ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action21 −正像−
無事に生きて戻ったバートとその友人であるドゥエロ、二人を屋敷へ招いたバートの祖父は快く歓待した。
よほど孫の帰宅が喜ばしかったのか、日頃の厳格さは鳴りを潜め、心からの喜びと感激を言葉にして語った。
孫達の無事を喜び、苦労を労い、成果を称賛し、努力を承認した。彼らもまた祖父に心からの感謝を述べて――
真意を、語ったのだった。
「……そうか……バート、お前はついに真実を知ってしまったのか」
「やはりおじいちゃまは知っていたんだね。地球の真意――そして何より、女という存在の全てを」
恍けることも出来なくはなかったのだが、バート・ガルサスは説得する上で真実を武器にすることにした。
バートの祖父はガルサス食品という大企業のトップ、若造に過ぎない自分が交渉できる人間ではない。
血縁を持って挑んでも、下手な言葉では返り討ちに合うだけだろう。
ならばいっそのこと、真実という強烈な武器を持って立ち向かえば勝ち目はある。
「我が国タラークには呉越同舟という言葉があるが……我が孫が実践しているとまでは思わなかった。
軍艦イカヅチが女海賊達の襲撃にあったとは聞いておったが、まさかそれほどの奇縁に遭うとはな」
「補足をさせて頂ければ、バートは決して貴方や軍部を騙そうとしているのではありません。
確かに海賊達を相手に戦ったとは言えませんが、それでも彼女達を味方につけた彼の力は本物です。
百戦錬磨の海賊達が操舵手としての彼の技量を認め、彼を頼みに故郷まで帰ってきたのです」
「ドゥエロ君……」
難しい顔をする祖父に対して、ドゥエロは真摯な態度で友人の成果を語った。
友人とは言え、他人のことをここまで積極的に語るドゥエロを今まで見たことがなかった。
いや、見たことがなかっただけで彼はずっとそう思っていてくれたのだろう。
思わず絶句してしまったが、バートは本当に嬉しかった。
「分かっておるよ。女海賊達はメジェール出身、男達をさぞ忌避しておったであろう。
殺されてもおかしくなかった状況下で、我が孫がどれほど必死に立ち向かったのか、その顔に出ておるわ」
「顔……?」
「ふふ、存外自分のことには気づかぬものだ。バートよ、お前は今時分がどんな顔をしているのか知らぬようだ。
仲間を、友を――大切なものを背負う、男の顔をしておる。
儂はずっと、お前のその顔を見たかった。少し寂しくはあるが、お前はもう自分の人生を立派に歩いているんだな……」
「……おじいちゃま」
喜びを皺に滲ませて微笑む祖父に、バートは思わず息を呑んでしまった。
自分が成長したのだと言われても、やはり実感はわかなかった。周りの人間が本当にすごい人達ばかりだから。
最初は敵わないのだと諦めていたが、シャーリーという家族が出来たことで、しっかりしようと決意したのだ。
戸惑うバートを一瞥して、祖父は不意に立ち上がった。
「バートよ、我がガルサス食品がメインで売り出している商品は何じゃ」
「そりゃあ、ペレットだよね」
「外の世界を知った今のお前なら、不思議に思わんか。何故食品を扱う企業が多種多様とはいえ、ペレットを販売するのか」
「――そういえばおじいちゃまは、第1世代だよね……地球の食品を知っているはず!?」
惑星タラークは軍事国家であり、同時に年功序列には非常に厳しい。
特に、第1世代はほぼ絶対的な存在であった。グラン・パは神の如き存在であり、第1世代は神の使徒そのものであった。
何故なら、第1世代こそが惑星タラークを築き上げた偉人であるからだ。
その中でバートの祖父は政治や軍事ではなく、経済に関わっている。
「ペレットは固形型の栄養食品です。栄養素の塊であるこの食品が、タラークに生きる人達を支えている。
この惑星はテラフォーミングにこそ成功していますが、動植物を育むには程遠い荒れた土地ばかりだ。
地球の食品を作り上げるのは、不向きな環境だからではないのですか」
「君は本当に賢しいな、ドゥエロ君。無論、君の見解は何も間違えておらん。
だが、考えてもみてくれ。メジェールは船団国家、テラフォーミングにさえ失敗している国だ。
しかしながら彼女達は、地球の食品を知り、当然のように口にしている」
「……技術の違い、とか」
「いや、文化の違いじゃ。意図的に差別化して、タラークとメジェールを分断しているのじゃよ」
「! まさか……」
「そうじゃ、タラークとメジェールは男と女のみで分けているのではない。
地球と差別化するべく、全てを不完全にするために――何もかも、分断してしまったのじゃ。食も含めて、何もかもすべて。
タラークとメジェール、二つあわせて一つの世界なんじゃよ」
何もかも半分に分けることで、不完全なままの世界を維持させる。
――地球こそが絶対の存在とするために。
あまりにも酷い真実を知り、バートやドゥエロは絶句した。
<to be continued>
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