ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action46 −部家−
マグノ海賊団は流刑地で投獄されており、現在禁錮刑を受けている。
誤解されがちだが、禁錮刑は懲役とは異なって労働をする義務そのものはない。
労働が強制されないという点でいえば拘留と同じではあるのだが、拘留はあくまで一時的な身柄拘束であるのに対し――
禁錮は拘留よりは遥かに長く、投獄されてしまう。ともすれば、死ぬまで永遠に。
「申し訳ありません、お頭」
「どうしたんだい、藪から棒に」
「看守達にこちらの――というよりも受刑者達の動きを不審に思われています。当然ですが、こちらの動きを警戒されています」
そして禁錮刑は主として内乱罪などの政治犯や選挙犯罪に適用される場合が多い。
今でこそ刈り取りなどで緊急性を高めているメジェールではあるが、平和だった頃は交通事故などの過失犯の刑罰としても定められていた。
船団国家であるメジェールは船での行き来が多く、事故が多発するケースも国家を悩ませていた。
テラフォーミングも失敗し続けている国家の過失とも言えるのだが、だからこそ刑罰を厳しくして国家への批判を逃れていた。
「なるほどね、案外と言うか思いがけず受刑者達の取り込みが上手くいきすぎていたね」
「はい……それほどまでにわたし達が留守だった間に、メジェール国家への批判や不満が高まっていたようです」
船で人身事故を起こしたケースも国家が咎めるとあれば、禁錮にされるという厳しさ。
一応禁錮にも執行猶予が与えられるのだが、裁判制度を律したこともあって懲役と同様に執行猶予をつけられるのにも上限が設けられる。
つまり政治犯を除けば、禁錮が定められている犯罪の方が高まってきているのである。
メジェールが国として厳しくしようとした結果、国家の軸となる国民の批判を高めてしまったのである。
「わたし達が義賊としてやってきた事は"レベッカ"達が引き継いでいてくれたようですが、やはり限度があったようで……」
「アタシらが事故に巻き込まれて、突然生死不明になっちまったからね。そりゃ心配もするだろうさね。
そういう意味では悪いことをしてしまったが、連絡の取りようがなかったからね……」
マグノ海賊団はこの空域では並ぶもの無き大海賊であり、傘下も含めて数多くの人員が所属している。
メイア達は新人も含めてマグノやブザムより選出された船員達であって、彼女達がマグノ海賊団の全てではない。
アジトに残された者達からすればマグノ達は男達の軍船を襲った後、突然のワームホール発生により生死不明となっていた状況だ。
その後一年以上も連絡がないとなれば、パニックを起こしていても不思議ではない。
「今にして思えばタラークやメジェールに警告するよりも、アジトに連絡したほうが良かったかもしれませんね」
「そいつは蓋を開けてみなければ分からなかったさ。
メッセージポットを迂闊に送って国家に発見されてしまうと、アジトが見つかってしまう危険もあったしね。
それに藪をつついてみたら蛇が出てくれたんだ、今の状況だってそう悪いことでもないさ」
禁錮は懲役と異なり、刑務作業がなく気を紛らわせるものがないため、こういった雑談も意外と見咎められない。
勿論私語厳禁ではあるし注意もされるのだが、何かとつけて叱責しても埒が明かない。
特に相手がマグノ海賊団ともなれば、看守達とはいえ平伏するとまでは言わないにしろ目くじらを立てられない現状がある。
とはいえ限度というものがあり、看守達もいよいよ神経を尖らせているようだ。
「いかがしますか。カイ達も動いているはずですし、そろそろ本格的な行動に出ましょうか」
「いや、『請願』を申し出てみよう」
「えっ!?」
請願とは、禁錮受刑者が申し出る刑務作業の事である。
懲役の受刑者と同様の作業を自ら申し出る事で、受刑者の適正に応じて割り振られる仕組みだ。
木工や印刷、洋裁や金属、革細工などの種類があって、看守たちが受刑者と面談して作業をさせる社会奉仕である。
無論申し出たからと言って、減刑や待遇改善は行われないのだが――
「看守たちの心象は良くなるだろうし、何よりぼんやりしていても鈍るだけだからね。
たまには社会奉仕ってのも悪くないさね」
そう言って不敵に微笑むマグノには、海賊の頭目としての貫禄があった。
言葉以外の思惑があるのだと悟ったマグノの今の懐刀となっているセルティックは、苦笑する。
どのような逆境でも楽しみ、人生の糧とする彼女は海賊達にとって尊敬の的であった。
――ゆえにこそ、どのような状況でも信じられる。
<to be continued>
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