ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 24 "Men and Women"
Action5 −敢然−
『人事に関わることです――真実を公開するべく、タラークとメジェールのシステムを掌握する必要があります。
機関チームリーダーであるパルフェと、彼女の部下である私に行動の自由をお願いしたい』
主人とするカイに忠実なソラがマグノ・ビバンに依頼するのは珍しい事だが、基本的に礼儀正しい子なので驚きの声は出なかった。
どちらかと言えば、相談内容に注目された。人事に関する要望は本来副長が担当するのだが、本人は今拘束されている。
その事実を痛感してマグノは内心嘆息するが、市場に振り回される立場ではなく、意識を切り替える。
ソラからの相談は、無理難題ではなかった。
「ふむ、本人の希望によるが……パルフェが承諾するなら構わないよ。自分の上司に相談しておくれ」
『承知いたしました、感謝いたします』
「礼を言われる程じゃないさね。あの子は機関士だからね、本国からはノーマークだろうよ」
マグノ海賊団は本国メジェールにとって悪評高き集団だが、だからといって全員が指名手配されているわけではない。
頭目であるマグノは言うまでもなく、最前線で戦っているパイロットも実力者達には手配がかけられている。
そういった意味ではメイアも当然手配がかかっているのだが――
『申し訳ありません、お頭』
「なーに、追求されても何とでも言えるさ。いっその事死んだことにでもして、海賊を辞めるのも手だよ。
随分と遠回りしてしまったけど、良い頃合いじゃないか。後継者にだって恵まれたんだ」
『……責任は、果たすつもりです。ご返答は、その後で』
今までのメイアであれば責任を果たすべく、それこそ殉職するまで戦い続けていただろう。
死を追い求めるほどに強さを得ようとする姿勢は貪欲で、何よりも危なっかしかった。
マグノはかつてどん底にまで落ちたメイアを拾って育てたが、未来までは保証できなかった。
そうした歯がゆさを解消してくれたのが、新しい出会いだった。
(アタシもようやく一つ、肩の荷が下りたね……坊やには感謝しないと)
メイアの隣で特に気負いなく聞いているカイの姿を目の当たりにして、マグノはそっと微笑んだ。
カイ本人もまだまだ未熟で色々危なっかしい面はあるのだが、本人は己の未熟を承知して自分の道を歩んでいる。
海賊のままであれば平行線のままだったが、海賊を辞めてしまえば同じ道を歩むことだって出来るだろう。
似たような面が多い男女を、マグノは孫のように応援していた。
『パルフェには私から連絡を取ろう。私はタラークへ向かうので動向は出来ないが、君のことをお願いしておきたい』
『自分のことは自分でなんとかするから』
『今回は自分のことだけではなく、全員のことを考えて行動するべきだ。独力でどうにか出来る事態ではない。
本当は私も同行したいのだが、タラークでやるべきことがある。代わりといっては何だが、タラークのことは私とバートに任せておいてくれ』
『ま、少なくともおじいちゃまは何としても説得して、シャーリーとお前の身元くらい保証しておいてやるよ。
タラークに帰る気はなくても、居場所くらい一つはあった方がいい。
僕だって君やドゥエロくんを、自分の家に招待したいからさ』
『そうか……俺、友達の家に遊びに行くとか初めてだな』
『私もだ。他者との交流など時間の無駄だと思っていた、かつての自分を説教してやりたい。
また一つ、将来に楽しみができてしまった。ここは一つ、頑張らなければならないな』
すぐそこにまでタラーク・メジェール両軍が迫っている中で、男達は和気藹々と未来を語っている。
脳天気だと見えなくはないのだが、マグノはそうは考えない。男達は自分たちの成すべきことを、きちんと分かっている。
果たすべき役目を認識しているからこそ、堂々と語り合えているのだ。
それは決して、過信ではない。
『ああ、もう男同士の友情なんてどうでもいいピョロ。肝心なのは、ピョロUだピョロ!』
『いい加減名前くらい覚えなさいよ、ユメの大切な妹なのに!
ねえねえ、カルーアのお母さん。ユメが、カルーアを預かってあげるわ!』
「えっ――どういう事、ユメちゃん……?」
『いきなり言われても混乱するだろう、ユメ――悪いな、おふくろさん。俺から説明するよ』
タラーク・メジェール両軍に無条件降伏する以上、人権や人命の保証はない。子供達も危険であることを、カイは丁寧に説明する。
シャーリーやツバサには既に承諾を得ており、赤子であるカルーアの面倒を見ることは全員で決意している。
不幸中の幸いにもカルーアの出産に立ち会ったのはカイとミスティ、居残り組がカルーアの誕生を見届けている。
あの時不甲斐なかった自分達を反省して、育児に関する勉強を二人はしていたのだ。
『日頃から面倒を見ているピョロやユメが一緒なら癇癪も起こさないだろうし、以前の事件でメイアにも懐いている』
『コホン……あの時は不慮の事故で救命ポットで彷徨ってしまい危険な目に合わせてしまったが、お互い心は通わせているつもりだ』
『あたしもカルーアちゃんは家族のように大事に思っているし、必ず守ってみせるわ』
『ユメだけではなく、ソラも必ずお守りいたします』
「みんな……」
突然の提案にはびっくりさせられたが、ピョロ達の心遣いを知ってオペレーターであり母親のエズラは涙を滲ませる。
危機的状況でカルーアだけではなく、自分も混乱していた。そんな最中で、仲間達は我が子の事を考えてくれていたのだ。
エズラは、自分が情けなくなった。こんな時だからこそ我が子を第一に考えなければならないのに、不安に思ってしまうなんて。
そう考えると、逆に悩んでしまう。自分の子供だからこそ自分で守らなければならないという使命感も、あるからだ。
だが、カイ達の言うことももっともであった。そもそも捕まってしまえば当然拘束されて、武装解除させられてしまう。
ひょっとすると、カルーアを取り上げられてしまうかもしれない――それは悪夢だった。
「ピョロちゃん、ユメちゃん、本当にありがとう。私は――」
――こうして全ての話し合いを終えて、カイ達は解散することとなった。
男女の同盟は故郷へ辿り着くまでの期間であり、解散するのはある種必然だったのかもしれない。
けれど決して、別れではない。
<to be continued>
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