受け入れた訳ではなかったのだ。


「えっ、じゃあなんで俺に銃を向けているんだお前。海賊じゃないぞ」


 ここまで話してふと我に返り、カイは追求する。

そう、カイはマグノ海賊団に入っていない。そしてマグノ達はカイに海賊に関する事は何も教えていない。

どんなに脅そうと、暴力に訴えようと、知らないものはどうしようもない。


むしろスパイをしていたというアイの方が、マグノ達のことを掌握しているだろう。


「連中は確かに海賊じゃが、言い換えるとメジェールの海賊であることは分かっておる」

「だがお前は別じゃ、カイ」

「俺はタラークの――」


「記憶喪失などとほざいていた人間が何をぬかす。
ヴァンドレッドという超兵器を構成する要のパイロットであり、精霊などという超常的存在をこの船に招いた張本人。

地球側のスパイという見方もできるんじゃぞ」

「なっ……」


 ――カイはこの度を通じて客観的な視点を持てるようにはなった、が。

成長にはどうしても限界があった。


自分を客観視するのは、まだまだ経験不足だった。

















<to be continued>







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