ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action5 -仮名-
ジュラとカイが連携して、ヴァンドレッド・ジュラでニル・ヴァーナを牽引している。二人の連携に加えて、バートも積極的に協力している。
協力体制は見事なもので、凶悪に吹き荒れる磁気嵐からも見事に脱出しようとしていた。恐らく、何の問題もなく突破できるだろう。
敵は全て倒されて、刈り取り兵器も滅ぼした。故郷への道に対して、障害は何一つ無くなっている。
この場における全ての戦いが終わったことを実感して、ようやくディータ・リーベライが安堵の息を吐いた。
「おやおや、神妙な顔をしているケロね」
「パイ……お医者さんのお手伝いはいいの?」
「そのドクターが、カイ達と仲良くおしゃべりしているの。男同士というやつかなー」
職務放棄ではないと自己主張しつつ、パイウェイがディータと共に並ぶ。
二人してレストルームより、作業を行っているヴァンドレッド・ジュラを見つめていた。感慨や、達成感を胸にして。
それでも呑気に浮かれていないのは、二人なりの成長だろう。職務を決して忘れないからこそ、使命感に満ちた達成がある。
年の差はあれど、二人は仲の良い友達であった。
「ディータ、変わったね」
「パイも変わったよ、お仕事の話をするようになった」
「ディータこそ、仕事を忘れてないケロよ」
ディータがカイ達の機体を見ているのは、物見遊山ではない。作業の状況を確認していたのである。
リーダーとしてメイアも適時仕事の状態を確認しているが、ディータは率先して自ら状況確認を行っている。
誰に言われずとも、自ら行動に移す。一兵士ではなく、兵士を指揮する司令官の顔であった。
そんなディータを眩しく見つめるパイウェイも、ナースとしての気遣いの色が見えた。
「男同士の話か……宇宙持さん達、いつも仲がいいね」
「この艦で一年間、一緒に生活してたもん。仲良くもなるでしょうよ」
「うーん、でもなんか通じ合えている感じがする」
カイやドゥエロ達の関係は、何となくではあるがディータやパイウェイも知っていた。
ディータはカイが同僚であり、パイウェイはドゥエロが上司である。毎日同じ職場で話していたら、友達の話も出てくる。
カイとドゥエロ達は故郷に友人と呼べる人達はおらず、初めて出来た友達が彼ら同士であったらしい。
とても気安く、気遣いもなく自然に彼らは肩を並べて笑い合っている。
「……宇宙人さん達、どうするのかな」
「あいつらは何処へだって、仲良くやっていくケロよ」
「そうじゃなくて――故郷についたら、そのまま帰っちゃうのかな」
ディータにとって、カイは運命の人だった。異星より出逢った人、夢見た宇宙人は憧れの存在そのものだった。
失敗したら怒られ、ふざけていたら叱られ、逃げ出そうとしたら怒鳴られた。いつも厳しかったけれど、とても優しい人だった。
それでも決して見放さず、厳しい現実の中で共に戦って活路を見出した。鮮烈な生き方には尊敬すら覚えており、憧れてやまない男性である。
好意は、確実に持っている。一緒に生きていきたいと願っている――けれど、生き方が異なっている。
「……分からないケロ」
パイウェイにとって、ドゥエロは上司であった。メディカルマシーンに頼る子供ではなく、医療に準じる看護婦としての先生。
彼のいない職場は、ありえなかった。自分一人でもやれる気概はあるが、彼のいない医療室なんて想像できない。
故郷へ帰るのというのであれば、断固として引き止めるつもりだ。我儘であろうと、構わない。今だけ子供扱いされてもいい。
ドクターであるドゥエロと一緒に、これからも多くの人を救っていきたいと思っている。
「宇宙人さん達は、やっぱり帰りたいよね」
「あ、あいつらはそんな大人しくするような奴らじゃないケロよ!」
「そうかな……どうなのかな」
「ディータは、どう思っているの?」
パイウェイの気持ちは、既に固まっている。ドクターと一緒に仕事をしたいし、カイやバートともこれから一緒に生きていけると信じている。
最初は男を毛嫌いしていたが、一年間一緒に艱難辛苦を共にして、今では家族のように思っている。
カイ達も、自分達のことは決して嫌っていないはずだ。同じ船の中で生活してこれたのだ、故郷のアジトへ帰ってそのまま一緒に生きていける。
その気持ちを、ディータと共有したかったのだが――
「ディータはもちろん、宇宙人さん達とこれからも一緒にいたいと思っているよ!」
「だったら、何も悩むことはないケロ」
「でもでも、宇宙人さんがどう思っているのか分からないよね」
「自分の気持ちを伝えればいいじゃない、きっと分かってくれるよ」
「そうだといいんだけど……」
ディータにとっての最大の変化は、ここにある。宇宙人という仮名ではなく、カイ・ピュアウインドという存在が確固たるものとなっている。
人間には心があり、思いがある。そして、心は誰もが皆共有できない。考え方が違うように、生き方もまた異なるのだ。
自分のワガママを押し付けるような、夢見る少女ではなくなってしまった。部下を持った上官は、部下の心を尊重できるようになったのだ。
カイ達には側にいてほしいが、彼らを束縛することは出来なかった。
――だからこそ。
(宇宙人さんと、これからも一緒にいられますように)
かつて憧れた遠き星々に向かって、少女は祈りを捧げた。自分の願いが叶うように、そっと手を合わせるだけ。
あらゆる努力を尽くしたとしても、人の心までは分からない。叶わないからこそ、夢といえるのかもしれない。
子供から卒業したからこそ、少女は悩んでしまう。
<END>
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