ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action23 -下石-








「た、たいへんだーーーー!!」


 ――クリスマスパーティ会場に響き渡る、バート・ガルサスの絶叫。


他でもない彼からの悲鳴を聞いた仲間達が第一に思ったのは、また何かしたのかという諦観である。もう既に慣れっこであって、驚きでも何でもなかった。

バートはお調子者だが、実のところ問題児とまで言われるほどではない。年上を重んじる古風な男は意外と礼節が出来ており、仲間達の評価もさほど悪くはない。


ただたまに騒ぎも起こしてしまうので、こうして仲間達から呆れられたりもする。


「よお、サンタクロース。参上するなら、子供達の憧れであってくれよ」

「僕だって今日という日のために必死で漁って、こうしてコスチュームを整えたんだよ!? シャーリーの前でカッコつけたかったのに!」

「お、おにーちゃんはいつでもカッコいいよ!」


 イベントクルーよりクリスマスの余興を頼まれて、律儀にサンタクロースの扮装でパーティ会場に飛び込んできたバート。

同じくクリスマスパーティーに参加してきたシャーリー達が、今日のピエロ役に拍手喝采を上げる。本人が思う以上に似合っていた。

シャーリー達に褒められたバートは仲間達の呆れた視線もかまわず、喜びのガッツポーズを取る。一応、努力は報われた瞬間だった。


とはいえ、すぐに我に返る。本人からすれば、それどころではない。


「そ、それよりも大変なんだって!」

「サンタクロースが慌てていると、子供の夢が崩れるぞ」


「コホン――フォッフォッフォ、大変じゃぞ諸君」


「や、やばいぞ、ドゥエロ……このサンタ、いじると面白い」

「私はバートの未知なる可能性に気づいていたぞ、カイ」

「ドゥエロ君まで一緒になって囃し立てないでくれ!?」


 カイとドゥエロが笑いながら囃し立てられて怒るバートを見て、子供達が大声を上げて笑っていた。余興としては最適で、女性達も面白がっている。

余興としては大盛り上がりな出来栄えで、イベントクルー達も彼の抜擢に大いに満足していた。ミスティは一人、呆れていたけれど。


クリスマスパーティがバートの参戦に盛り上がる中、一人冷静なメイアが問い質した。


「それで大変な事が起きたというのは結局なんなんだ、バート」

「そ、そうだった! 大変なんだよ!」

「分かったから勿体つけず、内容を言え」


「タラーク・メジェールへの針路上に、大量の機雷が設置されているんだよ!!」


「……」

「……」


「本当に大変じゃねえか!?」

「早く言いなさいよ、それを!」

「だから大変だと何度も言ったじゃないか!」


 ――こうして男女開催のクリスマスパーティは幕を閉じた。


本人は気付いていないが、最後にバートがサンタクロースの格好で飛び込んでくれたおかげで、仲間達は気持ちよく笑って終えられた。

この先、いよいよ最後の戦いが始まる。超えられた筈の男女の垣根は高く、こうして仲良く生きていくことを決して許してはくれない。

強大な敵がやってくる。帰るべき故郷が無事である保証もない。この場にいる者達が、生き残れるとは限らない。


それでも――

 




 




 



 突然敵が襲いかかってくる事態は、この度で何度も経験している。クリスマスパーティで浮かれていた者達は全員、素早く意識を切り替える。

非常警報が鳴り響いて、全員持ち場へ戻った。カイはすぐにツバサに部屋へ戻るように言明し、本人は不服そうではあるが大人しく従った。

バートもこの時ばかりはシャーリーに我儘を許さず、ツバサと一緒に待っているように伝える。少女も何も言わず、ただ家族の無事を祈った。


メインブリッジには総員が集って、修羅場へと帰還する。


「バートの報告通り、機雷原を確認。広範囲に渡って設置されています!」

「浮遊機雷は、タラークの最終防衛ラインみたいです!」


「タラークの……防衛ライン」


 報告を受けた海賊団お頭のマグノが息を呑んだ。やはりというべきか、機雷を設置していたのは地球側ではなかった。

よりにもよって自分達の帰還を阻んでいるのは、カイ達の故郷であるタラーク。けれど確かに、味方かと問われれば首を振るしかない。

そもそもの話、マグノ海賊団はタラークにとっては敵である。何度も物資や資材を強奪し、彼らの船を襲ったのだから。


カイ達と出会ったのも、彼らが乗船する軍艦を襲った時である。


(因果応報ってやつかい……やれやれ、手厳しいね)


 心に小さな痛みを感じるのは、カイ達という将来有望な三人が仲間として迎えられたからだ。

マグノにとってカイやドゥエロ、バートはもはや我が子、我が孫同然だった。どの子も問題揃いだが頼もしく、可愛げのある少年達だ。

元々男女の垣根のない年代であるだけに、マグノは最初から三人を敵視していなかった。捕虜として最初は扱ったが、今ではもう家族そのものである。


そんな彼らを無事に故郷へ返してやりたかったのは、本心だった。


「音声信号が届いています。いかがされますか?」

「……あの三人にも聞こえるようにしておくれ」

「よ、よろしいのですか?」


 メインブリッジクルーのアマローネに問われて一瞬思い悩んだが、マグノは決断する。

歓迎の挨拶ではないことは、明らかだった。無数の機雷を針路上にばらまいているのだ。帰ってくるな、と言わんばかりである。

バートやドゥエロは元士官候補生なので行方不明リストに乗っているだろうが、労働者として乗船したカイは認識さえされていない可能性が高かった。


そんな故郷からのメッセージは彼らにとって辛いだろうが――


「大丈夫、あの子達にはアタシらがいるさ。決して、見捨てやしない」

「はい!」


 ――それでも、楽しかった思い出は決して消えることはない。

サンタクロースは確かに、良い子にプレゼントを贈ってくれたのだから。

 





















<END>







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