ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 23 "Motherland"
Action4 -毎事-
ドゥエロ・マクファイル、彼は珍しくメインブリッジの控え席に座っていた。戦況を見極めるべく用意された船医の席だが、最近使用されていなかった。
緊急時は度々あったのだが、カイを筆頭にした戦士達の活躍により、メインブリッジにまで陣取っておく必要がなくなったのだ。
作戦そのものに参加する事もあり、受動的だった彼も今では行動的になっており、この席に座ることはほぼ無くなっていた。
だが今日ばかりは医務室にこもらず、彼はブリッジから宇宙を見上げている。
「……長い旅だったのか、はたまた」
これまた珍しく、彼は思いを馳せていた――この一年間の、旅路を。
軍国タラークではトップエリートだった彼、文武両道に優れた模範的な男だったが、人生そのものは退廃的で退屈に満ちていた。
そんな彼にとってこの一年間の旅は刺激に満たされており、心が充実されていた。たった一年が、今までの人生全てに勝っていたのだ。
それというのも、全ては――
『おいおい、何だ。珍しく溜息ですか、ドクター』
『失礼だな、君は。ドゥエロ君は君と違って繊細なんだよ』
――こうして自分を気にかけてくれる、親友二人の存在があってこそだった。
ヴァンドレッド・ジュラに騎乗してニル・ヴァーナを運ぶカイと、カイに運ばれながら仲間達を守っているバート。
二人とも重要任務中であるというのに、通信を繋いで声をかけに来た。彼らもまた、感慨に満ちているのだろう。
かつては無駄に思えたこんな時間が、今はかけがえのない一時となっている。
「フッ、君達二人は故郷を前にしても変わらずだな」
『俺は元々知り合いのお偉いさんのコネで、軍艦に乗船していただけの三等民だからな。堂々と凱旋とはいかないんだよ』
『そういえば君、軍部にコネがあったんだな。意外というか何というか、どういう知り合いなんだ』
『うちの酒場の常連なんだ、タラークの外に興味があって口利きしてもらった』
一年という時間が経過しても、友と過ごす時間に終わりはない。今日もまたカイの知らない面を、ドゥエロは知ることが出来た。
精霊からの呼びかけにより、カイにおける情報は入手している。されど情報でしかなく、カイという人間の全てを知っているのではない。
友人となったからこそ分かった事柄も多くあり、知ることへの楽しみが出来ている。
旅の終わりに感傷的となるのも、楽しかったからだろう。
『まあ、安心しろよ。上官になんか言われても、僕やドゥエロ君がちゃんと言っておいてやるからさ』
「そうか、では頼もしい君に任せようか」
『えっ、僕が!? そ、その、出来ればまずトップエリートのドゥエロ君の口から説明してもらえると、ありがたいというか――』
『おい、限りなく不安になってきたぞ!?』
バートは口でこそこう言っているが、本当にカイが処分を受けることになれば全力で庇うだろう。
まだ精神的には気弱な面もあるのだが、一年間の旅を通じてバートはたくましくなった。
家族となったシャーリーの存在が大きいのだろう。支えるものが出来て、彼は一人前の男となったのだ。
孤高の存在であるドゥエロだが、そうした存在がいることについては羨ましく思っている。
『何にしてもまずは、この磁気嵐を突破することだ。このまま一気に突っ切るぞ、バート』
『オーライだ、全力でいっちまえ!』
「ふふ、何とも気合の入った叫びだな」
――旅は、間もなく終わる。故郷へついたら、自分は一体何をしているのだろうか?
少なくとも、以前の日々に戻ることは絶対にない。充実した時を過ごした後では、空疎な日々に戻るのなんて耐えられない。
タラークの軍人となるのも、今では強い抵抗を感じている。船医という職業は今後も続けるだろうが、そもそもタラークへの忠誠心はなかった。
このままマグノ海賊団に所属していてもよいのだが――ドゥエロは、それでも考えている。
(この旅が終わったら、私はどうするのか)
彼の心にあるのは、故郷への思いではなかった。その点が、仲間達とは決定的に違っている。
カイやミスティとは違い、ドゥエロには故郷がある。ただ、ドゥエロ本人に故郷への思いそのものがないのだ。
この船には色々な人間がいる。ゆえに面白く、されど悩ましい――
ドゥエロ・マクファイル、彼の心は今も漂流していた。
<END>
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