ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action47 −把持−
――請願とは、禁錮受刑者が申し出る刑務作業の事である。
マグノ海賊団は島流しによる終身刑なので、政府の意向もあって減刑なんてことは絶対に行われない。
ただ受刑者が看守に申し出ること自体は自由であり、決して悪い事ではないので一応聞き入れる。
まして海賊団の長であるマグノの希望とあれば、決して無視できない。
「まさか看守長さん自らが応対してくれるとは思わなかったよ、ありがたいねえ」
「……勘違いしないでもらおう。こちらとしては尋問のつもりだ」
船団国家メジェールは女性の国であり、看守長も年配の女性である。
女性国家であっても夫婦という関係性はあり、地球側の視点で言うところの男性役であるオーマという区別はある。
看守長は言わばオーマ的な存在であり、体格もしっかりとした貫禄ある人間であった。
囚人達が震え上がる威圧感があるが、修羅場を潜ったマグノは動じていない。
「請願を申し出ているとの事だが、降伏と捉えてもいいのか」
「おかしな事を言うね。アタシらはメジェールに無条件降伏をしたんだよ。今更じゃないか」
「私はそもそもその点から疑っている」
請願は確かに受刑者同士の間では、艦首側に尻尾を振った行為と捉えかねない。
刑務所内では社会奉仕に該当する労働なのだが、犯罪を犯した側からすれば邪推してしまうのだろう。
あくまで一方的な見方にすぎないのだが、マグノ海賊団という権威を汚す行為に穿って見られるかもしれない。
しかしながら、マグノは飄々としている。
「男達の国で起きた大規模な襲撃と、その後の事件は耳にしている。
その後お前たちの活動は、大幅に縮減されていた。正直お頭であるお前は死亡したものとさえ思われていたが……」
まだ噂レベルでしか聞きつけていなかったが、他でもない看守長よりマグノ海賊団の状況をマグノは聞き出せた。
マグノ達がカイ達と共にペークシス・プラズマの暴走で生死不明となったが、アジトにいる仲間達は残されたままとなっていた。
アジトの留守を預かる者達も一騎当千の者達揃いだが、それはそれとしてやはり心配はしていたのだ。
どうやらマグノが生死不明となってから海賊行為を自粛し、様子見に徹していたらしい――マグノは内心で一息吐いた。
「一年を経てお前たちは何処ぞと知れぬ所から帰還し、メジェールへ無条件降伏を行った。
長旅だったとは言え余力を残した状態であるにも関わらず、一切抵抗せず屈服した。何故だ」
「おやおや、自首したことが悪いとでもいいたげだね」
「……海賊としては問題大有りだろう」
看守長の指摘は確かに的を射ているが、政府側から海賊のあり方を諭されては苦笑するしかない。
とはいえ確かに政府側から見れば、大いに不気味に感じられるだろう。
マグノ海賊団はこれまでメジェール国家を相手に立ち回り、一歩もひかずに抵抗し続けてきたのだ。
彼女達が義賊として多くの人達から指示を受けているのも人情だけではなく、その強さにもあると言っていい。
「長旅で疲れちまってねえ……アタシもいい年だ。死ぬ前に人生の精算をしようと思ったのさ」
「仲間達も一緒に巻き込んでいるじゃないか」
「それはそれ、一蓮托生って奴さね。罪は償わないといけないだろう」
「もっともらしい事を言う……ではこの請願もお前達の謙虚の表れとでもいうのか」
「請願ってのはそういうもんだろう。アタシはあんた達のルールを守っている」
「むぅ……」
マグノの言い分は至極ごもっともに思えて、根幹は全然見えてこない。
全て正論で通しているからこそ性質が悪く、看守長としても唸ることしか出来ない。
一見すると殊勝に思えるが、ことマグノ海賊団にいたってそれはありえない。
必ずなにか理由がある。だからこそ看守長自ら尋問しているのだが――
「いいだろう、許可してやる」
「分かってもらえて嬉しいよ」
「ただし刑務については全てこちらが仕切り、お前自身はこの私が直接担当する。
何を企もうと逃すつもりはないし、少しでも不穏な行動に出れば処罰する。
お前自身だけではない、お前の仲間も連帯責任だ」
看守長より厳しい眼差しを向けられて、マグノは内心でニヤリと笑う。
彼女はこの尋問が始まった時から正論ばかりを唱えて、わざと不審に思われるように仕向けてきた。
下手をすると怒りを買ってしまう行為だが、その点は老獪なマグノならではだ。彼女は最初からこの看守長に目をつけられることを望んでいた。
徹底的な監視ということは、常に一緒に行動する事に繋がるのだから――この流刑地の、実質上のトップと。
<to be continued>
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