ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action18 -香美-
――精霊の試練が、終わった。
精霊との対話を終えて、ミスティが静かに満天の宇宙を見上げている。無論艦内なので窓からしか見えないが、星は輝いている。
感慨は、特に無かった。ソラはミスティを試し、ミスティはソラへ言葉を投げかけた。
本質はまるで異なる二人、それだけに心が通い合うことはないが、分かり合える部分は確かにあった。
『マスターが役目を終えました』
「磁気嵐を抜けて、故郷へ辿り着いたのね」
二人は寄り添わず、それでいて離れず、その場に立って会話を繰り広げている。
カイは見事にやり遂げた。故郷を飛び出して旅に出て、多くの戦いを繰り広げて再び故郷へと無事に帰ってきた。
艱難辛苦の繰り返しだったが、彼は生きて帰ってこれた。途中からの合流だったが、どれほど大変な旅だったのかよく分かる。
本来であれば故郷に錦を飾れる戦果であるはずだが、彼は堂々と故郷の地は踏めない。
「あたしにあれこれ聞いてたけど、結局あんたはどうするのよ」
『私は、マスターと共に在ります』
「見上げた忠誠心だけど、カイはそれを望んでいるのか分からないでしょう。迷惑になるとは思わないの?」
『……』
返答が無くなり、思わずミスティは映像のソラを見やる。言葉に詰まった様子はないが、聞き逃がせる言葉でもなかったようだ。
自問自答、自分は何故この世に誕生したのか。人間であろうと、それでなかろうと、永遠のテーマだ。
自分の生きる理由を思い馳せて、ミスティはようやく自分の失言に気付いた。
ソラという少女は、真面目だ。自分の価値を追求しだしたら、永久に考え込んでしまうかも知れない。
「あたしが言っておいてなんだけど、生真面目に考えなくていいでしょう。どうせあいつ、あんたの面倒だって見るだろうし」
『マスターにご迷惑をおかけするつもりはありません』
「その心がけがあれば大丈夫よ、きっと」
何だか励ますような形になっていることに、ミスティは思わず忍び笑いを浮かべてしまう。
自分だって故郷を失い、居場所はない。真実を追求する使命には目覚めても、自分の人生の全てを悟ってはいないのだ。
孤独ではない、あまり認めたくはないがカイ達という友達はいる。何だかんだで気にかけてくれる人達はいるのだ。
だが、マグノ海賊団のように――タラークやメジェールを前にして、感動は共有できない。
「ここにいたのか、探したぞ」
「お姉様……」
顔をあげると、ペークシス・プラグマの保管庫にメイア・ギズボーンが入ってくるのが見えた。
探しに来てくれたと知り喜びは溢れ出てくるが、同時に疑問も湧いてくる。何故此処にいると、分かったのか。
ペークシス・プラグマは厳重に管理されており、探せば見つけられるような場所には管理されていない。
それこそ此処にいると確信を持てなければ、わざわざ足を運んで――
そこまで考えて、ミスティはようやく気付いた。
(アンタが呼んだのね……どういうつもりよ)
(大切な人を思っていたようでしたので)
精霊の試練恐るべし、とミスティは肩を落とした。なるほど、心を試される良い試練である。ソラに見抜かれていた。
ソラはニル・ヴァーナ全艦を掌握しているシステムと、連動している。
ミスティを探すメイアを見つけて、ソラが自ら教えたのだろう。所在が分かれば、居所がバレて当然だった。
余計なお節介だとは思うが、メイアが探しに来てくれて嬉しいという気持ちもあって、反論できなかった。
「イベントチーフが探していたぞ、クリスマスパーティを開催するそうだ」
「うげっ、急かされている」
「それを言うなら、見抜かれているというべきだ。お前が一人でいると、心配していたぞ」
精霊の試練を受けて少しは心境も変わったと自覚していたのだが、年上の女性達からすればヒヨッコであるらしい。
故郷がなくて寂しいという気持ちも、若気の至りのように思われているのだろうか……?
――いや、違う。
「パーティへ戻る前に少しだけ、相談してもいいですか」
「勿論だ、なんでも話してくれ」
メイア達もまた、故郷を飛び出してきた者達――仲間なのだ。
<END>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.