ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action25 -解離-
"闇を恐れず、心を開け。さすれば、精霊はお前に心を開く"
――長より教わった、謎掛けのような助言。実際のところ、大いなる謎である。何が言いたいのか、カイには全然分からなかった。
理屈としては、何となく理解はしている。この一年ほどの男女共同生活、心を開かなければ対話はあり得なかった。
もしも心を閉ざして警戒したままだったのならば、仲間としての関係は築けなかっただろう。彼女達と円満に過ごせているのは、互いに信頼しているからだ。
ならば長は、精霊達を信頼しろと言っているのだろうか?
「会ったこともない存在を信じろと言われても……」
そういう意味では、心を閉ざしていると言える。精霊との対話を望みつつも、警戒しているのはカイとて分かっている。
自分から歩み寄らなければ、相手も歩み寄ってこない。長の言葉は当然でありながら、実に深い一言だと言える。
焦りも迷いもないが、方法が分からない。心を閉ざしているつもりはないが、精霊は今も話しかけてこない。
そこまで考えて、ふとカイは気付いた。
「――精霊は、俺の身近にいるのか?」
心を開けば、精霊は自分に心を開いてくれる。この言葉は、精霊が自分の身近に居なければ決して成り立たない助言である。
対話する相手が側に居なければ、心も何もあったものではない。極めて身近に存在しているからこそ、自分が心を開くのを待っている。
思い当たるのは――この場所、精霊の祠。
「随分とまた、殺風景な所に住んでいるんだな」
――本当に精霊が傍にいればズッコケそうな結論と、トンチンカンな心配をするカイ。本人も、半ば冗談である。
ただこの場所が精霊に深い縁のある場所であることは、間違いない。だからこそ、長はこの場所へ自分を導いてくれたのだ。
この場所で自分から歩み寄っていけば、精霊は対話を行ってくれる。精霊にまた、自分の言葉を待っている。
カイは、思い立った。
「俺という人間の言葉を――"声"を、待っているのか」
カイ・ピュアウインドは、ようやく知った。対話を望むと言いながら、単純に相手から話しかけてくれるのを待っている。
相手からの一方的な信頼を、まるで菓子をねだる幼子のように口を開けて待ち構えている。精霊から見れば、何とフザけた行為だろうか。
メイア達のことを思い出して、カイは泥だらけの顔で苦笑した。そうだ、何事も自分から信頼しようとしなければ、相手は心なんて開いてくれない。
自分自身の言葉を、届けよう。
「俺はカイ、カイ・ピュアウインド」
自分は誰なのか、一体何者なのか――記憶を取り戻して、何もかも理解している。
何度も考えて、何度も悩み抜いた。博士という望まれていた存在にならず、ヒーローという望んでいた存在にもなれなかった。
自分には何もなく、何も与えられなかった。何かを求めて空へ行き、何かを望んで夢を見た。だからこそ、自分自身がいる。
俺という存在は、此処に居る。
ソラへと行って、ユメを掴んだ――!
「俺は、お前達に会いに来た。此処へと、来たぞーーー!!」
"イエス、マスター"
"アタシ達もここにいるよ、ますたぁー!"
……。
「何で、お前らが居るんだ!?」
"……その点は頑なに否定するのですね、マスター"
"こんなに可愛いのに、何で気付かないの!?"
仰天したカイは真っ逆さまに崖から滑り落ち、精霊達は呆れた顔で見下ろしていた。
感動も何もない出会い、感激する暇もない再開。真実はとても身近にあり、真相は闇の中に潜んでいた。
光もない場所で、三人は笑い合った。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.