ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action24 -旗魚-








『こちらはタラーク領域、自動防衛施設である。旗艦の識別番号を告知せよ』


 浮遊機雷が大量に設置された領域。戦闘空域に存在する防衛施設より、融合戦艦ニル・ヴァーナに音声信号が送られてくる。

伝えられた音声は歓迎の挨拶ではなく、問答無用の最終警告。容赦なく戦艦を破壊するという、無慈悲な通告であった。

海賊団お頭であるマグノの計らいにより、タラーク人である男三人にはこの音声は何の改竄もせずに伝えられている。


正確に言えばカイは地球人なのだが、彼はもうマグノ達から家族同然として扱われていた。


『告知無き場合――攻撃を開始する』


 タラークより伝えられた言葉は、同郷の人間を案ずる声ではなかった。

海賊に襲われた挙げ句生死不明となった仲間を全く心配せず、あらゆる幸運と不運を超えて帰ってきた家族を思い遣る言葉も無い。

この音声を聞いた女性達はタラークの無慈悲な通告を怒るのではなく、まず真っ先にカイ三人の心境を案じた。


故郷に捨てられたのは、マグノ海賊団の者達も同様である。その痛みは誰よりも、共感できた。


「――カイ、気にするなよ」

「バート……?」

「君は、私やバートの大切な友だ。君の価値は、我々が一番良く理解している。
君程の男を労働階級として扱き下ろすような者達の事など、何も気にする必要はない。

君は決して、独りではない」

「……ドゥエロ」


 ――カイの本音としては正直、タラークからの宣告に対して特に何も感じていなかった。

記憶は既に取り戻しており、自分が地球人であることは分かっている。その地球も狂気に侵されており、愛国心などもはや微塵もなかった。

タラークにしても酒場で拾われた養父以外の者達には、何の思い入れもない。


その養父も旅立ちの時に別れは告げている。もう会えなくなりそうなのは残念だが、独り立ちしたつもりだった。


『マスター、私はこれからも永遠に貴方の従者として従う所存です』

『ユメも、ずーとますたぁーと一緒にいるもん。妹であるカルーアも出来たし、しょーがないから人間の味方もしてあげるよ』

「こんな状況でもお前らというやつは、全く……ありがとうよ」


 本当に気にしていないのだが、ソラやユメ達にまで励まされてカイ本人も苦笑するしかなかった。

しかし同時に、これで正式に心の整理もつけられた。受け入れられなかったのは残念だが、致し方ない話だとも思う。

そもそもタラークに帰る気は元からなかったので、いい区切りにはなったのかもしれない。タラークへ戻ったところで待っているのは、重労働だけなのだから。


なのでカイは仲間達に感謝しつつも、マグノに通信越しに呼びかける。


「どうする、バアさん。俺達全員、揃っているぞ」


 クリスマスパーティー会場には、カイ達全員が揃っている。パーティ気分は既に吹き飛んでおり、全員が臨戦状態にはいっている。

カイが言う全員というのはメイア達、スーパーヴァンドレッドが起動できる全員を示唆している。ソラやユメも通信可能な状態、ピョロも会場に出入りしていた。

スーパーヴァンドレッドは非常に多機能な機体であり、総合的に優れた究極の合体である。可能性は無限大に等しく、母艦に匹敵する戦力があった。


カイの呼びかけに対して、メインブリッジで指揮しているマグノが首を振る。


『駄目だ、これはいずれやってくる地球への足止めになる。強行突破は出来ないよ』

「ぐっ……!」


 大量の浮遊機雷であっても、スーパーヴァンドレッドの火力なら掃討できる。それはマグノも熟知していたが、カイの提案を棄却した。

そもそもこれほど大量の浮遊機雷を戦闘領域に設置しているのは、もしかするとマグノ達がかつて両国家へ送った地球からの警告を受けてのものかもしれない。

そう考えれば納得がいく反面、自分達が海賊であることを考えると別の可能性も生じてくる。


文字通り歓迎されていない、そういう事だ。行方不明になっていた海賊が戻ってきて、わざわざ歓迎するものはいない。


「バアさんの言っていることは分からんでもないが、肝心の俺達が足止め食らっているじゃねえか」

「落ち着け、カイ。憤りを感じる気持ちは理解できるが、我々が潰し合っている場合ではない」

「相手が明確に敵意を示しているってのにどうしろと言うんだ」

「それは――」


「やめてリーダー、それに宇宙人さんも。喧嘩している場合じゃないよ!」


 言い争いになりそうな気配を察して、ディータが二人の間に割って入る。一年前は恐縮していただろうに、見事な勇気だった。

ディータの一寸狂わぬ正論に、カイやメイアはお互いを見つめて黙りこくった。気まずい雰囲気はない、単純に反省しているのだ。

ただ言い争っても駄目なのは理解できるのだが、さりとてこのまま黙って静観するわけにもいなかった。


通告に対して無回答なままだと、問答無用で攻撃が開始してしまう。


「ねえねえ、ヴァンドレッド・ジュラでどうにかならない?」

「もうちょっと具体的に頼む」


「だから前にやった戦法よ。シールドで浮遊機雷を包んで、撤去するのよ」


「ああ、以前偽ニル・ヴァーナを行動不能にしようとした戦法か。悪くはないけど、浮遊機雷の設置場所が広すぎるからカバーしきれないな」

「それに変に撤去しようとすると、タラークが警戒してまとめて爆破するかもしれないわ」


 ドレッドチーム副リーダーであるジュラが、別の切り口から提案する。思い付きにしてはなかなかの発想だが、無理があった。

浮遊機雷を撤去するのはそれこそ戦闘全体をシールドで包み込む必要があり、ヴァンドレッド・ジュラが優秀な機体であってもそれほど広範囲にはカバーできない。

ならば小規模に少しずつ撤去する方法もあるが、こまめに繰り返していてはタラーク側が警戒して全機雷を爆破してしまうかもしれない。


カイやバーネットが、それぞれの観点で否定すると、ジュラが露骨にむくれた。


『――識別番号の告知なし、旗艦を敵とみなして迎撃体制に移行する』

「ぬおおお、せっかちな奴め!?」



 死のカウントダウンが、始まる。

 





















<END>







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