ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action19 -角力-








 ――ジュラが失神してしまい、ヴァンドレッドの継続が不可能になってしまったので、カイはニル・ヴァーナへ帰還した。

幸いにも磁気嵐を抜けて、任務は達成されている。継続する必要もないので、艦より牽引してもらって帰投。

そのまま医務室へ連れて行くべきか一瞬悩んだが、ジュラはすぐに目覚めたので、カイは胸をなで下ろした。


キスによる失神という赤面ものの恥ではあったが、ジュラは特に気にした様子を見せずゴキゲンでカイについていった。


「おかえりなさい、宇宙人さん!」

「クリスマスパーティを始めるわよ、ジュラ」


 任務を終えた、二人。身体は休息を求めていたのだが、仲間の呼びかけに従って、会場へと移動させられる。

クリスマスパーティ、男女共同生活が始まって二度目の開催。喜ばしきクリスマスは、再び訪れたのだ。

最初の乾杯こそ終えていたが、本格的な祝杯は彼らの帰還によって盛大に行われた。最初からの予定通りである。


皆の心遣いが嬉しかったのか、カイ達も素直に笑みを浮かべてグラスを掲げた。


「無事に故郷へと着いたんだよ、宇宙人さん。今まで本当にありがとう」

「一時はどうなることかと思ったが、お前とのコンビも板についてしまったな」

「えへへ、そうかな。すごく嬉しい!」


 ディータ・リーベライ、思えばこの少女は最初から徹底してカイの味方となってくれていた。

おそらく最初は男という異性に対する珍しさが、宇宙人マニアだったディータの好奇心を大いに刺激したのだろう。

未知なる存在への接触がよほど嬉しかったのか、彼女はずっとカイとの交流を望んでいた。


刈り取り――地球ということなる価値観を持つ存在を思えば、間逆な行動だったと言える。


「男を知っても、お前は俺を宇宙人呼ばわりするんだな」

「あ、ごめんね……宇宙人さんには迷惑だった、かな」

「いや、もう慣れた。それに俺だって結局、お前を名前では呼んでなかったからな」


 ディータの困ったような顔に、カイは苦笑いして首を振る。逆の立場で考えれば、彼女の気持はよく分かるからだ。

親しくなればなるほどに、呼び名であれど変化を恐れてしまう。人間関係の怖さを知れば、尚更だ。

微細な変化であっても、人間関係には多大な影響を及ぼしてしまうことだってある。


カイやディータは、そうした変化をもって今の関係を築き上げた。


「……あ、あの、宇宙人さん。宇宙人さんさえよければ、名前で呼んでもいいかな」

「うーん……別に悪くはないんだが」

「な、なにか困ることでもある?」


「他の連中に囃し立てられるぞ。故郷へ着いた途端、親しく名前を呼んでいると」

「あはは……それはそうかも」


 故郷へ到着した瞬間、名前を呼び合う男女――誰がどう見たって、恋人関係にしか見えない。

軍事国家タラークと女系国家メジェールで生まれ育った男女に、恋愛の機微はない。

しかしながら男同士でも家族は作れるし、女同士でもファーマとオーマにはなりえる。


家族という概念自体はあるために、人間関係の成就は叶うのだ。


「――で、でも」

「うん……?」

「う、宇宙人さんさえよければ、ディータはそれでもいいよ」

「――お前」


「ディータはずっと、一緒にいたいから」


 カイは、目を見張った。いつも素直なディータではあるが、思いを打ち明けることとはまるで違う。

素直さは心の引き出しを開ければ済むのだが、思いを打ち明けるには勇気が必要となる。

彼女が勇気を出せたのは変わることへの恐怖を、自分で克服できたからだ。それは本当に、素晴らしいことであった。


だからこそ、カイもせめて真正面から向き合うことが出来た。


「……自分の未来についてはまだわからないけど」

「うん」


 彼女が勇気を出せたのは――失うことへの不安の裏返しでもあった。


カイがメジェールへ行くことは現実的には難しく、さりとて海賊のアジトには足を向けられない。生き方を、否定したのだから。

ディータが海賊を続けるのであれば、カイと共に歩むのは無理だ。だからこそ、ディータは自分の思いを打ち明けたのだ。

カイと一緒にいることを、第一に望むのだと。


「お前との未来のことは、きちんと考えるよ」

「うん!」


 今までずっと独り相撲だったカイ、将来のことも全て自分を中心に考えてきた。


そうした自分本意な生き方は、他人を寄せ付けない。そんなカイを思ってこそ、ディータは気持ちを打ち明けたのだ。

カイを思ってこそのディータの気持ちに、カイは一人で相撲を取る事をやめた。誰かと共に歩く人生もあっていい。


クリスマスの夜――少年と少女は未来を思って、距離を縮めた。























<END>







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