ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action28 −偏移−
「お話は分かりました」
バート・ガルサスの祖父より聞かされた、軍事国家タラークの生誕と問題点。
地球より由来した問題をそのままに、テラフォーミングより始める環境面からの課題に着面する。
男女の認識による誤解は確かな虚偽ではあったが、同時に必要な嘘でもあった。両国を成り立たせるのは貫かなければならない嘘だったのだろう。
しかし、刈り取りを知った若者達は素直に頷けない。
「しかしながら説明させて頂いた通り、地球はタラーク・メジェールを刈り取るべく攻めてきている。もはや時間の問題です」
「僕達は故郷へ帰る途中で、両国からの軍隊による待ち伏せにあった。
つまり、タラークやメジェールは僕達からの警告メッセージを受け取っていたということだ。
このまま言いなりになっていたら、何もかも台無しになってしまうんだよ!?」
地球は確実に攻めてきて、両国から必要な臓器である生殖器を奪うだろう。
生殖器は人間として機能する主要臓器だ。これを奪われるのは、文字通り死を意味する。
命を永らえる手段はなく、地球は無慈悲に刈り取っていくだろう。そうすれば、国家は死んでしまうのだ。
なのに何故、唯々諾々としてしまっているのか。
「私はガルサス食品として政府に、そして何よりタラークに大いなる貢献をしている自負がある。
政府中枢にこそ直接関与はしてないが、人脈を構築していて政治的動きは把握しているつもりだ。
そこから察するに――」
「今、どうなっているのですか」
「自分達は牧場主――つまり地球側だという自負が、未だに染み通っているようだ」
「ハァっ!? 何だよ、それ!」
嘆かわしいと言わんばかりの告白に、バート達は絶句する。
驚愕に言葉を失っているが、同時に納得もし得る告解であった。そうとでも考えなければ、今の政府の在り方は説明できない。
地球の刈り取りを受け入れることは、滅びを意味する。それでも何故受け入れられるのかといえば――
自分達は生き残る、という愚かしくも捨てきれない意識があるからだ。
「自分達が成り立たせた国家であり、育んだ国民たちだ。愛もあり、誇りだって持っている。
だからこそ国家へ"出荷"するのに躊躇いこそあれど、躊躇はない。
買い取って貰い、地球から評価を得られれば――次があると、思える」
「いやいやいや!? 全部奪い取って終わりだろう!」
「バート、お前はこの旅路で多くの人達と接してきたと言ったな。全てにおいて地球に抗っていたか?
滅びと分かっていても、首を差し出していた人達はいなかったか」
「それ、は……」
――水の惑星。地球を神のようにたたえ、自ら生贄となる事を望んでいた人達。
彼らはカイやマグノ達の奮戦によってどうにか考えを改めたが、信仰という面では今も根強く依存を抱えている。
自分達は滅ぶのではなく、役立つのだという価値観。神のごとく敬う者へ貢献できるのであれば――
たとえ死であっても喜べる。そういった価値観を持つ国も、存在していた。
「グラン・パやグラン・マ、彼らもまた地球への信仰を持っていると?」
「いや、彼らは現実的だ。不幸中の幸いと言うべきか、タラークやメジェールはお世辞にも環境に適しているとは言い難かった。
ここで生きていくには想像を絶する苦労があり、だからこそ現実的に生きていける逞しさを持てた。
狂気的な信仰はないが……彼らは老人だと言えるかもしれんな」
「と、いいますと」
「技術が発達しようと、人間は永遠ではない。いずれは必ず、死ぬ。だからこそ老いれば、安らぎを求めてしまう。
故郷への帰愁が地球からの介錯に変わったのだとしても、私は彼らを糾弾はできんよ。
本当に苦労して――ここまで来たのだからな」
「ある種の滅び、死の安らぎを望んでいるということですか……それが破滅であろうとも」
ドゥエロ・マクファイルは、医者である。だからこそ、死における死生観についてもある程度の理解を持っている。
地球は強大であり、何よりも強い。子供が親に逆らうには勇気が必要で、親を切り捨てる覚悟だっている。
勇気を持って立ち向かうには、彼らは老い過ぎたのかもしれない。これほど頑張っても、タラークやメジェールは環境的に豊かにはならなかった。
自分達は間もなく死ぬ。ならばいっそ、と考えてしまうのは――仕方のないことなのかも知れないのだ。
「だからといって、僕達にまで死ねというのはひどいじゃないか」
「バート……」
「おじいちゃま、僕には家族がいるんです。シャーリーは重い病気をようやく克服して、新しい人生を生きられる。
友達だって出来た。あいつは三等民で労働を強いられ、記憶もなくて大変な日々を送っていた。その努力が今、報われようとしている。
これからだって奴らがいるのに、仕方がないなんて言葉で諦めたくはない!」
第一世代がどれほど苦労したのか、理解はした。けれど彼らに連れられて、家畜のように扱われるなんて我慢できない。
一緒に死んでやる義理なんて無い。愛国心がないわけではないが、ずっと女は敵だと嘘をつかれていたのだから、素直に従うことなんて出来ない。
自分達の人生は、これからなのだから。
「バートに賛同します、祖父殿。グラン・パ達の苦境は理解できましたが、我々は彼らの道具ではない。
今こそ我らが子として立ち上がり、間違えている親に反抗してみせましょう。
そうした姿勢を見せれば、彼らだって地球へ反抗する意志を見せてくれるかもしれない」
「お前達……」
バートやドゥエロの意気を目の当たりにして、祖父は自分自身の老いを悟った。
何のかんのと言いながら、自分もまた老いていたのかも知れない。彼らが間違えているのだと分かっていても、何もいえなかった。
失うことを恐れて、失われるのを見逃していた。諦めたらそれで終わりだと言うのに、何も出来なかった。
しかめ面をしていた祖父が、ようやく笑った。
「ふふ、随分と生意気を言うようになったじゃないかバート」
「うっ……ごめんなさい。でも、僕は引けないよ」
「分かっておる。私も協力すると決めたのだから、今更説教をするつもりはない。
私の話を聞いて、実際お前達はこれからどうするつもりだ」
「その事ですが、お願いがあります」
ドゥエロは毅然と立ち上がり、告げる。
「軍部に話をつけてもらえますか、我々の賛同者を増やします」
ドゥエロ・マクファイルが狙うのは、かつての自分達の同胞。
一年前に卒業し、今は軍人となった――士官候補生達であった。
<to be continued>
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