ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action32 -語路-
"ふふふ……辿り着いたな、精霊の域に"
精霊の祠の様子は、長ココペリにも伝わっている。詳細は把握していない、彼はあるがままに感じているだけだ。
カイ本人は既に精霊との対話を行っていたが、本人が精霊の存在を知覚していなかった。
随分な遠回りではあるのだが、ココペリは彼を馬鹿にしたりはしない。遠回りこそ人生の試練であり、醍醐味であるからだ。
どれほど遠回りしようとも、彼は今辿り着いた。それで十分と言える。
"蒼きカチナ"
祝福と共に、ココペリは大地に証を刻んいく。
"三つの祈り"
その目で見たものではなく、その感覚で感じたものを、大地に刻む。
"八つの影"
描いていく証とは、カイの心に映し出されてる心象風景。精霊の域に辿り着いた彼に刻まれている、証。
"百五十の心"
大地に描かれた絵は突拍子もなく、それでいて美しい。全てに意味はなく、あらゆるものに価値がある。
蒼きカチナ、三つの祈り、八つの影、百五十の心。ココペリは意味を理解しているのではなく、価値を見出している。
ココペリが描く心象風景を目の当たりにして、タタンカもまた目を奪われている。精霊の域に辿り着いた、カイの心がそこにある。
精霊と出逢った少年の心は、綺麗だった。
「ウキ、ウキキー」
精霊の試練を見届けるココペリ達の元へ、ラバットとウータンが歩み寄った。ウータンはとても嬉しげに、タタンカに飛びついた。
厳しくも豊かな自然の星、この惑星こそがウータンの故郷でもあった。彼女もまた、故郷へ辿り着けたのである。
嬉しげに笑うウータンにタタンカも感激の抱擁をするが、同時に叱責する。
"シー、ココペリが儀式の最中だぞ"
「ウー」
オラウータンではあるが、ウータンはとても賢い動物である。儀式の意味は知らなくても、重要性は理解している。
タタンカに叱責されて、ウータンは慌てて口を閉ざした。彼女にとっても、試練を受けるカイは友達であった。
二人の感動の再会に苦笑しつつも、ラバットはそのままココペリの元へ歩み寄った。
挨拶は済ませている。二人の間に、垣根はない。
"サム、よく戻ったな"
「やつは必ず、ここへ辿り着けると思っていたからな」
カイにこの惑星を紹介したのは、他ならぬラバットである。惑星の有無については、両者が認識済みである。
だが、本当に辿り着ける保証は何処にも無かった。刈り取り兵器は執拗に追ってくるだろうし、母艦との遭遇も十分あり得た。
地球との激戦が予想されつつも、ラバットは同盟を組んだカイにこの惑星を紹介したのである。
必ず来れるのだと、確信していた。
"――お前が此処へ来た時もそうだった"
「うん……?」
"あの若者は、お前と同じ目をしていた"
死の商人ラバット、彼はこの惑星の生まれではない。実のところ、彼もまた地球の被害者でもあった。
植民船団が地球から旅立って、人類が生存可能な幾つかの惑星に辿り着いた。ラバットは、そうした渡航者の一人でもあったのだ。
商人でもなかった彼が地球側に襲われて、この惑星に墜落したのである。生きていたのはカイのような興奮ではなく、彼の実力と言えたが。
当時のラバットもまた、自分の運命に翻弄されていた人間であったのだ。
「よしてくれ、ココペリ……俺はあいつほど、単純じゃねえ」
宇宙一のヒーローなどという荒唐無稽な夢ではあるが、それでも一つの目標に向かって邁進しているカイ。
少年と自分は違うのだと、ほろ苦い笑みを浮かべて首を振った。あの頃の自分には、そうした純真な夢はなかった。
羨ましいとは、本人も思っていない。別人である以上、それぞれの生き方というものがある。
ラバットは、自分の人生を歩んでいる。その点を、自分で否定するつもりはない。
「それに――精霊は俺ではなく、あいつを選んだ」
自分は、選ばれなかった。望んでこそいたが、結局精霊は彼の元へ現れなかったのである。
二人の精霊は今、カイを主人として慕っている。この一点からしても、自分とカイとは違うのだ。
羨ましいとは、思わない。嫉妬もしていない。何故なら――
精霊に選ばれたカイと、自分は手を組んだのだから。
ラバット本人が胸をはれる、人生の決断であった。
<to be continued>
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