ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action27 −最題−
「儂らだって無条件に地球に従った訳ではないのだ」
惑星タラークにおいて、バートとドゥエロが祖父の説得にあたっている。
ガルサス食品を代表とする財閥を牛耳る総帥である彼を説得する意味合いは非常に大きい。
第一世代であり、タラークの食を守る彼の発言力や影響度合いは図り知れず、仲間に出来ればこれほど大きなことはない。
だが可愛い孫の説得であろうとも、彼は素直に首を縦には振らなかった。
「と、いいますと?」
「タラークとメジェール、この2つを分けた理由は儂らなりにあったということだ。
お前達にとっても決して無視の出来ない、大きな課題となるじゃろうよ」
「是非お聞かせください、その訳を」
第一世代からの問いかけとあれば、ドゥエロやバートも決して無視はできない。
元より自分達は惑星タラーク、自分達の故郷を何としても変えるために帰ってきたのだ。
地球が故郷を滅ぼさんと攻めてきている中で、祖父を相手に怯んでいる場合ではない。
それに故郷の成り立ちとあっては、興味も大いにある。地球につながる根幹があるのだから。
「そもそも男と女、どうして性別の違いで分けているのだと思う?」
「……少なくとも、性別による差は感じられなかった。これはあくまで優劣の違いとして」
悩み苦しんで返答したバートに、祖父は驚きを見せる。
難しくそれでいて抽象的な問いかけであろうとも、彼は決して悩むことを放棄しなかった。
分からないというのは簡単である。分からなくても仕方がない問いかけというのもあるのだ。
けれど分からないままで考えもしないのであれば、子供から脱却できない。
「タラークとメジェールに対する地球の要求は生殖器だと知りました。管理がしやすいためではありませんか」
「うむ、優れた回答だ。だがそれはあくまで、地球の都合に過ぎん。
最初の動機こそそうであったとしても、惑星間を隔ててまで男女を徹底的に隔離する必要はないと思わんか」
「それは私も不思議に思っていました。互いに憎ませてまで、接点を断ったのはどうしてなのか。
グラン・パとグラン・マ、偉大なる指導者が否を唱えれば我々は従うしかありません」
現世代最優秀エリートであるドゥエロ・マクファイルは、男女に優劣がないことを知ってこの疑問に当たった。
管理を行う上で分けるのは理解できるが、戦争を起こしてまで憎しみ合わせるのは本末転倒だ。
地球が求める優秀な臓器が減る可能性があるし、殺し合いなんてさせたら全てが二の舞になってしまう。
そう――かつて地球が起こした悲劇の、繰り返しとなる。
「軍事国家タラークと、船団国家メジェール。その国家形成のあり方にこそ、秘密がある」
「単純に性別ではなく、国そのものに違いがあると?」
「第一世代が地球からの命を受けて生殖器を管理するべく、それぞれ分けて培養しようとした。そこまでは事実じゃ。
ところが国を起こすに当たって、我々は決定的な失敗をしてしまった」
「失敗……そうか!」
「気付いたようだな、ドゥエロ君。そう――テラフォーミング。
そもそもタラークは天体的にメジェールの『衛星』にあたるのだが、タラークはテラフォーミングに成功した。
だが肝心のメジェールは、惑星のテラフォーミングに失敗してしまったのだ」
主星と衛星、環境的にこれほど理想的な管理を行える場所はない。
ここで性別を分けて国を起こそうとするのは必然とも言えた。
ところが肝心の国造りを行うに当たって、惑星メジェールはテラフォーミングそのものに失敗してしまったのである。
ここから歪みが生じてしまった。
「惑星のテラフォーミングに失敗してしまったということは、環境作りそのものが出来なくなったということになる。
生命を維持する環境が出来なければ、生殖器も何もあったものではない」
「うーん、言わんとしていることは分からなくはないけど……それと男と女を区別しようとしたのはどうして?」
「子供だよ。お前達は既に知っていると思うが、本来人間種族の繁栄は男女が結ばれることで出来る。
だがそれも、二つの環境の違いによってお互いの管理が難しくなってしまった。
どちらを残すべきか、どちらを優先するべきか――そこまで悩んで、我々は決断した。
環境に合わせた培養を行おうと」
テラフォーミングが成功した衛星タラークは男性だけの軍事帝国として、子供は意気統合した男性同士が遺伝子を掛け合わせた後、保育プラントから誕生させる。
プラントによる製造には安定的な環境と施設が必要なので、どうしたって惑星という土壌が必要となる。
現在は再テラフォーミング中の惑星メジェールは女性だけの船団国家として、意気統合した女性同士が胎内から誕生させる。
オーマと呼ばれる方が卵子を提供し、ファーマと呼ばれる方が出産を担当する形だ。これなら船団という国家形成でも、繁栄は出来る。
「つまり地球の都合に合わせて国家形成を行おうとして、惑星環境の形成に失敗してしまった。
この失敗を補うべく性別を完全に隔離した上で、それぞれの環境に合わせた培養を行おうとしたんだね」
「お話は見えてきましたが……最初に失敗した段階で、男女を一つにして管理する方法へ切り替えるべきだったのではありませんか」
「苦肉の策だと言いたいのだろう、正直それは当時の我々の苦悩でもあった。我々とて失敗を教訓として、方向転換する道も考えたのだ。
しかし、地球という絶対的な前提が方針転換を許さなかった。ゆえに、突き詰めるしか無かったのだ」
「……」
地球という前提と惑星という過程が、男女の隔絶という結果を生んでしまい、破滅という未来を招かんとしている。
何処かで切り替えればここまで意固地にならずに済んだかも知れないが、彼らはあまりにも偉大であり過ぎた。
結果として追求してしまい、タラーク・メジェールという両国家が生術してしまったのである。
最初の失敗を拭うべく、彼らは積み重ねすぎてしまったのだ。
「おじいちゃま達は失敗を補うがあまり、男と女の壁を絶対的なものにしちゃったんだね」
「単純な隔離だったはずが突き詰めてしまい、お互いを憎ませることになってしまったと」
「……失敗を受け入れてしまえば、国家そのものを否定してしまう。それはすなわち、我々がやってきたことの否定となるのだ。
それは、どうしても出来なかった……」
祖父の苦悩する顔を見て、ドゥエロやバートもまた悩んでしまう。
地球のやっていることは明らかに間違えているが、祖父達のやってきたことの全ては間違えたわけではない。
彼らが英断したからこそ自分達がいるわけで、男女をきちんと分けなければ子供を培養することも難しかったかも知れない。
正常ではない環境で、正常なる子作りなんて出来るはずがないのだから。
過去を否定すれば、現実も拒否することになる――だが否定しなければ、未来はない。
<to be continued>
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