ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action22 -勝目-
――カイ・ピュアウインドは、一体何者なのか。
ドゥエロにとって、カイとは友である。自分の価値観を変えてくれた、友人。バート・ガルサスと並んで、かけがえのない人物だと言い切れる。
不思議なもので大切な人間となった時、彼が何者なのかドゥエロは気に留めなくなっていた。彼が何者であろうと、自分にとって友なのだから。
むしろ出逢った当初こそ、彼の正体を怪しんでいた。軍艦イカヅチに乗船していた三等民、怪しまない方が無理というものだ。
だからこそ、改めて問われた時に――ドゥエロ・マクファイルは、瞑目した。
『カイとは、何か?』
ナビゲーションロボット、ピョロ。思えば、このロボットも謎に満ちた存在だった。
旧型ナビゲーションロボットとして、軍船に何時の間にか登場。植民船時代の遺物として、放置されていた旧式のロボットが自我に目覚めた。
ペークシス・プラグマ暴走による影響だということは、既に判明している。だからといって、彼の正体まで明らかになったのではない。
その自我の源は何処にあるのか、誰にも分かっていない。
『カイとは、何か?』
ピョロは医務室へ入室するなり、医療コンソールに表示されていたカイの診断データをノイズへと変えてしまった。
高度なハッキング能力だが、特筆するべきはその点にない。何故そのような真似をしたのか、理由が全く分からないのだ。
普段は顔を表示する画面にも、ノイズが走っている。ピョロ自身にも、只ならぬ事が起きているのは間違いない。
ドゥエロ本人は、そのどちらにも動じなかった。彼の本質は医者、どんな患者であろうと対応しなければならない。
「君は、一体何者だ」
質問に対し、疑問で応対する。会話が成り立っていないが、これもまた医療の一つ。何より元々からして、対話は成立していない。
疑問を抱いたまま知った顔で受け答えするのは危険だと、彼の医療経験が訴えていた。カウセリングは、患者への理解から始まる。
理解に対して強引な共感を持とうとするのは、反発を招く危険がある。綱渡りであろうと、距離感を見極めなければならない。
それほど慎重になるほど、ドゥエロはこの会話の重要性を意識していた。
『カイとは、何か?』
帰ってきた返答は、あくまで問いかけ。望んでいるのは対話ではなく、質疑応答であると再認識する。
この時点で、ドゥエロは目の前のロボットがピョロであるという認識を捨てた。未知なる存在――すなわち、ノイズであると確信する。
つまり今医療コンソールに写っているのは――何者かの、自意識なのだ。
「彼は、私の友だ」
恐らく、望んでいる答えではない。優秀なドゥエロは未知なる会話の筋道を理解しながらも、自分の回答を行った。
この点だけは、譲れなかった。彼が何者なのか、気にならないといえば嘘になる。どんな人間なのか、興味は尽きない。
だからといって、彼が何者であっても変わらなかった。付き合いこそ一年足らずではあるが、今では自分の家族に等しい存在だった。
むしろ家族観の持たないドゥエロにとって、カイやバートは家族以上の存在だった。
『――』
返答は、なかった。望んでいる答えではなかったのだ、失望されたかもしれない。
しかし、ドゥエロは機敏だった。医療コンソールを持ち出して、画面に映し出されたノイズを突きつける。
相手に視力があるのかどうかは不明だが、ピョロはジッとコンソール画面を見つめている様子だった。
もしかすると、いきなり画面を突き付けられて――困惑しているのかもしれない。
「君にとって、彼はどんな存在だ」
『――』
「どんな存在であろうと、彼であることに変わりない」
代わりなどないのだと、ドゥエロ・マクファイルは述べた。むしろそれこそ、彼なりの回答であるのかもしれない。
そばでこの不思議な会話を聞いていたパイウェイは目を白黒させていたが、ドゥエロの答えを聞いて我に返った。
自分の上司がとても得意げだった――誇らしさすら感じさせる。自分の友人を自慢している彼が、とても人間らしく見えた。
そんな彼の回答が――扉を、開いた。
『カイである証』
ノイズが消えて、医療コンソールがシャットダウン――即座に、再起動。
画面が明るく照らし出されて、データが表示される。先程消えてしまった患者データ、ではなかった。
映し出されていたのは、一枚の写真。
『カイである、証』
カイとは似ても似つかない――高名なる博士の、写真だった。
<to be continued>
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