ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action12 −安威−
――船団国家「メジェール」
太陽系から遠く離れた宙域にあるこの国家に、故郷というべき惑星は存在しない。
かつては母星と呼べる世界が存在していたのだが、劣悪な環境により放棄せざるを得なかった。
かつてテラフォーミングを行ったが失敗してしまい、本星周囲に造った幾つものユニットで暮らす船団国家である。
「なんと、おぞましい……!?」
船団国家メジェールは貧富の差が激しく、船団においても街の一区画レベルにおいてまで区別化がされている。
政府直轄の最高裁判所は中央区画に位置づけられており、言わずとしれた一級当地の政府機関である。
メジェール軍に無条件降伏したマグノ海賊団は異例の早さで今、裁判が行われている。
「こんなもの、捨ててしまいなさい。即刻、燃やしてしまうのです!」
「証拠物件、燃やしちゃってもいいの?」
「被告人は許可なく発言しないように!」
「はーい」
裁判中に証拠として挙げられたのはあろうことか、ジュラが所有していた「赤ちゃんの作り方」である。
こんにちは赤ちゃんと題付けられたその本には、地球より伝わっている本来あるべき出産方法が記されている。
当然男女の営みに至るまで可愛らしいデザインで描かれており、赤ちゃんがどう生まれるのか赤裸々に描かれていた。
そう、全て正確に描かれていたのである。
「貴女はこのような汚らわしい書物で、他の女達を汚れた道に引きずり込もうとしていたのですか」
「その本、私が描いた本じゃないんだけど」
「お黙りなさい、ミス・エルデン。所有していることが問題だと言っているのです!」
ジュラ=ベーシル=エルデン、彼女は今これ以上ないほど冷静だった。
裁判が行われた当初は、本当に憤慨していたのだ。謂れなき蔑視に腹が立ったし、横柄な態度には心の底から怒りが湧いた。
だが裁判が進むにつれて、何だか馬鹿馬鹿しくなってきたのである。
とにかく、ツッコミどころが多すぎる。
「どこから持ってきたのか、話してもいい?」
「衛兵!」
「ハッ!」
「えっ、ちょっとあんたが聞いたんでしょう!?」
裁判官の心証を悪くしてはいけないことくらいは、ジュラとて分かっている。
彼女が最初の被告人に立たされた時はそれなりに緊張していたし、やる気だって出していた。
海賊であることを正当化する気は、今更毛頭ない。カイに指摘されて自分のやったことの罪は理解していたし、海賊だって辞めるつもりでいた。
その点を追求されれば償う気でいたのだ――追求、されれば。
「もっと他に指摘するべき事とかないの? 被告人なんだから、一応覚悟を決めて話すつもりなのよ」
「だったら、この本についての責任を明らかとしなさい。愚かしき知識を広めて、貴女は他の女達を洗脳するつもりだったのですよ」
「洗脳は、あんた達が今までやってきたことでしょう。アタシ達は全部、知っているのよ。ここでべらべら言っちゃいましょうか」
「衛兵!」
「ハッ!」
「コラコラ、暴力は卑怯よ!?」
――少しでも地球に触れようとすれば、衛兵を呼んで槍を突きつけられる。恐るべき弾圧に、閉口してしまう。
仲間が武器を付けられている危機なのだが、後ろで参列しているバーネット達は意外なジュラの奮闘に内心拍手喝采だった。
半ばコントのようなやり取りに、吹き出すのをこらえている面々もいる。
怒りが湧くよりも前に、ジュラの意外な頼もしさに注目していた。
「ミス・エルデン、貴女は魔女です」
「は……?」
「いいえ、貴女だけではありません。海賊マグノ一味は皆、忌まわしい魔女に他なりません!」
「海賊に何言ってるの、あんた」
「海賊だから罰しているのです!」
「魔女と何も関係ないじゃない」
ジュラが威圧的な女裁判官にここまで立ち向かって行けているのは、メイアの不在にあった。
メイアは自分の使命を果たすべく、カイと一緒に行動している。その事にジュラは、嫉妬と羨望を感じていた。
カイ・ピュアウインドは自分にとって、我が子の父であってほしい人間だ。彼と一緒に子作りしたいと、願っている。
――言い換えれば、それだけだ。あくまで戦後のことであって、戦時中ではない。
メイアは違う。彼と共に戦い、自分の人生を見つめ直して歩いている。まるでパートナーのように、お互い助け合っている。
悔しく思うし、羨ましくも感じている。だが同時にメイアがそういう道を選んだから、ジュラは自分の成すべきことに励んでいる。
マグノ海賊団への裁判――罪と罰を問う、この場。
(海賊を辞めるんだもの、責任はちゃんと取らないとね)
他のものはともかくとして――ジュラは自分の罪を償う気概で、この場に望んでいる。
<to be continued>
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