ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action6 -時米-
クルー全員が喜び合っている最中、突如轟音が鳴り響いた。
ニル・ヴァーナを襲う振動に、喜んでいたクルー達が全員表情を引き締める。浮かれていた気分が即座に吹き飛んで、全員が持ち場へ戻るべく走っていく。
地球からの襲来、刈り取り部隊。危機意識は故郷へと近付いていても、消え去ることは断じてなかった。ありえないことは、常に起こり得たのだから。
そうした意識はバートも持ち合わせていたのだが、それはそれとして彼は悲鳴を上げた。
『「なんだよ、おい! こんなんで、本当に辿り着けるのか!?』
『操舵手のお前が、真っ先に慌てるな!』
ニル・ヴァーナを牽引しているカイが、呆れつつも落ち着いた声をかけた。敵襲ではないと、ニル・ヴァーナを運んでいる彼が全員の動揺を鎮める。
衝撃の正体は至極単純、磁気嵐の中を駆け抜けていてシールドが岩にぶつかったというだけである。
シールドは協力、岩にぶつかっても回避する必要はない。カイのこの判断は半分正解で、半分間違えていた。
確かにシールドは壊されなかったが、それなりの衝撃には襲われてしまったのだ。
「驚かせるなよ、敵かと思ったじゃないか!」
『敵だったら、真っ先にお前に言っているよ。安心して、前を見て運転してくれ』
バートの激しい抗議に肩を落としつつも、反論はしなかった。確かに判断としては微妙だったので、自分なりにカイは非を認める。
被害が出ないという判断はパイロットとしての見解であり、操舵手としての視点からではない。
仲間達を安全な場所まで運ぶという意味では、衝撃に対しても気を配るべきだった。反省していたからこそ、カイは強く言い返さなかったのだ。
カイの姿勢に、同乗するジュラは目を細める。
「大人だね……アンタ、あの惑星で何かあったの?」
「あったと言えば、会ったかな。精霊の話、聞いただろう」
「ああ、あの子達の事ね」
カイはマグノ海賊団やバート達に、ソラとユメの事を改めて紹介している。
精霊などという話を聞けば正気を疑われるが、ペークシス・プラグマという下地があれば話はある程度受け入れられる。
そもそも立体映像が意思を持って話している時点で、怪奇現象が疑われて当然なのだ。正体が判明して、むしろ安心している面もある。
だが、ジュラが指摘している部分はそこではない。
「あの子達を、家族として受け入れるつもりなんでしょう。バートもあのシャーリーという子が出来て、何だか落ち着いてきたもんね」
「家族を持つとそれほど変わるものかね、人間というのは」
自分の頬を何気なく叩いてしまうカイ、自分の変化を指摘されてもあまり実感はなかった。
変わったという自覚は確かにあるが、どれほど変化したのか自分では分かっていない。ただ精霊の試練を受けて、ユメやソラへの思いは強まっている。
そうした気持ちが家族への愛だというのであれば、自分にとって大切な人達が明確にできたという証明となるだろう。
そして、あの人達――ココペリ達が、自分を家族だと受け入れてくれた。
「家族か……いいわね、あんたは」
「何なんだお前は、さっきから。家族がほしいのか?」
「うん」
「えっ……!?」
「なんで驚くのよ。アタシが家族を欲しがってなにか悪いの?」
「お前、そういうのは嫌がっていたじゃないか」
ジュラという女性は別に人見知りでもなければ、人間嫌いでもない。だが、距離感については本人が考えるよりも繊細だった。
親友と呼べる存在はバーネット一人、仲間や取り巻きは数多くいるが、友達と言える人達は少ない。
家族なんて言わずもがな、自分から作ろうともしていなかった。好きになった人達には大いに迫るのに、好きかどうかわからない人達には近づかない。
極端な距離感、このような人間は意外と大切な人ができない。
「アンタやバートを見ているとね、自分には家族がいないと実感させられるのよ」
「別に見せつける気はなかったんだが、気を悪くしたなら謝るぞ」
「いいわよ、別に――ねえ、カイさ」
「やだ」
「まだ何も言ってないでしょう」
「家族になろうとかなんとかいうんだろう、嫌だ」
「何でよ、女が寂しく泣いてるのよ!?」
「故郷を前にして色々不安になっているんだよ、今のお前」
正直に言えば、ジュラと友達になるのはカイとしても別にかまわなかった。一緒に仲良く生きていきたいと言えば、承諾していただろう。
ただ家族愛に飢えて求められているのであれば、及び腰になってしまう。友人のように思っているからこそ、縋りつかれたくなかった。
もしもここで受け入れたら、彼女には激しく求められるだろう。依存されても、困るのだ。
彼女は誇り高い女性だと、思っているから。
「悩みなら聞いてやるけど、そんな極端な願い事は受けられない」
「むー、いけず」
そろそろ、旅は終わる。戦いも、おそらく次が最後となるだろう。少なくとも、一つの区切りはつく。
その展望を未来だと明るく見つめるものも見れば、不安だと目を曇らせるものもいる。
帰りを待っていてくれるものがいない、その事実にジュラは頭を抱えている。
<END>
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