ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action20 −無稜−
惑星タラークはメジェールと違ってテラフォーミングにこそ成功しているが、動植物を育むには程遠い荒れ果てた土地が広がっている。
このような環境では自然が育つことはなく、人間達の栄養補給に不可欠な食物を作成するのは困難であった。
そのため、タラークではペレットと呼ばれる固形栄養食品が主流となっている。このペレット一つで栄養補給を補い、人々はどうにか生存できていた。
ガルサス食品――食品業界を一手に似合う大手総合企業であり、このペレットを製造する食品メーカーであった。
「バートよ、よくぞ無事で戻った!」
「おじいちゃま!? いえ――お祖父様、迎えにいらしてくださったのですか!」
バート・ガルサス、ニルヴァーナの操舵手である彼はこのガルサス食品の御曹司である。
軍事国家であるタラークにおいて、国民に兵役に服する義務を課す制度が強いられている――あくまで、表向きは。
ガルサス食品は、この兵役の数少ない例外にあたる。理由は単純で、この企業が倒れたらタラークの食品産業は壊滅に至るからだ。
御曹司であるバートはガルサス食品の後継者であり、兵役は本来免除されるはずだった。
「ははは、堅苦しい礼儀は今日ばかりはよい。
本当によく生きて帰ったな、政府より知らせがあった時は飛び上がったぞ」
「これもすべておじいちゃまの教育あってのものです」
――後継者であるバート・ガルサスに、何の問題もなければ。
祖父にとって唯一の孫であるバートは本当に可愛く、幼少期は何かと目をかけて可愛がった――いや、可愛がってしまった。
孫には苦労をさせたくないという気持ちが先んじてしまい、バートは苦労知らずの青年になってしまった。
増長が目に見え、我儘も多くなり、周囲を困らせる人間となったのだ。
「おいおい、どうした。お前のようなやんちゃな……いや男子三日会わざれば刮目して見よ、か。
驚いたぞバート、よほどの艱難辛苦を経験したと見える。一年を経て、男の顔になっているではないか」
「はい、本当に得難い経験をいたしました」
祖父は頭を痛め、自らの行いを振り返って反省し――彼は我が孫のために、鬼となった。
バートを叱りつけた上で、士官学校の入学を命じたのである。卒業するまでは、ガルサスの門を叩く事を禁じた。
本当に戦場へ追いやって、死に至らしめるつもりはなかった。厳しい軍隊訓練を受ければ、素行を改めると思ったのだ。
それにタラークの現実を知る意味でも、士官学校に入るのは現実的と言えた。
「どうやらそちらの青年が、我が孫の成長に大きく貢献してくれたようだな。立派な顔立ちをしておる」
「恐縮です。私も本日、我が友が自慢する祖父殿にお目にかかれて光栄に思っております」
祖父の思惑はある意味で当たり、ある意味で外れてしまった――マグノ海賊団襲撃によって。
士官候補生卒業にあたる軍艦イカヅチの乗船は誉れであったというのに、海賊の襲撃とペークシスプラグマの暴走で爆発。
ワームホール事故であったのだが、当事者から見れば大破したように見える。実際事故として処分され、バート・ガルサスは生死不明となった。
軍部より事故の報告を受けた時――祖父は、自分の判断を猛烈に後悔した。
「ほう、バートが儂の自慢をしておったのか」
「ちょ、ちょっとドゥエロ君、恥ずかしいから言わないでくれよ!?」
「ははは、友の前ではさしもの孫も年相応の顔を見せてしまうか。
大人になったかと思えば、どうやらまだまだらしいな」
兵役免除の道もあったというのになぜ行かせてしまったのか、自分の手元で教育すればよかったのではないか。
バートが生死不明になってからというもの、悩まぬ日などなかった。日々涙に暮れ、自らの過ちを呪った。
生死不明であれば生きている可能性は、ある。だが大企業を一代で築いた男に、夢想は許されなかった。
絶望にくれる一年を過ごし、希望などない人生を経たところで――祖父の元へ、バート帰還の知らせが入ったのである。
「ハァ、せっかく襟を正したのに……おじいちゃま、紹介するね。
彼はドゥエロ・マクファイル。同じ士官学校の同期なんだけど、僕とは違って成績トップのエリートなんだ。
旅の間も同じ釜の飯を食べて、苦しみも悲しみも分かち合った僕の自慢の友人だ」
「そうか……お前にも、友ができたのか……
今日は何という日なのか。儂ともあろうものが、これが夢ではないかと頬をつねりたくなってしまう」
「僕もそうだよ、おじいちゃま。こうしておじいちゃまと生きてまた会えて、本当に嬉しい」
バートの生存を聞いた時、祖父の頭は真っ白になってしまった。
一年間で積もり溜まった絶望が、一気に晴れる感覚。一気に視界が広がって、明るい希望に満ち溢れた。
祖父は本日のスケジュールを全て投げ捨てて、バートを迎えに行った。軍部にまで押しかけようとしたのを、ギリギリの自制心で止めた。
そしてバート・ガルサスの元気な顔が見れたその瞬間、彼は心の中で涙した。
「紹介に預かりました、ドゥエロ・マクファイルと申します。
彼と同じ学び舎で卒業後難事に遭いまして、過酷な環境下の中でお互い助け合って生きてまいりました。
あなたの令孫には日々、助けられました。彼の明るい人柄は多くの人達を勇気づけ、時に見せる優しさと強さには励まされました」
「……ありがとう、マクファイル君。我が孫が、本当に世話になった。
まさかバートの友人から、バートの評価を聞かされる日が来るとは思わなかった。
今ハッキリと言える。この子は、私にとって自慢の孫だよ」
「ちょ、ちょっと二人共!? 褒め殺しはやめて、ひたすら恥ずかしいからさ!」
笑い声の中に喜びに滲んだ涙を隠しつつ、祖父は愛する孫の背を叩いて自慢した。
叩くその背はかつての小ささはなく、命を背負った重みを確かに持っている。
自分の決断が正しかったと胸を張るのではなく、祖父はただ孫が正しく生きてきてくれたことに誇った。
<to be continued>
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