ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action31 -真戸-
保安クルー二名に連行されたブザム・A・カレッサこと浦霞天明は、元軍艦イカヅチにあった監房へと収容される。
以前はカイ達が捕虜の扱いとして住まわされていた監房だが、水道管が壊れて一時使用不要に陥っていた。
今では既に修繕されているが、カイ達は仲間として居住が許されている為、この監房には戻っていない。
使用されることもないと高を括っていた矢先、再びここに"男"が戻ってきた。
「――どうした、早くシールドを張れ」
「ひ、必要ないのではありませんか……貴方が逃げることは、絶対にない」
やや声を震わせながらも反論してきた保安クルー達に、元副長であるブザムは苦笑気味に俯いた。
判断としては青くはあるのだが、立派になったものだと思わされた。同時に自分の役目も終わったのだと、息を吐いた。
副長として今も扱ってくれることは、ありがたいと思っている。信頼が今も残っていることには、感謝している。
けれどそれでは、ケジメがつかない。
「早くしろ」
「っ……」
保安クルー達だって、分かってはいるのだ――彼女達もまた艦の保安を任された、立派な職員なのだから。
私情を絡めては、示しがつかない。いざとなれば仲間だって切り捨てる非情さがなければ、この職務は務まらない。
瞼を震わせながらも監房のシステムを操作して、シールドを展開。出入り口は光によって閉ざされ、物理的な脱出は不可能となった。
閉ざされた監房に何故か安堵の息を吐いて、ブザムは観念した。
「安心しろ、これでどこにも逃げられない」
「もう一度、言います。貴方が逃げるとは、思っておりません」
本当に悲しげに、無念に声を落として保安クルーはその場から去っていった。見張りの一人も立てない、必要ないからだ。
立ち去っていた保安クルー二名とは入れ替わりに、男二名が監房へとやって来る。その足取りからすぐに、ブザムは誰か分かった。
ブザムは背を向けたまま、入室者達には目を向けない。彼らの上官だったものは、もうここにはいないのだから。
カイ・ピュアウインド、ドゥエロ・マクファイル。タラークで生きた者達が、集った。
「――バートに、すまなかったと伝えてくれ」
「安心しろ。今のあいつは、そんなヤワな奴じゃない。動揺する艦内に不安がるシャーリーの側にいてやっている」
「そうか……お前の家族は、大丈夫なのか」
「あんたのところに行ってやれ、だとよ。生意気なガキだ、全く」
「ふっ……そうか」
カイとドゥエロは監房の前に座って、陣取った。ブザムは目こそ向けないが、背中越しに返答はしている。
おかしな関係になったものだと、誰もが思っている。ブザムがタラークのスパイであったのならば、同郷の自分達とは仲間のはずだ。
だがマグノ海賊団と生死を共にした関係であるのならば、彼女こと彼ブザムは裏切り者ということになってしまう。
どう扱えばいいのか、誰も分からない。けれど――
「ここまで来たんなら、最後の最後まで化けの皮を被ったままでも良かったんじゃないか」
「……そうだな、気が抜けたのかもしれん」
「貴方はそのような隙を見せる人ではないだろう。だからこそここまで完璧に演じて、皆の信頼を掴んできた。
貴方という人間が、性別を問わず立派にやってきた証だ」
ブザムは、察した――カイやドゥエロは、自分を男として見つめ直しに来たのだと。
女から男に変わって、同類意識が出たなどという生ぬるい話ではない。カイやドゥエロは、それほど楽な生き方をしてはいない。
ブザムが浦霞天明という男を選んだのであれば、自分達もまた年上の男性として敬い方を変えなければならない。ブザムと認識を合わせに来たのだ。
あくまで浦霞天明という男に戻ったのであれば、無理強いさせてまでブザムをやらせようとはしない。男二人の、気遣いであったのだ。
「やはりタラークは、マグノ海賊団という存在を脅威に思っていたのか」
「神出鬼没にして、大胆不敵。それでいて国家と戦える戦力を保有している海賊だ、思い切った手段に出る必要があった」
「彼女達の強さを思えば、頷ける話だ。国家に所属もしていない戦士達が自由気ままに宇宙を荒らせば、放置など出来るはずがない」
地球という別の驚異が生まれたから忘れがちになってしまうが、マグノ海賊団だってタラーク・メジェールからすれば迷惑極まりない集団だ。
彼女達は義賊として多くの難民を救ってきたが、同時に多くの軍人達を襲って物資を強奪してきたのだ。
臓器か物資かの違いなだけで、タラークやメジェール国家からすれば、奪われることに何の違いもないのだ。
犯罪者が急に良いことをし始めたからといって、過去の悪行が許される訳では決してない。
「なるほど……面倒な話だ。アイツラを庇いつつ、タラークやメジェールを説得しなければならない」
「――やはりお前は、国そのものを変えるつもりか」
「国へ帰るだけではなく、国を変える――その為の旅だったということか」
ブザムが正体を発覚するリスクを負ってでも、認証コードを伝えて仲間を守った――その覚悟の表れを目の当たりにして、カイもまた決断できたのだ。
タラークやメジェール、国そのものを変える。気軽にいうが、手段を間違えれば思想によるテロリズムである。
たとえ武力を行使しなくても、男尊女卑や女尊男卑を覆すということは、国家思想そのものへの反逆である。国そのものが、ひっくり返るだろう。
大きな傷みを負う危険性が高い。それでも成し遂げなければならないと、カイは覚悟を決めた。
「あんたの力が必要だ――今こそ、協力してほしい」
「真実はこの艦にある――そうでしょう、"副長"」
「……」
ブザムは、唇を歪ませた。本当に、立派な男達になったのだと思う。
余計な気遣いをかけられれば、拒否していただろう。仲間扱いされていたら、拒絶していただろう。
彼らは自分という存在を、何一つ否定も肯定もしない。ブザムを名乗るのであれば副長として――
浦霞天明を名乗るのであれば、男として手を差し伸べている。
『――お頭、タラークの艦隊に包囲されました!』
<LastAction −不変−>
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