ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 24 "Men and Women"






Action73 −嘉瀬−








「地球からの移民船。第一世代が乗船していた船ですね」

「タラークに辿り着いたのは八聖翁だけじゃない。移民船団当時の人々が今もコールドスリープで眠りについている」


 ドゥエロやバートにとって、久しぶりに聞く朗報だった。

刈り取りを実行しているのが地球、移民達の臓器を狙っているのが地球人。

狂気に襲われていて正気を失いかけていたが、理性を持って聞き出してみれば意外とあり得る事実であった。


地球人だからといって、誰も彼もが刈り取りの狂気に狂っている訳ではない。


「ご指摘ありがとうございます。確かに我々は地球を敵視するあまり、地球人そのものを敵とみなす考え方がありました」

「かてえな、ニイちゃん。いや、真面目というべきか――あの野郎も少しはニイちゃん達を見習えばいいのによ」

「カイはカイで存外、物事を真面目に考えたりもします」


 ドゥエロは感銘を受けたように頭を下げると、カイの父親であるマーカスは苦笑して手を振った。

地球人だから全てを憎む必要はない、その通りであった。

当然楽観的に考えるのは危険だが、何もかもを悲観的に考え込む必要もまた無いのだ。


ドゥエロは今一度冷静に頭を切り替えて、提案された話を吟味する。


「移民船団当時の人々が味方になってくれるのであれば大変心強いです。
しかしながらその点については八聖翁も警戒しているのではありませんか」

「言ってみれば同じ地球人であり、第一世代。連中と変わらない立場だからな。
全員起きて常識的な考え方を訴えれば、八聖翁の立場は足元から崩されるだろうよ」


 マーカスの考え方はあくまで移民船の人達が真っ当な思考を有していることを前提としている。

これもまた楽観的な考え方であり、最悪移民船の人達も地球の狂気に染まっている可能性は確かにある。

それでも希望を見出しているのは、八聖翁を始めとした刈り取りの者達の考え方が明らかに異常だからだ。


地球から出立した人達、そして他の惑星で生きる子孫達の臓器を奪うなんて正気の沙汰ではない。


「八聖翁からすれば海賊達よりも厄介な存在ということですね」

「とはいえ排除もできない。同じ地球人だし、眠りについている同胞を反乱の予兆もなく殺す事は出来ないからな」

「我々は地球の生贄に捧げようとしていても、同胞は殺せないと」

「人間ってのはスッパリ割り切れないからな、その辺」


 ――少なくとも、このタラークで士官候補生として生きてきた頃のドゥエロなら理解できなかっただろう。

タラークという国家そのものを売り渡しかねない真似をしておいて、同じ移民の人達は意味もなく殺せない。

地球に全てを捧げればどのみち全員死ぬ運命だというのに、自分たちの手では殺せないのだ。


狂気の中の正気。複雑な人間の感情を、船医として一年間生きた今のドゥエロでしか理解しづらかった。


「では今の彼らはどのように扱われているのですか」

「八聖翁の一人が守っている。一番確実だろう」

「なるほど、守り人がいるのですね。納得です」


 自分たちの手でが殺せないからこそ、自分たちで秘密を守る。

言わば監視の役目ではあるが、ある種一番手堅く納得できるやり方であった。

同じ八聖翁であれば監視は行き届くし、他の者達が接触するのは困難だろう。


ドゥエロ達も迂闊に近づくことは出来ない。


「ただ、芽が出ねえわけじゃねえ」

「と、いいますと?」

「その八聖翁は変わり者らしく、タラークの政治には口出ししてねえらしい。
俺も詳しい話まではわからねえが、監視も自分から申し出たらしいぜ」


 ――移民達を守る第一世代の人間。

迂闊に接触すればドゥエロ達の行動がバレて、粛清されてしまう。

もし事情を汲んで味方となってくれれば、外でもない八聖翁から離反させることができる。


思い切った手段、起死回生となるか――破滅するか。

















<to be continued>







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