ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action8 -開国-
カイ達と歓談を終えたドゥエロは、医務室へ戻って一人通常業務へと戻った。
カイとバートは、磁気嵐からの脱出で労力を費やしている。彼らが仕事に専念している以上、彼らの邪魔をしてはいけないと配慮したのだ。
医務室には良くも悪くも今、誰もいない。患者がいないのは喜ばしいことであり、同時に彼に救急性の高い任務はないことを意味していた。
ゆえにカルテの整理など、今のうちに出来る雑務に着手している。
――楽観視しているのか、不安視しているのか、ドゥエロは自分の心を整理していた。
カイ達と話していて、思う。故郷タラークへ到着したことを喜んでいる自分、その感情の源にはカイとバートの存在が確かにあった。
もしも自分一人だったら、たとえ無事に故郷へたどり着いても喜べなかっただろう。
故郷での日々は、自分にとって退屈と退廃の日々でしかなかったから。
(出来る事を今、か)
それが今では、共に帰れる友がいる。これからの自分の日々に彼らがいると思うだけで、とても胸が踊っている。
勿論、現実的には非常に厳しい。バートはともかく、カイは労働階級の三等民だ。立場や階級という壁は、士官候補生の自分には厚い。
軍事国家であるタラークにおいて、階級は絶対である。下級の人間を無理に虐げる法はないにしろ、友人としては付き合えない。
――だからこそ、今の内に雑務を終わらせておかなければならない。
(故郷へ着いたら、やるべき事が多いからな)
ほぼ間違いなく医療に携わっている場合ではなくなると、ドゥエロは予想している。地球との決戦前にこそ、自分達の本領が試される。
最終決戦の場に、自分はいない。戦える役割ではないからこそ、戦える者達を癒やしていかなければならない。
医療の現場に戻るためには、故郷に向き合わなければならない。全ての戦力を投入しなければ、地球には勝てないのだから。
カイやバート、友人達が仕事に励む中でドゥエロは最後の仕事に取り掛かっていた。
「やっほー、ドクター」
「君か」
ひょっこりとパルフェが医務室へ顔を覗かせるが、ドゥエロは見向きもせずに仕事に集中している。失礼な態度だが、パルフェは気にしない。
一年間同じ艦で共同生活を過ごし、同じ修羅場を潜ってきた仲。気心の知れた関係に礼節こそ大切でも、遠慮は無用だった。
パルフェも特に熱烈な歓迎を期待してきた訳でもないのだろう、どこ吹く風とばかりに医務室へと入ってくる。
何気ない調子で、仕事中のドゥエロに話しかけた。
「調子はどう?」
「……悪くない」
少しばかりの間、意識するほどでもない一呼吸。されど返答において、一瞬であっても間があった。
パルフェはドゥエロの返答を聞いて、一瞥。寡黙な彼は、言葉だけで表現できるタイプではないことを知っている。
本来であれば、追求は特にしなかった。この程度を気にしていたら、彼との関係なんて務まらない。
だが、今日は――故郷へ帰る日であった。
「気付いたんだけど、あんたってさ……嬉しいと、声のトーンが落ちるよね。普通と、逆なんだわ」
――コンソールのキーを叩いていたドゥエロの手が、止まった。今度こそ、確実な間が生まれた。
今まで一度たりとも、そんな事を言われたことはない。自分も、意識したことすらなかった。
そもそも日常のやり取りにおいて、会話は意識せず行われている。一言一句、考え込んでいたらキリがないからだ。
だからこそ、興味深かった。
「観察してもらえて、光栄というべきかな」
「……」
一瞬嫌味かと思ったがドゥエロの性格を考えて、パルフェは頭を振った。この男はきっと、直球で物を語っている。
きっと今までこんな会話をしたことがないのだと思うと、不思議と可愛げさえ感じられるようになった。
ふと、カイとメイアの二人を思う。あの二人の会話も、独特なテンポがあった。ちょっとしたやり取りでも、通じ合えているくらいに。
少し、あの二人が羨ましいと思っていた。
「ふふ、緊張しているのかな……一瞬、ドキッとしちゃったよ」
考えてみれば故郷を前にして、わざわざ医務室へ足を運んだ理由もよく分からない。
仲間が多くいるこの船で、ドゥエロに会いに来た理由。パルフェは合理的に考えて、不合理であることにすぐ気付いた。
機械とは違って、人の感情は説明ができない。シンプルな機械を好んでいる彼女にとって、人間とは不可解な存在である。
パルフェの常識を覆したのは、精霊――機械のような思考と、人のような感情を持つ、少女たち。
「診察しようか?」
「だいじょーぶ」
主を慕う彼女達を見習って、パルフェもまた人との新しい関係を望んで行動する。
不合理な行動であるにもかかわらず、パルフェは自ら進んで歩み寄った。ドゥエロもまた、心地良く応えている。
タラークとメジェール、両国の常識が開かれようとしていた。
<END>
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