ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action28 -亜吏-
「カウントダウン、止まりません。本艦攻撃まで後120秒です」
「機雷原、さらに接近!」
「……っ」
次々ともたらされる凶報にマグノも、そしてブザムも唇を噛み締めている。このままでいい筈はない、けれど何か出来る状況ではない。
防衛システムを止めるには、認証コードが必要である。しかしながら、誰も持っていない。少なくとも、カイ達はそう言っている。
彼らがこの状況下で嘘を言うような、悪質な人間ではない。そもそも何の意味もない嘘だ、自分達が危険に晒されているのだから。
――嘘なんて付ける、状況ではないのだ。
「スーパーヴァンドレッドにはあんたが必要だよ。カイと一緒に戦いに行きなさい、ソラちゃん」
『しかし、防衛システムを破壊するべくアクセスを――』
「あたしがやるから、あんたは行きなさい。これでもあんたの上司なんだよ、少しは頼って」
『……後はお任せします』
即座にその場から消えた自分の部下を目の当たりにして、機関士長のパルフェは緊急事態でありながらも小さく微笑んだ。
随分と人間臭くなったものだと、本当に思う。精霊だと発覚した後でも、可愛い部下であることには違いない。
本当はカイと一緒に戦いたくて、仕方なかったのだろう。それでも懸命に使命を果たそうとしていた彼女が、心から可愛いと思える。
残り二分では何も出来ないかも知れないが、それでもやり遂げようと思う。
「私も手伝わせてくれ」
「ドクターも!?」
「士官学校で一通りの技術は習得している。決して、足手まといにはならない。
私もあの子と同じだ、パルフェ。友が戦いに出ているのに、このまま黙って見ていられない」
――カイは仲間達を連れて、先程格納庫へと走っていった。スーパーヴァンドレッドで出撃して、仲間達を守るつもりなのだ。
専守防衛とは聞こえはいいが、タラークからの一方的な攻撃を受け続けるだけだ。決して反撃が出来ない、辛い戦いとなる。
それでもカイ達は、故郷と向き合うことを決めた。刃を交えるのではなく、分かり合うために言葉を交わすのだと決意したのだ。
そんな彼を誇りとしているドゥエロは決然とパルフェに訴えて、彼女も承諾した。
「システムに直接働きかけられるソラちゃんと違って、流石に二分では防衛システムの破壊は行えない。
出来ることと言ったら、ロックオンを解除することだけだと思う」
「十分だ。この防衛システムもタラークさえ説得できれば、地球への大きな牽制となる」
「敵じゃないというのは、なかなか難しいね。カイの気持ちが、今更ながら分かるよ」
「カイの気持ち……?」
「敵じゃないから危害を加えられない、でも味方じゃない。あいつは海賊であるアタシ達を相手に、そうしていつも苦しんでいたんだよ」
「……そうだな」
海賊だから敵なのだと割り切ってしまえば、どれほど楽だったのか。勧善懲悪を貫いていけば、カイも悩まずには済んだだろう。
ヒーローを目指しているのであれば、きちんと区切りをつけておくべきだったのかも知れない。
そういった意味では、彼は自分の夢を果たせなかったとも言える。結局人であることを選び、人と接することに悩む道を選んでしまった。
その道の先が今この人間関係であれば、壊してあげたくはなかった。
「不思議だな、君達と居ると不安が薄れる」
「いいよね、アタシ達のこういうところ」
その恩恵を受けたのが、自分達だ。彼が悩みつつも人として接してきたから、自分達は友であり仲間となれたのだ。
そんな彼が今こうして故郷から敵とみなされ、放逐されようとしているのは断じて見過ごせない。
これで死人が出れば、間違いなく彼は後悔するだろう。自分のやってきたことは間違えていたのかと、再び悩んでしまう。
そんな事は、決してあってはならない。パルフェとドゥエロは、防衛システムのアクセスを試みる。
カイの呼びかけにより全員集まり、各自機体へと乗り込んで人機融合を行うと――大いなる翼を生やした、天使が降臨した。
蒼き力と紅き力の両翼、新たな力を宿した究極体。かつて地球母艦を殲滅したスーパーヴァンドレッドに与えられた、新しき力。
精霊の祝福であった。
『精霊の試練を乗り越えた、マスターの新しき力です』
『ユメ達をようやく認識してくれたから、フルパワーで戦えるよ!』
「なるほど、確かにもう全員にお前達のことが知られているもんな」
人機融合の一端であるソラとユメは初めてスパーヴァンドレッドになった時、まだ自分たちの正体は隠していた。
正確に言えばカイがきちんと精霊であることを認識していなかったため、彼女達は自分から力を発揮できなかったのだ。
試練を乗り越えた彼はソラ達を精霊だと認識できたために、こうして機体に精霊の力が宿るようになったのである。
エネルギー結晶体である彼女達のフルパワーは、圧倒的であった。
「凄まじいエネルギー効率だ……これほどの力を扱えるとは恐れ入った」
「でもでも凄すぎて、逆にディータ達が振り回されちゃいそうです!」
「全員で力を合わせて乗りこなす必要があるということね、全く」
リーダー格である三名、メイア達はプロ中のプロだが、熟練パイロットである彼女達もオーバースペックに手を焼いていた。
人機融合の一端であるデリ機にガスコーニュとバーネットが乗り込んでいる為に、彼女達がサポート役に徹する事となる。二人が補佐に集中しなければならないほどの機体なのだ。
つまり戦うのは今まで通りカイ達パイロットであり、バーネット達はサポート、エネルギー担当をソラとユメが行う役割となる。
ピョロは機体の一部として活用される為、ニル・ヴァーナとのオペレーターをミスティが一人で務める。
「余計な口答えしないであたしの言うことは全て従いなさいよ、あんた」
『連携ってそういうもんじゃないだろう!?』
「あたしの言うことは全てハイでしょう!」
『は、はい……』
「……もう力関係決まっているのか、お前ら」
こうして完成されたチームワークを見て、カイは危機的状況でありながらも笑ってしまった。
今後の展望なんて何一つ無いのだが、何があっても乗り越えていける確信は持てた。
彼も、覚悟を固める。
「こうなったら、徹底抗戦だ。根負けするまで、何度でも言葉を投げかけてやる。ミスティ、通信を繋げ続けろよ」
「分かってる。ジャーナリスト、舐めんじゃないわよ」
――はたして根負けするのは、誰なのか。
一分を、切った。
<END>
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