ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action7 −土楽−
やはり何らかの意思疎通は取れているのか、タラーク・メジェール両軍の動きは非常に機敏であった。
無条件降伏した相手とはいえ、融合戦艦ニル・ヴァーナの制圧は鮮やかなもので、瞬く間に各フロアが軍によって押さえられていった。
同時に各部署のチーフは無条件降伏が決定された段階で速やかに対処が行われており、機密保持に関する対処は徹底されている。
ペークシス・グラグマが保管されている機関室は勿論、格納庫の保持は厳密に対応されていた。
「これでよかろう、お主達は速やかに投降せよ」
「本当に残るの、アイちゃん」
作業を終えた整備スタッフ達を尻目に、カイのSP蛮型を管理する和服姿の少女は作業を続けていた。
SP蛮型は死闘を乗り越えていくにつれてペークシス・グラグマによる改良が都度行われており、もはや既存のフォーマットに留まらない人型兵器となっている。
これほどのスペック、しかもタラーク軍の機体となると整備を行うのも困難であり、SP蛮型を整備できるのは今や天才と呼ばれたこの少女一人であった。
アイ・ファイサリア・メジェール、機械工学を筆頭に様々な専門知識と広範囲の技術力を扱うエンジニアであった。
「連中からすれば海賊の戦力は真っ先に奪いたいはずじゃ。
ニル・ヴァーナごと拿捕されるだけならまだしも、下手をするとドレッドやヴァンガードを全て破壊してしまうやもしれんぞ。
この保管庫を守る人間が一人くらい必要じゃろうよ」
「で、でもそれじゃ、アイちゃんが危険じゃない!」
「はっはっは、安心せい。儂とて正規兵相手に突撃するほど無謀ではないぞ。
連中が無茶をするようであれば、この保管庫ごと凍結してやるつもりじゃ。
ただ一旦凍結処理を行うと解除するのがなかなか手間がかかるからの、連中の出方を見て判断せねばならん」
何しろマグノ海賊団やカイ達にとって、本当の敵はタラークやメジェールではない。
あくまで戦うべき相手は刈り取りであり、地球そのものなのである。
目の前で脅威が迫っているからといって、勘違いしてはいけない。だからこそ、臨機応変な対応が求められる。
戦うべき相手が迫ってきた時に武器がないようであれば、話にならない。
「お主達には仲間がいて、家族もいるのであろう。儂は気楽な道楽者、機械と戯れる事を選んだ変わり者じゃ。
気兼ねなどせず、とっとと降参してしまえ。お主達が日々整備した機体は、必ず守ってやろう」
「でもアイちゃんはそもそもお頭肝いりの……!」
「出自なぞ海賊には関係なかろう、儂らは皆同じ戦場を乗り越えた仲間じゃ。
儂も所詮皆と同じく、故郷を捨てた人間に過ぎんよ」
同じ職場の整備チームの間でも、アイに関して深く知る者はいない。
分かっているのはメイアと同じくお頭が直々に海賊として迎え入れたということ、そして彼女の名に刻まれた栄冠のみ。
名を見れば、出自は容易く想像できる。そしてメジェールの現状を思えば、彼女が自分の家を捨てるのも理解できる。
彼女はきっとメジェールの偉大なる――
「はよいけ、戦いはまだこれからじゃぞ。儂らはなんとしても彼らの機体を守り、戦場へと送り出さねばならんのだ」
「う、うん、アイちゃんも無理はしないでね!」
整備チームは武装を放棄して、そのまま両軍へと降伏に行った。自分から降伏を申し出れば、攻撃は加えられないだろう。
整備チームを送り届けた少女は率先して格納庫を閉鎖し、各機体の封鎖を行った。厳重に保管していけば、余計な手は加えられない。
業を煮やして破壊される可能性もあるが、その時は凍結するしかない。機体だけはなんとしても、守らなければならないのだ。
アイ・ファイサリア・メジェール、彼女はカイの機体を見上げた。
「よもやと思っておったが、まさかあやつも地球人だったとは……まあそういう意味では、皆も同じなのじゃが」
腰まで届く黒髪を結う赤いリボン、華奢な身を大仰に纏う着物。
メジェールでは洋服を好まない一部の庶民か、それとも――
位の高い者達しか着用しない、独特の服装である。
「この動き、どうやらこの期に及んで地球に同調するようじゃの……やれやれ、"母君"も耄碌したもんじゃ。
儂もいい加減、過去と向き合い、ケジメを付けねばならんか」
子供の清純と大人の威厳を重ね合わせた女の子は、祈るように目を閉じた。
<to be continued>
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