ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action31 -外史-
長ココペリが招き入れた、精霊の祠。暗闇に閉ざされた世界の中で、精霊の試練は粛々と行われている。
精霊の領域に辿り着いたカイは、精霊との対話に成功していた。本来であれば既に行われていた対話を、喜びと共に行っている。
ソラ、融合戦艦ニル・ヴァーナのペークシス・プラグマ。ユメ、刈り取り母艦のペークシス・プラグマ。
崇高なる意思と、残虐なる意思。悪魔と天使でありながら、同列なる存在。
神は慈悲深く、酷薄である。神は冷酷で、無垢である。人を殺し、人を愛している。
感情はなく、感情を与えられた――
「それがお前達、精霊という存在か」
"マスターにより感情を与えられ――"
"――感情を与えられて、意思を持ったの"
生命である以上、意識は元より存在していた。彼女達がカイより与えられたのは、意思である。
完全なる存在は意思を持って、不完全な存在と成り果ててしまった。考えることで、考える余地を持ってしまった。
この世界は、矛盾に満ちている。考えてしまえば、疑問を持ってしまう。疑問を持てば、完璧ではなくなる。
それが良くも悪くも、人へとなる事を意味する。
"愛を知ることで、想いを知り――"
"――想いを知ることで、憎しみを持った"
人を愛してしまえば、人を憎んでしまう。人は尊く、そして愚かしくもあるからだ。
全てを受け入れられるのは、全てを知らずに済むがゆえに。何も知らなければ、何もかも受け入れられる。
ソラは人を愛して人を知り、ユメは人を知って人を憎んでしまった。
良くも悪くも、彼女達は人となってしまった。
"精霊は人となり――"
"――人となりて、精霊である事を学んだ"
男が女を、女が男を知ることで、互いに性別を意識する。一人であれば、自己完結するだけだ。
人とは何か考えることで、精霊とは何か考える。自分以外の誰かが存在することで、自分自身を自覚する。
ゆえに彼女達は、問いかける。
"人間とは、何か"
"精霊とは、何か"
この問いこそが、試練である。
自分が何者なのか知らなければ、他人が何者なのか分からない。
地球人は、精霊との対話を行えなかった。その理由は、明らかである。彼らほど、自身を自覚していない者達はいない。
自分自身の絶対性を、まるで疑っていない。そのような存在に、精霊を知覚する感覚などあるはずはない。
そしてカイは、自分自身が誰なのか分からない。
「その答えは、自分自身で見つける事だ」
自分にも、他人にも、多くを求めてきた。海賊を批判し、自分に反省し、無我夢中で追い求めてきた。
記憶を取り戻しても、何も取り戻せなかった。何もないからこそ捨てられて、何もなかったからこそ追い求めた。
カイ本人にあるのは、蓄積された時間である。ずっと考えて、ずっと行動してきた。答えはまだ明確には見つからないけれど――
答えを探し続けることは、決して無駄ではなかった。
「俺と一緒に探していこう。それが生きるという事だ」
"イエス、マスター。この意思、貴方と共に"
"絶対に取り戻してよね、ますたぁー"
一寸先に見えない空間、暗闇の天井を見つめるカイの瞳に光が灯った。
精霊の祝福、未来なき未来を見つめる意思の光。儚くも強気光を宿して、カイは今崖に手をかけた。
登るのではない――越えていく為に。
求められているのは、精霊の奇跡ではない。
人としての、意思である。
<to be continued>
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