ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action26 -波見-
――約一年間。長くも短き旅を通じて多くの事を学んだが、カイ・ピュアウインドが何より痛感したのが、答えは決して一つではない事だった。
自分が正しく、海賊が間違えていると一方的に非難。今でも海賊という存在について認めてはいないが、自分自身の全てが正しいのではないのだと思い知れた。
タラーク、かつて育った惑星より命を狙われるこの瞬間。防衛ラインを破壊する事は、宣戦布告を意味する。
故郷を敵に回してまで、海賊を護るべきなのか――そんな考え方だって一方的だと、彼はこの瞬間に気づくことが出来た。
「お前ら、全員集合」
彼が立ち上がって手招きすると、彼の意を受けた仲間達は何の文句も言わずに彼の周りに集まった。
この状況においても、彼は諦めていない。さりとてどちらを選ぶのか、一方的に決めつけてもいない。
仲間を守るのは、当たり前だ。だからといって、故郷を敵に回すのは間違えている。ならば、両方を選べる新しい選択肢を見つけるしかない。
死のカウントダウンは、始まっている。けれど、考えることをやめたりはしない。
「一番いいのは、認証IDを告げることだ。お前ら、本当に持ってないんだな?」
『ごめん、本当に持ってないんだ。こんな事なら、おじいちゃまに聞いておけばよかったよ』
「お前を責める気はない、身内だからといって機密情報を安々と教えてくれないだろうしな。
ドゥエロ、お前の過去を今まで聞いたりはしなかったし、問い質す気もない。本当に、何のコネもないんだな」
「私はあくまで士官候補生であって、上級士官に融通する人脈もない。人間関係を疎かにしたツケが、今になって返って来てしまったな。
トップエリートなどと言われても、所詮私はこの程度だ」
「やめろ。自分の友達を悪く言われるのは、相手が本人だろうと不愉快だ」
「カイ……ふっ、分かった。二度と私は、自分を卑下したりはしない。君という素晴らしき友人がいるのだからな」
状況は何も打開していないが、ドゥエロやバートはお互いを見合わせて苦笑している。
出世なんて今も昔も何も興味はなかったが、友だちがいると言うだけで自分の未来が明るく見えてくる。
そして辛い状況でも友達がいるだけで、勇気が湧いてくる。
「ソラ、防衛システムに対してIDを認証させる事はできないか? この際、適当でもいい」
『防衛システムは独立していますので、IDを認証するにはタラークのシステムを経由する必要があります。
現在稼働中ですが時間がかかります、申し訳ありません』
「いや、何もしないよりは全然いい。続けてくれ、頼りにしている」
『! イエス、マスター。どうか私にお任せ下さい!』
『あー、ずるい! ユメだってますたぁーの為なら何でもやれるよ、命令して!』
「お前の役割は、非常に重要だ。事情は深く聞いてないが、お前は敵に繋がるシステムだろう。
こんな状況で刈り取りが来たらどうしようもないから、何が何でも足止めしろ。適当な理由で妨害すればいいから」
『うん、まかせて! ユメ、「あんな奴」よりますたぁーの方が大好きだから!』
実を言うと、カイには手があった。ソラとユメ、精霊である二人の力を借りれば、タラークの防衛システムを無力化出来る。
ただ無力化の定義が、なかなか難しい。完全に破壊すれば宣戦布告になるし、機能不能にすれば刈り取りが来た時に使えなくなってしまう。
ソラなら調整可能かも知れないが、ユメは間違いなく完全に破壊するだろう。精霊の力は、諸刃の刃だった。
カイの心中は露とも知らず、二人は主に頼りにされて張り切っている。
「バアさん、メジェールに協力を求めるのは駄目か。タラークと敵対しているんだろう」
『思い切ったことを言う坊やだね。妙案ではあるが……必ず後でややこしくなるよ』
「やっぱりそうだよな……だったらガスコーニュ、お前らが今まで奪ったタラークの物から、何かヒントになりそうなデータとかないのか」
『はは、次から次へとよく思いつくね、そんな事……急いで漁ってみるよ』
汗をかきながら必死で思いついたことを述べていくカイと、彼の提案を快く受け入れて必死で走り回る女性達。
その光景に、悲痛さはなかった。絶望は一切なく、ただ眩しいまでに希望があった。
男と女、垣根なく共に困難と戦う世界がそこにあった。
「俺達も出撃しよう」
「カイ、何度も言うが防衛システムや浮遊機雷への攻撃は――」
「分かっているよ、青髪。最悪の最悪、向こうが攻撃してきたら、俺達のスーパーヴァンドレッドで盾になろう」
「! 無抵抗を貫くつもりか……無茶な」
「タラークなんぞのオンボロ兵器で倒される俺達じゃないだろう、こうなったら我慢比べだ。
防衛システムからの攻撃は全部ガードして、浮遊機雷は無視しよう。根比べしていたら、向こうから呼びかけてくるだろう。交渉に応じるまで、白旗を振り続けてくれるわ」
「うん、タラークを攻撃なんて絶対ダメだよ!」
「無抵抗で殴られるのってジュラの趣味じゃないんだけど……」
「まさか奪う側のアタシら海賊が、無抵抗で差し出すなんてね」
そしてカイが選んだ選択は希望ではなく、絶望だった――故郷が攻撃してきたとしても、自分は敵には回らない。
メイア達と笑い合う中で、カイは内心で苦笑いを浮かべていた。当然だ、結論はマグノと全く同じなのだから。
自分が必死で考えて出した答えが、大人と一緒だったのだ。やはり答えなんて、一つではないのだろう。色んな人間がいて、色んな考え方がある。
そうして試行錯誤していって、正しい大人になれる。そんな大人になれる世界へと、しなければならない。
「よし、行くぞお前ら!」
『おー!』
「……」
何も諦めず、何も切り捨てない――ただ理想を求めてあがく、若者達。
懸命にあがく者達を遠目から見やり、一人の大人が静かに苦悩していた。
<END>
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