ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action26 -銃夢-
"長、ココペリ――あの若者には、精神の試練は無理だったのでは?"
精霊の祠。カイ・ピュアウインドを試練へと導いたタタンカとココペリは、祠の前で試練の様子を見守っていた。
祠から覗けるのは闇、試練を受けているカイは穴の底に落ちている。彼らから見えようもないのだが、彼らにとって視覚は重要ではない。
精霊との対話を知る術を持つ彼らにとって重要なのは、声。"声"が届くかどうかに、全てがかかっている。
タタンカの危惧する声に、ココペリは躊躇いなく応える。
"いいや"
カイを案ずるタタンカの心配は、ココペリとて理解はしている。カイ・ピュアウインド、彼には自覚そのものがない。
彼は精霊への対話を望むべく試練に挑んでいるが、彼らから見れば的外れに近い。彼が掲げている目的は、既に達しているのである。
自覚のない合格は、自覚のある不合格よりも性質が悪い。成功しているのに、成功するべく足掻いている。滑稽であり――
哀れであった。
"全ては、あの若者の心次第"
闇を恐れず心を開け、ココペリの忠告はタタンカも聞き及んでいる。心を開くこと、それこそが精霊との対話を行う術であると。
ならば精霊との対話を行っている彼は、既に心が開いているのだろうか? それこそが否であると、ココペリは言っている。
全ての順序が逆である事、それすなわち――カイ・ピュアウインドの成長そのものが、異常であったことを告げている。
健やかに、成長していない。成長を強いられて、成長を際立たせてしまった。必要な過程をすっ飛ばして、駆け上がってしまっている。
成長すること自体は決して、悪いことではない。目覚ましい成長は、褒め称えるべき事だ。だが、過程を無視していい事でもない。
精霊の声を聞きながら、精霊の声に耳を傾けていない。自覚がないのは、自覚するべきことを置き去りにして成長したからだ。
精霊の試練を受けることを勧めたのは、彼に振り返って貰うため。今一度、自分を見つめ直さなければならない。
その心を一度落ち着かせ、今こそ"声"を届けるのだ。
"――むっ"
カイに同調した訳ではないだろうが、長の声を聞いてタタンカも心を落ち着かせる。そして、背後の気配に気がついた。
試練を見守る自分達、その背後の傾斜の上に一人の男が立っている。最初から其処にいたかのように、平然とした佇まいだった。
堂々たる登場に、タタンカは目を見開いた。驚愕もあるが、何よりもその男には見覚えがあった。
男の名を自ら、タタンカは問いかけと共に語った。
"サム!"
サムと呼ばれた男、オランウータンを連れたその者の成名――カイ・ピュアウインドの同盟者、死の商人ラバット。
ラバットの来訪に、長のココペリも笑みを形付ける。旧知であり、同胞であり、我が子同然の者であった。
ココペリの静かな歓迎にラバットも珍しく素直な笑みをこぼして、精霊の祠へと目を向ける。
(ようやく、此処まで来やがったか)
カイにこの惑星を勧めたのは、ラバットである。だがラバットからすれば、たとえ自分が教えずともカイが此処へ来ることは分かっていた。
運命などと言った、抽象論ではない。カイなら必ず、此処へ訪れると分かっていた。彼はそれほどまでに、大きな道を歩んでいる。
ラバットは、この世のあらゆる喜怒哀楽を知る大人の男である。カイという人間がどれほど異常なまでの成長をしたのか、知っている。
何も知らずに突っ走る、その無謀も。
(自分の足で来たのか、自分の"声"に導かれたのか)
そして今、彼は自分の心を暗闇の中で見つめ直している。敵も味方もいない環境、雑音のない世界こそ彼に今必要なものだった。
他人の声に耳を傾けるのは、決して悪いことではない。多くの人の声に耳を傾けて、彼は成長を遂げた。
だが、流されてはいけない。そして何より、本来聞くべき声を聞き逃すようなことがあってはならない。
精霊はずっと、彼に話しかけていたのだから。
本当の対話が出来るかどうかは、彼次第。ココペリが述べたことをそのままに、ラバットもまたカイにはそれが必要だと確信していた。
この期に及んで気付かないようでは、同盟を続ける価値はない。せっかくお宝を手にしているのに、放置したままの人間とは組みたくない。
無慈悲なまでに最後通牒を突きつけるラバットだが、彼の口元は緩んでいる。
その表情は、ありえないと断じていた。
(今こそお前さんが、精霊に声を届ける番だ)
カイならきっと気づく――その価値のある人間だからこそ、ラバットは手を組んだのだ。
<to be continued>
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