ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action14 −楽部−
「閉廷です――最後に、何かありますか」
「……私に、聞いているの?」
流刑地への刑が処されて、マグノ海賊団の処分はこれで決定された。
上告も何も一切認められず、与えられた判決を受け入れて罪を償う道しか残されていない。
処刑でなかったことに安堵する反面、どこかで納得できない心情のジュラ。罪を償う気持ちがあっただけに、海賊として処罰されなかったのは残念だった。
裁判で判決がくださった以上、少なくとももう海賊としてメジェールが罰することはない。
「言いたい放題言っていたのは、貴方でしょう」
だからこそ、最高裁判官が加害者に一言許可を与えるのは異例であった。
ジュラが不思議そうに聞き返すのは他でもない、一言を与えるのであればお頭のマグノではないかと思い当たったからだ。
実際裁判官もジュラの言いたいことを察してマグノを一瞥するが、当の本人はどこか穏やかな表情で見つめ返すのみ。
それで優秀な裁判官は全て察した。不条理な判決を与えるしかない自分の心情を、マグノはきちんと理解しているのだと。
だからマグノは何も反論しなかった。何を言っても上層部には伝わらず、裁判官を困らせるだけだ。
「刈り取りは――地球はもうすぐメジェールを、そしてタラークを攻めてくる。全員皆殺しにして、臓器を奪うでしょうね」
「っ……」
「否が応でも、新しい価値観を受け入れるしかない時は来るわ。だからその時はまず貴方が受け入れて、他の人達に伝えてあげて。
洗脳ではなく、冷静に自分の言葉で伝えてくれればいい。ここにいる人達を、貴方が守ってあげてほしい。命だけではなく、文化や価値観も含めて。
ジュラはそんな貴女を守るために、戦いに行くわ」
「――連れていきなさい」
裁判官である彼女は肯定することはなく、それでいて否定もせずに自ら退廷していった。
傍観席にいた人達は全員政府関係者であり、裁判員達も政府の息がかかっている。
この裁判が明るみに出ることはなく、マグの海賊団は闇に葬られる。ジュラが何を言ったところで、日の目を見ることはないだろう。
発言を終えて息をつき、同席していたバーネット達を振り返った。
「私が頑張っても、あんまり意味なかったかしら」
「そんな事はないわよ。少なくとも、あの人には正しく伝わったと思うわよ」
肩を落としたジュラに、バーネットは発破をかけて笑いかける。
何をいっても無駄だと高を括っていたのだが、存外に反応があったのでむしろ驚いたほどであった。
ジュラがもう少し感情的であったならば話も違っていたのだろうが、彼女は徹底して冷静だった。
裁判官がむしろ感情的に見えたほどなのだが――
「あの人、やり場のない怒りと矛盾に苦しんでいたように見えた」
「そうね、本来私達は海賊として罰せられなければならなかったものね」
裁判による判決は決して覆らないのだから、マグノ海賊団が再び罰せられることはもう無い。
終身刑も立派な罪罰ではあるのだが、海賊に対しての罰ではない以上、司法は歪められてしまっている。
バーネットから見ても、あの裁判官は立派な人間であるように見えた。だからこそ政府は彼女を選んで、正しく律しようとしたのだろう。
だがそもそも刈り取りの事実が歪められている以上、前提が成り立っていない。
「政府にガツンといってやりたかったけれど――」
「海賊である私達には無理ね。地球とは違うとはいえ、アタシ達も奪う側だった人間だから」
罪の多寡こそ異なれど、貴重な物資を奪っていたマグノ海賊団も政府から見れば略奪者だ。
義賊として民間には受け入れられていても、正義のヒーローでは決してない。海賊とは決して愛される存在ではないのだ。
手を汚す覚悟をしても海賊となる道を選んだ彼女達だが、同時に自分の罪を自覚できるようにはなっている。
政府側は決して、マグノ海賊団を認めようとはしないだろう。
「そういうのはもっと相応しい人間がいるわよ」
「そうね、後はカイやミスティ達に任せるわ。私達は自分の出来ることをしましょう」
流刑地へ移送されることになったとはいえ、ジュラ達もこのまま大人しくしているつもりはない。
メジェール政府の出方や反応も分かった以上、取るべき手段や道筋も見えてくる。
少なくともメジェールは本格的に地球へ迎合し、刈り取りを受け入れようとしている。その事は痛いほど伝わってきた。
このままでは殺されるだけだろう、そうはいかない。
「タラークの方はどうかしら。副長が言っているだから大丈夫だと思うけど――」
「少しはしっかりしてきたけれど、バート達はね……ま、せいぜい期待しておきましょう」
副長ブザムこと浦霞天明、バート・ガルサスにドゥエロ・マクファイル。
彼らは今、惑星タラークへと帰還していた。
かの星は、メジェールを目の敵とする軍事国家である。
<to be continued>
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