ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action17 -声帯-
――地球に、"声"を奪われた。驚愕の事実を聞かされた時カイの心に湧き上がったのは、敵への怒りではなく単純な疑問だった。
地球は現在人間が生きる環境ではなく、衰退した地球の人類が狙っているのは人間の臓器であった。
ただ同盟を組んでいたメラナスでは、肌が狙われていた。だから臓器と言っても内蔵ばかりではなく、人体のあらゆる部品が狙われていると言ってもいい。
ただ声となると、話がまた違ってくる。
「こんな事を聞くのは申し訳ないんだが、"声"なんてどうやって奪えるんだ。地球人は声も出せないほど弱っているのか」
人間にとって声とは発するものであり、人体の部品そのものではない。どうやって刈り取りの連中は、人間の声を奪ったのだろうか。
声を狙う理由も不透明である。臓器を狙う連中の正気を疑っても埒が明かないが、それにしたって声なんて求めてどうするのだろうか。
実際に声を奪われた人達に聞くのは、残酷だろう。しかし、カイとて好奇心だけではない。連中の意図を探らなければならない。
故郷は――最終決戦は、近いのだから。
"地球は、『精霊』との対話を望んでいる"
「精霊……?」
カイは地球で製造されたクローン人間、一般常識は機械操作により知識として詰め込まれている。地球に存在していた、御伽話についても。
精霊について、明確な定義はない。ファンタジックな存在であり、空想の産物だ。実在なんてしない事は、常識として教えられている。
普通なら鼻で笑うか、馬鹿にされていると怒るかするだろうが、カイはむしろ戸惑いを深めるばかりだった。
嘘や冗談とするのは、長の表情はあまりにも真剣だったから。
"我々一族は、精霊と深い関わりを持っている。その関係を地球は注目し、精霊との対話を狙って我々の声を狙ったのだ"
「答えになっているような、なっていないような……つまりその、精霊とやらが実在していて、あんた達はそいつと会話ができる。
地球もその対話を望んで、あんた達の声を狙ったというのか」
全くついていけない理由だったが、だからこそ声なんてものを狙う理由にもなり得そうだった。
タラークに存在する軍用犬でも、人間とは違う生態を持っている。精霊ともなれば、人の声そのものが届かないのかもしれない。
この惑星の人達が唯一精霊に意志を届けられる"声"を持っているのであれば、少なくとも奪う価値はあるのだろう。
会話を望むのならばむしろ言語が必要なのかもしれないが、特殊な声ならば精霊との対話が可能なのかもしれない。
「初対面なのに本当にすまないが、もう一つ教えてくれ。少なくとも他の惑星では、臓器を奪った人間は全員殺されていた。
しかしあんた達は声こそ奪われたが、命までは奪われていない。何か心当たりはあるか?」
何で殺されなかったのか、こんな疑問を初対面の人に聞くのは無礼千万である。
カイも他人慣れしてきたとはいえ、礼儀や礼節不足はまだまだあるのだが、流石にこの問いについては大変失礼だという自覚はあった。
ほとんど平謝りしながら聞いてしまっているのだが、どうしても聞かなければいけない質問だった。
逆説的な言い方だが、命がかかっているのだから。
"先程も言ったが、我々は精霊との対話が行える。地球にとって我々は、精霊との接触を果たした一族。
精霊との対話を望む彼らからすれば、精霊の怒りを買うのを恐れたのだろう"
「なるほど……精霊との交流があるあんた達を殺せば、復讐される可能性も出てくる」
"何より、精霊との交流が行えない――もっとも彼らが望むのは交流ではなく、支配だろう"
――今度は、実にありえそうな話だった。
最終的には支配を望んでいるのだとしても、最初から精霊の怒りを買ってしまうのは愚かの極み。出会い頭に攻撃されるかもしれない。
どれほどの関係なのか分からない以上、精霊との接点がある彼らを無闇に殺すのは出来なかったのだろう。
結果として、声を奪うだけで放置するしかなかった。
「地球が恐れ、支配を望む存在――それが、精霊」
地球との決戦に燃えるカイにラバットがこの惑星を紹介した理由が、今こそ判明された。
にわかには信じ難いが、精霊なる存在は本当に実在しているらしい。声を奪われた彼らの生存こそが、精霊の存在を証明していた。
単なる法螺話で、地球が彼らを生かす理由がない。精霊という存在が背景にあるからこそ、彼らはこの惑星の者達を殺せなかった。
そういえば磁気嵐で戦った刈り取りの連中も、この惑星への攻撃は行わなかった。
「この惑星に不時着した俺を、あいつらが追撃しなかった理由がそれか」
少なくとも、地球は間違いなくカイを狙っている。何度も邪魔した張本人であり、地球の主力はカイがほとんど殲滅している。
そんなカイが事故を起こして、単独でこの惑星へ不時着したのだ。何が何でも殺そうとするはずだった、これほどの好機はない。
だが彼らはこの惑星まで追い詰めておきながら、カイへの追撃はかけなかった。マグノ海賊団との戦いによる敗北もあるのだろうが――
彼らは、精霊には手出しできない。
「! じゃあこの頭の中に響く"声"は――」
"我々は確かに声を失ったが、この通り『声』は届けられる"
大切なものは、何も奪われていない――
声には固執しない彼らの生き様が、カイ・ピュアウインドにはどこまでも強く気高く見えた。
<to be continued>
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