ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action29 -能生-
『カウントダウン、残り六十秒』
『……今更遅いかもしれないけど、こんな事ならおじいちゃまに聞いておけばよかったよ』
「流石に無理があるだろう、軍事機密に関わる事だしな」
スーパーヴァンドレッドに乗り込んだカイ達は、心静かにカウントダウンの経過を見守っている。
少なくとも、もうカウントダウンを止める術はない。方法はたった1つ、味方である証拠として認証コードを告げるのみ。
認証コードを持っている人間は、タラーク軍部の上層部に限られる。バートやドゥエロ、士官候補生達に与えられる権限ではなかった。
今になって嘆くバートに、コックピット内のカイは苦笑して慰める。気持ちはありがたかった。
「そんな事よりいいのか。攻撃が開始されたら、本格的にタラークは敵になる。
このスーパーヴァンドレッドで防衛戦を徹底して交渉するつもりだが、間違いなくいい顔はされない。
海賊に襲われた被害者である筈のお前達まで、巻き添えを食うぞ」
軍事国家タラークは、ドゥエロやバートの現状を知らない。海賊達と共にワームホールに飲まれて消えたとしか思われていないのだ。
この状況ならば被害者顔さえしておけば、少なくとも毛嫌いはされないだろう。
マグノ海賊団側にしても、たとえバート達が故郷への帰参を求めても殊更責めたりはしない。
今こそ仲間になっているが、捕虜として扱った罪悪感はあるからだ。
『それこそ今更だよ。この期に及んで、タラークになんて戻れるもんか。
お前を放置して我が物顔で帰れるほど、僕は厚かましくはないぞ。見損なうなよ』
『バートの言う通りだ、カイ。私はもうタラークには何の未練もない。帰りを持つ者もいない。
我々は最後まで一蓮托生だ。我が身可愛さに友を見捨てるほど、愚かではないつもりだ』
「お前ら……たく、そんなに熱い奴らだったか」
本当に馬鹿だと、カイは思う。何の見返りもないのに、自ら進んでバート達は苦境に残っている。
平気な顔をしているが、簡単に済む話ではない。敵対してしまった以上、タラーク側も矛先を緩めたりはしないだろう。
交渉次第とはなるが、士官候補生として錦を飾る日は永遠に来なくなるのは間違いない。
栄光は完全に途絶えてしまうというのに、彼らは何の未練もなく笑っている。その事に呆れつつも、やはり嬉しかった。
『カウントダウン、残り三十秒』
『……』
男達の馬鹿な決意は、メインブリッジ内にも届いている――マグノやブザムも、彼らの決意を聞いていた。
不器用な子達に、マグノは悲しげに視線を落とした。軽く言ってはいるが、彼らは楽観していない。
今後大変な事態になる事を大いに自覚した上で、明るく未来を語っている。
そして何より――自分達の過去を、自ら捨てようとしている。
『解析、完了。これで軍事施設を無効化することは可能です』
『人間達のバカな機雷もゴミにすることも出来るけど――ますたぁーはあくまで話し合う気なんだよね、もう』
『ユメ、分かっているとは思いますが』
『はいはい、ますたぁーの意思を背く訳無いじゃん。お行儀よく待ってればいいんでしょう。
ただし万が一攻撃が本格化したら、容赦なくバラすからね』
『そこまでエスカレートすれば、反対はしません。あくまでマスターの無事が第一です』
防衛機能がシステム化している以上、ソラやユメであれば解除はできる。ただし、あくまで時間があればの話だが。
短時間でもシステムの掌握は行えるが、あくまで無力化に限る。システムそのものを壊すしか出来ない。
完全に使えなくしてしまうと、刈り取り部隊が来た時に対応出来ない。それはカイの意思に背くことになってしまう。
出会った当初こそカイのみを第一としていたが、彼女達もまた仲間ができて視野が広がっていた。
『カウントダウン、残り十秒』
カイ達は、覚悟を決めている。
『九』
メイア達は、決意を固めている。
『八』
ドゥエロやバートは、故郷を捨てるつもりだ。
『七』
ソラやユメは、カイとどこまでも添い遂げる気だ。
『六』
カルーアは、安心して眠っている。
『五』
シャーリーやツバサ達は、大人を信じている。
『四』
パイウェイ達は、怖がりつつも応援している。
『三』
エズラは、故郷で待つ人を想っている。
『二』
マグノは、信じている。
『一』
そして――
「タラーク帝国特務諜報部中佐、"浦霞天明"」
ブザム・A・カレッサは、告白した。
「階級中佐、認証コード2038――認証、開始」
『認証完了、貴官の武勲に期待する』
――こうして、最初の関門は突破した。
あまりにも当たり前で、あまりにも意外な結末。
誰もが皆自分を信じ、仲間達を信じていた――だからこその、結果。
裏切り者が、この船にいた。
<END>
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