ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action7 -総尾-
ジュラとカイの会話が熱を帯びつつも哀愁漂う雰囲気となった時、場を明るくする通信が飛び込んで来た。
『宇宙人さーん!』
「よう、リーダー候補。暇そうで何よりだ」
『お疲れ様、美味しいもの作って待っているから付いたら記念パーティしようね!』
――ジュラとカイ、二人して顔を見合わせる。偶然なのか、意図的なのか、あまりにもタイミングの良い誘いに思わず度肝を抜かれてしまう。
家族や友人、帰りを待っていてくれる人達がいない二人。正確に言えば誰一人いない訳ではないのだが、永遠に寄り添えるような人達ではない。
そうした哀愁を感じていたこのタイミングで、ディータは記念パーティを計画していた。
誰もいないのであれば皆で盛り上がろう、そうした気遣いを何故か感じさせるディータの提案だった。
「お前……本当に、リーダーに向いているのかもしれないな」
『? 何の話かな』
「天然っぽいから余計によく分かんないわ、あんたは」
たとえ偶然であっても、彼女の申し出は嬉しく感じられた。少なくともこうして一年間、共に過ごした時間は裏切らない。
後のことは後でゆっくりと考えればいい、今は今で無事に故郷へ帰れたことを喜び合おう。
こうして考えると、何ともディータらしいポジティブな考え方だった。彼女の気質が、メイアのリーダー教育で開花されているのかもしれない。
彼らのやり取りを聞いていたのか、レジシステムからも声がかかった。
『だったら私が腕によりをかけて、パーティ料理を作ってあげるわ』
「バーネット、貴女はなんて優しい女性なの!」
「……現金な奴だな、お前」
バーネットとの関係についても悩んでいた割に、親友から声をかけられて素直に喜べるのもジュラの気質であるのだろう。
故郷への到着、最終決戦を前にしても、バーネットはレジシステムで業務に励んでいる。どうやら、本当に引退するつもりのようだ。
カイとしては、惜しいと思う。職業に貴賎など無いが、思い入れくらいはあるはずだ。
せめて最後の戦いだけでは今までの感傷を振り切って、もう一度操縦桿を握ってほしいと思っている。
(ガスコーニュに相談してみるか……いずれにしても、戦力は必要だからな)
地球より奪取した母艦に乗って、ガスコーニュは最終決戦に望む。レジ機に乗れるのは、バーネットしかいない。
貴重な人材をわざわざ提供したりはしないだろうが、たとえデリ機であっても戦場には行ける。妥協する余地はあると思っている。
最終決戦はやはり、総力戦で挑みたい。全員が力を合わせて挑まなければ、地球の狂気には立ち向かえない。
カイとしても、過去に決着をつける機会であった。
(思い出も何もない星ではあるんだが……因縁くらいは、断ち切らないといけないからな)
地球側にしても廃棄したクローン人間のことなど、眼中にもないだろう。カイ本人も、捨てられた憎しみは全く無かった。
ゴミのように廃棄された事自体は腹が立っても、その後タラークを経てマグノ海賊団と関係を持てたのは人生の転機であった。
もしも地球側に残されたままであったら、悲惨な結末しか待っていなかっただろう。
そう考えると、捨てられた人間に確固たる未来があるというのは皮肉な話かもしれない。
「話を蒸し返すようで悪いんだけど」
「何だよ」
「アンタは男だからメジェールには降りられないけど、その辺はどうするつもりなの?」
「そうだな……実は俺、タラークでも労働階級の人間だから、このままタラークへ帰っても問題なんだよな。
エリート階級のバートやドゥエロが最大限口添えしてくれるけれど、所属云々でもめると思う」
ジュラの指摘は、根本的にあった問題である。その点についてはカイも重々承知しており、ジュラも分かっていて聞いている。
故郷へ帰れた事自体は喜ばしいが、故郷で生きてきた環境がお世辞にも良いとは言えないので、カイとしても立場は危うい。
このままジュラ達と海賊として生きていくほうが、少なくとも未来はあるだろう。
カイは彼女達と同じく、故郷に居場所のない人間なのだから。
「でも海賊のアジトでお世話になる選択肢は、少なくとも無いだろうな」
「そういう意固地なところは抜きにして、もうちょっと落ち着いて考えなさいよ。
ジュラも海賊を続けるつもりはないんだし、一緒に生活して考えてみるのはどう?」
「……何だかんだ言って、俺を頼りきりにしそうなんだよな、お前」
「あーん、もうそういうのはいいっこなし!」
図星だったらしい、ジュラが顔を赤くして抗議してくる。案外、引きこもってダラダラする女になりそうだった。
生産的とはお世辞にも言えないだろうが、それでもそれはそれで楽しい生活にはなりそうだった。
刺激には縁がなくても、平穏があれば上手くいけそうな関係ではあるのだ。
全然未来が見えなくても、何だか楽しそうで二人して笑っていた。
<END>
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