ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action63 −江渡−
マーカスという男は、いわゆるナイスミドルである。
熟年の男が築き上げた人生がそのまま形成されたかのような、容姿。
見た目の格好の良さだけではなく、年齢に相応しい思慮深さを兼ね備えた人物像。
そんな男に出迎えられたドゥエロ達は、礼節を持って接する。
「若い世代にしては礼儀をわきまえているようだな。軍人ってのは荒くれ者ばかりでまいる」
「恐縮です。突然の訪問、ご容赦ください」
「ここは酒場だ。一見さんは面倒だが、うちの小僧の知り合いなら話は別だ」
酒場の中は薄暗くはあるが、意外と清潔に整えられていた。
生活空間の一部でもあるのだろう、手入れ自体は行き届いていた。
お客さんを歓迎する雰囲気こそないが、少なくとも客がくつろげる環境は出来上がっている。
ドゥエロとバートが空いた席に座ると、マーカスがコップに水を入れる。
「酒くらい奢ってやってもいいが、何やら話があるようだからな。これで我慢してくれ」
「この惑星では水も貴重な資源です。ありがたくいただきます」
「肩のこりそうな兄さんだが、目上の人間を気遣えるのは上々だ。
そっちの兄ちゃんはボロが出ないように恐縮しているようだが、別に気にしねえから肩の力を抜きな」
「は、はあ……恐縮です」
バート・ガルサスという男は元来より、目上の人間を敬える人間である。
海賊のお頭マグノ・ビバンにも女でありながら決して逆らわず、厳しく叱責されても従ってきた。
マグノは口にこそ出さないが、そんなバートを可愛がっている。
駄目な人間ほど可愛いという典型例だった。
「ここへ来たということは、カイからうちの事を聞いたのか。
あいつはどうしてる。いちいち親に会いたくないなんぞという可愛げのない理由なら別にいいんだが」
「ご安心を。少なくとも軍部には目をつけられていませんし、怪我もなく健康です。
立場がややこしく軍を通すのは厄介なので、今は船に残ってもらっています」
「なるほどな、たく……
あいつから話は聞いたかもしれないが、あのバカはヒーローなんぞ夢見て半ば無理やり軍艦に乗り込んじまったんだ。
一応下働きの身で乗船はしたが、聞いた話じゃ女海賊に襲われて行方不明になったってんだからな。
この惑星に帰るってんじゃ、どうしたって立場がややこしくなる」
この話を聞いて、ドゥエロはマーカスという男が政治や軍事に精通していると認識する。
階級こそなくても、政治的な背景を理解している。だからカイの立場もわかっている。
軍事についても状況を理解しているからこそ、ドゥエロに追求したりしないのだろう。
話がわかることを前提に、ドゥエロは説明に入る。
「我々が本日カイの友人として、貴方に会いに来ました」
「ふむ、どうやら複雑な事情があるようだな……ちょっと待て」
マーカスは店の外へ出て、閉店作業をしている。
元々他に客はいないのだが、来客が来ないように気を使ってくれたのだろう。
特段大げさな作業をすることはなく、彼は戻ってきた。
「待たせたな。邪魔は入らねえから、詳しく話してくれ」
「はい。バート、気になった点があれば補足を頼む」
「任せて。カイの事ならいくらでも言えるからな」
「はっ、あのバカ……お前らにも迷惑かけちまったみたいだな。
親の責任として文句や愚痴を聞いてやるから、遠慮なく話してくれ」
ドゥエロやバートは顔を見合わせて、苦笑する。
話に聞けばマーカスは育ての親であって、血の繋がりはないとの事だが、少なくともカイは大事にされている。
カイも英雄願望こそあるが、生来は気のいい人間である。真っ当に育てられたからこそ、今の彼があるのだろう。
カイの親マーカスに、ドゥエロとバートは全ての真実を嘘偽りなく伝えた――
地球のことも、全て。
<to be continued>
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