ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action86 −自元−
「マグノ・ビバン――あなたは心臓に、病を抱えているな」
「……」
「人生を最後に迎えて、せめて何かしたくなったのか」
――当然かつ当たり前の話だが、囚人となる人間は精密検査を強制させられる。
健康診断などという身体を気遣うような処置ではない。
流刑にまで処される犯罪者を警戒し、体内に何か隠していないか徹底的に調べ、尚且つ伝染病などの危険がないか診断するためだ。
監獄長は、マグノ・ビバンの診断結果を持っている。
「……ふう、まさか医者でもない人間に余命を告げられるとは思わなかったよ。
うちの船医がなかなか鋭くてね、これでも表面上には出さないように注意はしてたんだが」
「むしろ何故船医に診て貰わなかった。
危険な旅路で治療を行わないなんて自殺行為だ」
マグノ・ビバンの態度を見て、監獄長は戦慄した。
もしかしてとは思っていたが、マグノ・ビバンは自分の病状を把握していた。
それはつまり自覚症状が出ていたということだ。
胸の病気で自覚できるほどとなれば、表面上にも相当な症状が出ていただろう。
「私も医者でこそ無いが、囚人の診断結果は幾つも見せられている。
おそらく相当な痛みがあったはずだ」
「そういう意味では不幸中の幸いだったよ。
お頭として皆の前に立っていた時は症状が出なかったんだからね」
マグノ・ビバンが苦笑いを浮かべ、監獄長はその時初めて憐憫めいた表情を浮かべた。
政治犯が多数収容される流刑の監獄、ある種メジェールの闇が潜む場所の管理を命じられる立場に愚鈍な人間は選ばれない。
監獄長はマグノの浮かべた表情を見て思い知ったのである。
マグノは延命する気はなく、自分の死を受け入れているのだと。
「お願いできる立場ではないのは理解しているが、老い先短い人間の頼みを聞いちゃくれないかね」
「……なんだ」
「病気のことはうちの子達には話さないでほしい。
一応弱みを見せているんだ、これで取引ということにしておいてくれないかい」
確かに、仲間への秘密となれば弱みにはなるだろう。
メジェール政府が恐れるマグノ海賊団のお頭の弱みを握ったとあれば、その功績は大きい。
何しろ今日に至るまで反抗こそしていないが、極めて不可解な行動を続けていたのだ。
彼女の弱みを握れたとあれば大きい、が――
「死を受け入れた人間の弱みなど握っても仕方ないだろうに」
「ふふ、まあ制限時間のある秘密ではあるけどね。
脅しの一つくらいは出来るだろうよ。
あんたの顔を立ててせいぜい大人しくしておくから許してやっておくれ」
「むっ……」
制限時間があるとは言え弱みを掴んだとあれば、しばらく手綱を握れるだろう。
思いがけない成果となったが、すぐに納得と疑問が交差する。
自分の命が危ういから、この流刑の地で仲間や囚人達を更生させようとしている? 動機としては非常に納得できる。
しかし海賊団のお頭ともあろう人間が、それはそれで達観し過ぎではないだろうか。
「分かった、この事は誰にも話さないことは約束してやる。
この事実を知っているのはお前達の身体を調べた人間と、私だけだ」
「おや、政府には伝えていないのかい?」
「お前達の処分については裁判の結果ではあるが、同時に政府の決断でもある。
仮にも第一世代の人間が重い病気を抱えて流刑されたとあれば、政府側も対処しかねるだろう。
この時期に余計な波紋を起こしたくないという点では、私や政府の認識は一致しているはずだ」
マグノ・ビバンを殺したいのであれば、無条件降伏した時点で既にやっている。
おいそれと命を奪えないからこそ裁判まで起こして、流刑させたのだ。
そういった意味ではむしろ死んでほしくないようにも見える。だからこそ厄介なのである。
命つきようとしている女性は、一体何を考えているのか。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.