ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action57 −嘘言−
カイとミスティは互いに頷き合って、先導するユメに声をかける。
基本的に人間嫌いなユメはカイや赤ん坊のカルーア以外には機嫌が悪く、つっけんどんな対応しかしない。
これでも出会った当初からすればかなり緩和された方であり、マグノ海賊団との行動にも最近愚痴をこぼさなくなった。
ミスティはともかく、カイに声をかけられてユメはご機嫌な顔で言うことを聞く。
『ユメのことが知りたいの。ますたぁー!』
「……なんか思ってたのと反応が違う」
本人の素性を探る行動なのだが、ユメは一切機嫌を悪くせずウキウキで返答してくる。
好都合な対応なのだが、ミスティは半ば呆れたように睥睨している。
ミスティも立場的にはマグノ海賊団の仲間ではなく、いわば外様である。ユメ同様、立場は危ういと言える。
だからこそ素性を探る行為に後ろめたさがあったのだが、ユメ本人が何も気にしていないとなると、それはそれで若干不満だった。
『なになに、ユメの何が知りたいのかな。ますたぁーになら何でも答えるよ』
「悪いな。別にお前を疑っている訳じゃないんだが」
カイ本人でさえやや慎重に声をかけているのに、ユメはニコニコ顔のままだった。
カイやミスティには自覚がないのかもしれないが、実はきちんとした理由がある。
これまでカイ達はユメという立体映像の存在を勿論不思議にこそ思っていたし、警戒だってしていた。
だが決して、邪険にはしなかった。大事な局面、大切な場面で、カイ達はユメを尊重してきた。
『そうだよね、ますたぁーはユメのことが大好きだもんね!』
「なんでこんなに前向きなのよ、この子」
相手が信じてくれているからこそ、自分も信じられる。
人間にとっては当然の感情を、ユメはこの一年間の旅を通じて芽生えたのである。
今までずっと人間には邪険にしてきたのに、人間達は自分を信じてくれた。
だからこそ決戦も近いこの局面において、彼女は笑っていられる。
「分かった。じゃあ単刀直入に聞くが、お前もソラと同じ精霊なんだよな」
『そうだよ。精霊という呼び方はあくまで人間側の呼称なんだけど、ソラと同じだね――ちょっと気に入らないけど』
『だったらお前は、オリジナルのペークシス・プラグマなんだな』
「うん。地球が持ってるペークシスがユメだよ」
――断言した。刈り取り部隊、地球が保有しているペークシス・プラグマであると。
言うまでもなく、地球は刈り取りという諸悪の根源である。
これから先必ず決着をつけなければならない相手であり、話し合いはおそらく通じない。
明確な敵である地球が保有しているペークシス・プラグマであると、ユメは自らの正体を明かした。
「やっぱり、あんたは地球のペークシスだったのね。何でこっちで活動できているのよ!」
『ソラがこっちにあるから。ペークシス同士は交感ができるの。オリジナルであるユメ達しか出来ないけどね、えっへん』
「何で自慢げに言っちゃうのよ、この子は」
地球側のペークシスの意思が平然とこちらで活動できる理由も、簡単に判明した。
これは半ば想像できたことではあるのだが、実際に発覚するとやはり恐ろしいものがある。
時空間を渡る手段などワームホールくらいしか考えられず、それもペークシス・プラグマの暴走によって起こった歴史的事故である。
それがこうして平然と出来ているという事実は、やはり戦慄させられる。
「オリジナルにしか出来ないということは、あんた本人しか行き来出来ないと思っていい?」
『とーぜんでしょ。あんな奴らを連れてくるなんて絶対嫌』
当然生まれてくるであろう懸念を、あろうことかユメ本人が潰してくれた。
ペークシス・プラグマを通じて交感できるのであれば、下手をすると地球が乗り込んでこれる危険性があった。
時空間を超えられる能力なんてものがあれば、マグノ海賊団達もどうしようもない。奇襲し放題になってしまう。
悪用されていれば、今頃全滅していたであろう。
「ユメはあくまで遊びに来てくれていたんだよな。ありがとう」
『えへへ、どーいたしましてだよ。ますたぁーはユメが守ってあげるからね』
最初にカイの元を訪れたのは、あくまで好奇心。
人を知るため、人を知ったソラに関心を寄せて、ユメはその意志のみで乗り込んできた。
彼女は確かに人間を知ることが出来た。試行錯誤し、悩み苦しみ、それでも前に進む人達を見てきた。
カイ達はユメに守られ、ユメはカイ達にとって人の心を理解したのだ。
<to be continued>
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