ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 23 "Motherland"






Action9 -珈夢-








 ニル・ヴァーナ艦内がメジェールとタラークへの到着間近で賑わう中で、ミスティと子供達は喧騒に押されるように歩き回っていた。

彼らにとって、メジェールやタラークは故郷ではない。彼らは故郷を捨てた者達であり、帰るべき場所ではなかった。

寂しさを感じないことはないのだが、さりとて寂しさを訴えるほどの可愛げはない。


ゆえに集って、別段用事もなく歩き回っている。


「たく、あいつら……子供みたいにはしゃぎやがって。みっともねえ連中だな、おい」

「でもツバサちゃん、お家に帰れるのはやっぱり嬉しいよ」

「お前だって家なんて無いじゃねえか、シャーリー」

「シャ、シャーリーにはお兄ちゃんがいるから、それで……」

「ちっ、アタシだってあの馬鹿がいるからいいんだよ」


 ミスティは聞き役に回って、子供達の話を聞いている。賛成も反対もせず、会話にも熱心には加わらない。

話というのは単に、聞くだけでも本人達には満足できる場合もある。それだけで、救われることもあるのだ。

子供達同士で遊んでいても楽しいが、大人だけで盛り上がられると仲間はずれのような気分にさせられる。


だから、ミスティのような存在が重要となる。


「故郷がなくても、家族がいるだけでいいじゃない」

「おお、わりーな。家族いないお前への嫌味になっちまった」

「いいの、あたしは一人でも生きていける大人の女なんだから」


「でもそれって、寂しいですよね」

「うっ……結構ズバリと言っちゃうよね、シャーリーちゃん」


 寂しいのか寂しくないのか問われれば、寂しいに決まっている。

強気か強がりなのか聞かれたら、強がりなのだと言ってしまいそうになってしまう。

子供の前だから言わないが、ミスティだってまだ思春期の女の子なのだ。


小さい子供達と遊んでいる我が身が、寂しくないはずがなかった。


「第一お前、向こうについたらどこに住むつもりなんだ。家ねえんだろう」

「それを言っちゃうと、アンタだってどこに住むのよ。あいつ、労働階級とか何とか言ってたわよ」

「あ、アタシはいいんだよ。アタシがあいつの面倒みてやるんだからよ!」

「よくもまあ、そんなに強気に言えるわね」


 ツバサはミッションで育った少女、劣悪な環境で一人育った子供だ。

並大抵の胆力ではなく、道端でも平気で眠れる精神力を持っている。

子供らしくなってきたのはあくまで、カイと一緒に住み始めてきた頃からだ。


彼女は元々一人であり、家族が出来て少女の微笑みを取り戻している。根っこは、ギャングスターの如き頼もしさがあった。


「ハァ……ほんと、どうしようかな」


 目的は確固として存在する。地球の真実を明らかにして世間に知らしめ、断罪する。

そもそも故郷を失ったのは、紛れもなく地球が原因だ。地球が自分の故郷を、大切な居場所を奪った。

許せないという気持ちは復讐ではなく、義憤である。ゆえに彼女は狂わず、未来を見据える余裕がある。


ただその義憤の先が、まだ見えていない。


「号外、号外ピョロー!」

「あいつ、いなくなったと思ったら、なんかまたやらかし始めたぞ!?」


 ユメやピョロも最初は一緒だったのだが、いつの間にか二人していなくなっていた。

ツバサ達は不思議に思いつつ気にかけていなかったのだが、本人が向こうからやってきた。

問答無用で撒き散らされるニュースペーパーに、ミスティは反発しつつもジャーナリストとして手を取ってしまう。


どんな精神状態でも、情報が来れば手にとるのが性分だ。



「『メジェール・タラーク到着記念パーティー、開催決定』!?」



 そのまんますぎて、思わずミスティは頭を抱えたくなってくる。脳天気すぎる。

よく副長やマグノが許可したものだと思うが、それほどめでたいということなのだろうか。

故郷へ到着したからといって戦いが終わるわけではないのに、こんなことをしていて大丈夫なのだろうか?


――何よりも。


「お前、イベントチーフさんが呼んでたピョロよ。イベント主催よろしくだって」

「あたしのナイーブな気持ち、少しは汲んでくれないの!?」


 思い悩んでいる暇はないと言わんばかりのお誘いに、ミスティはげんなりさせられる。

呆れ果てる思いなのだが、同時に主催を頼もうとするチーフの真意もなんとなく感じ取れた。

悩んでいるであろう自分に対して、わざわざ役割を押し付けようとしているのだ。


自分のような故郷無き身でも――夢のような未来があるのだと。























<END>







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