ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action25 -野見-








『識別番号の告知なし、旗艦を敵とみなして迎撃体制に移行する』


 浮遊機雷が大量に設定されたタラークの戦闘領域に踏み入れた融合戦艦ニル・ヴァーナに告げる、最終宣告。

無慈悲でありながら、きわめて常識的な警告。不法侵入者を許さないのは、国家であれば当然とも言える。


まして彼女達はマグノ海賊団、国家の敵とみなされても仕方がなかった。


『タラークの認証コード――兄ちゃん達は、持っていないのかい?』


 クリスマス会場に集っている女性達は揃いも揃って全員、一斉にカイへと目を向けた。

否が応でも高まっている期待の視線に、カイはぎょっとする。本人は一切分かっていないが、カイの評価は一年間の旅で天井知らずに高まっている。

初対面では敵同士だった過去が嘘であるかのように、家族同然の関係として今成立している。


どんな危機的状況に陥っても必ず助けてくれた彼を、皆は何よりも信頼していた。


「期待されているところ申し訳ないが、三等民――労働階級だった俺には、そんな上等なもの渡されていない」

「宇宙人さんが、労働階級!? そんなの、絶対変だよ!」

『全くもってその通りです、ディータ・リーベライ。マスターを奴隷のように扱うなど、許されることではありません』

『ほんと、人間なんて死ねばいいのに。ユメがいるから、もうますたぁーにそんな真似させないよ』


「身内贔屓は恥ずかしいからやめろ」


 酒場で養父と二人で働いていた頃と違って、今では自分を養護してくれる少女達がいる。その事実を噛み締めつつも、カイは羞恥に顔を赤くしていた。

軍用基地の認証コードともなれば、カイどころか養父であった酒場のマーカスでさえも持っていない。


おいそれとたやすく与えられるものではないのだ。


「俺よりむしろ我らがタラークを代表するエリート様達に聞いてくれよ」

『どうして無闇にハードルを上げるんだ、君は!?』

「おにーちゃん、持っていないの……?」

『うっ――』


 カイならともかく、純真無垢なシャーリーに問われて、バート・ガルサスは操舵席の中で固まった。

彼の答えはもう明白なのだが、シャーリーにとってバート・ガルサスは白馬の王子様である。

病の惑星で出会った印象はそのままに、彼を純真に慕っていたシャーリーの信頼は何も落ちていない。


いつも一生懸命で明るく、友達を大切にする人が自分の家族であることが、シャーリーにとって自慢であった。


『うう、ごめんよ、シャーリー……士官候補生だった僕には与えられなかったんだ……』

「友人として言わせて貰えれば、識別番号はそもそも上級士官にしか与えられない。バートが持っていないのは仕方がない事だ。
申し訳ないが、私も持ち合わせていない」


 この船にいる男三人からの言葉に肩を落としながらも、カイ達を責める声が何処からも出なかった。

ドゥエロの発言が正しければ、彼らが持っていなくても仕方がないことだ。仮に彼らがそれほど上級な士官であったのならば、逆に扱いに困っていたかもしれない。

立場の低い男三人だからこそ、警戒こそしたものの生かして捕虜にすることが出来た。男女共同生活も、似たような立場だから実現したのだ。


おエライさんであったのならばむしろ扱いに困って、放り出されていたかもしれない。仕方がないことではあるのだが――


「……っ」


 ――唯一、マグノ海賊団副長であるブザム・A・カレッサが苦渋の表情を浮かべた。

カイ達を責めるつもりは毛頭ない、それは事実だ。だが状況が何も好転していない、これもまた事実なのだ。

とどのつまり識別番号を伝えなければ、相手はこちらを敵とみなして攻撃してくる。今必要なのは信頼ではなく、確かな情報だ。


識別番号が無ければ、この状況は乗り越えられない。



識別番号が、無ければ――



『防衛システム、ニルヴァーナに照準を合わせました。カウントダウン、始まりました!』

「3:00」


 ――三分。


与えられた猶予は、たったの三分。この三分間の間に識別番号を伝えるか、何らかの行動を取らなければならない。

猶予は全くといっていいほど、余裕がなかった。当たり前だが、不法侵入者に残された時間は少ない。


対処しなければ、攻撃される。


「バアさん、無いものは無いんだ。強引でも突破するしかない!」

『駄目だ、さっきも言っただろう』

「ボケっとしてても、攻撃されるだけだろう!?」

『強引に突破すれば、今度という今度こそアタシらは故郷の敵になってしまう。地球が迫っているこの時に、仲間割れしている場合じゃない』

「相手が、俺達を仲間だとみなしてないだろうが!」



『お前さんは、それでいいのかい? タラークとメジェール、男と女に分かれてしまった今の世界を変えたかったんだろう』



 ――引き金を引くということは、覚悟を決めるということだ。


タラークは確かにマグノ海賊団を敵視しており、不法侵入者として攻撃しようとしている。それは、彼女達が犯した罪である。

そんな彼女達を断罪したのが、カイだ。今だって彼女達を仲間だと思っていても、海賊そのものは否定している。タラークが防衛しようとしている事自体は、間違いという訳ではないのだ。


もしもカイが彼女達を庇って防衛施設を攻撃すれば、カイもまた故郷の敵になってしまう。タラークからすれば、同乗しているカイも同じ仲間なのだろうが――


「そ、それは……」


 ――あくまでカイは、海賊の仲間になったつもりはない。

仲間を庇うのか、それとも理想を守るのか。


故郷を前にして、カイは選択を迫られる。

 





















<END>







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