ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action21 -神木-
精霊の試練を終えたミスティはソラと何気ないことを話していると、メイア・ギズボーンがカイ達に先立って様子を見にやって来た。
彼女もカイと同じく去年はクリスマスパーティにあまり参加できていなかった為、イベントクルー達を筆頭に半ば見張られていた。
信用されているのかいないのか、仲間達の行動を思うと複雑な気持ちになりつつも、彼女なりにこのクリスマスはニル・ヴァーナで過ごしている。
ミスティもその一人であり、メイアにとっては気にかける人間であった。
「精霊との対話か、カイから話には聞いていたが」
「独り者同士仲良くやっている訳ですよ、あはは」
自分は独りではないと内心思いつつも、ソラは口を出さなかった。
精霊との対話を終えて、今後は大切な人と話す機会がミスティには必要だと、彼女なりに気を使ったのである。
それが仲間を想う気持ちそのものなのだが、ソラにはその自覚はなかった。
気を使うという繊細さこそ、人の情緒であるというのに。
「お前達は独りではないだろう、今頃カイ達が探しているぞ」
「まあ何となく想像がつくんですけどね……別に嫌っているわけじゃないんですけど、ただ」
「ただ?」
「故郷を前にした彼らを前にすると、どうしても萎縮しちゃいそうだから」
ミスティは独りではないが、仲間達と同じ気持ちを共有出来ない。
仲間達に囲まれていても教諭出来ないのであれば、それは独りと変わらないのではないだろうか。
ミスティの心配はもっともであり、同時に仲間達の感動にも水をさしてしまう可能性さえもあった。
そして彼女のそうした不安を、メイアもかつては持っていた。
「私も以前は、独りだった」
「えっ、お姉様が……?」
「結局違っていたのだがな、それでも自分は独りだと思っていた。思い込んで、仲間達を自ら遠ざけていた。
他人と関わると、弱くなってしまう。仲間達の間で孤立するのではなく、自ら進んで一人となる。
孤高となることが、人として最も強い生き方だと思っていたんだ」
憧れていた父親は世間から批判を受けたまま居なくなり、大好きだった母親はメイアを守って死んでいった。
両親は自分の娘を誰よりも愛し、それでいて大切な存在がありながら道半ばで絶えてしまった。
ならば、最初から独りで生きた方がいい。独りのままで強くなれば、生物として完成される。
孤高の生き様を、メイアは自ら望んでいた――が。
「そんな私と真逆の生き方をしている人間、カイという男を私は知った」
「……あいつ」
「あの男が望む英雄像は、一人では完成されない。多くの仲間、大切な家族、頼れる友人たち、そうした多くの人達があってこそのヒーローだ。
そうした奴のあり方を見て、私も自分の考え方を改めた。なんせ、この私が何度も助けられたのだ。一人で生きようとして、あの男に救われてしまった。
今こうして故郷を前にして、私は自分の敗北を認めたよ――カイがいなければ、生きて故郷へたどり着けなかった」
「お姉様……」
喜ばしいことだと語っているのに、メイアの表情はひどく悲しげだった。
自分の過ちを認めることが辛いのだと、ミスティはすぐに分かった。相手の気持ちが分かる、それこそが共感なのだと。
二人は、カイを聖人だとまで思っていない。彼だって多くのことを間違えて、沢山傷ついてきたのだから。
けれどそれでも、彼は一人を決して選ばなかった。いつも仲間達と一緒に戦って、苦難を乗り越えてきた。
「ミスティ、お前の気持ちはよく分かる。私がどれほど気遣っても、故郷から出てきたお前の孤独を分かってやることは出来そうにない。
けれどそれでも、お前は一人じゃない。独りだと思うことはあっても、孤独に感じることは決してない。
お前だってカイと同じく、立派にここまでやって来たんだ――心温まる仲間達がいる限り、お前が独りで震えることはない」
「……うん」
ミスティの孤独は、晴れることはないだろう。仲間達が盛り上がっていても、ミスティには感動を共有できない。
だが仲間達もまた、そんなミスティの孤独は分かってやれる。晴れることはなくても、晴れやかに騒いであげられる。
自分から一人になろうとしなければ、仲間達が群がってくれる。きっと、大いに盛り上げてくれるだろう。
そしてそんな仲間達の中には――
『マスター、ミスティ・コーンウェルはこちらにいます』
「本当だ、青髪の奴もいやがる。お前らは協調性というもんがないのか」
「ちょっとソラ、いつのまにこいつを呼んだの!?」
『マスターがお探しでしたので、お伝えいたしました』
「ぐぬぬ、このマスター大好きっ子め……」
つい先程まで傍に居たソラが、いつの間にかカイを連れてミスティ達を指さしている。
呆れた裏切り行為に、ミスティは肩を落とした。そしてメイアと顔を見合わせて、大いに笑った。
カイがいる限り、一人にはもうなれそうにない。
<END>
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