ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action18 -贋造-
通信越しに呼び出された形ではあるが、バート・ガルサスは待っていましたとばかりにドゥエロの元へ馳せ参じた。
彼が呼び出されたのは、レーダー室。運航するニル・ヴァーナの周辺を観測出来る部屋で、警備クルーが管理している施設であった。
周辺観測を行える機能性の高い施設が用意されているだけに、使用するには許可が必要となる。遊び半分で触って壊してしまったら、大変だからだ。
ドゥエロ・マクファイルはマグノ海賊団より信任を受けているが、一応立場上は捕虜。単なる許可ではなく、立会が必要となる。
「わざわざご足労頂き、感謝します」
「必要な処置だ、構わない。こちらこそ対応が遅れてすまなかった。既に乗員としての権限は与えているのだが、セキュリティ上の配慮が足りなかった」
ドゥエロが敬意を払う相手は、マグノ海賊団副長のブザム。いくら何でも副長クラスの立ち会いまでは不要なのだが、今後の活動も兼ねて説明の義務があったのだ。
乗船した当時はカイ達三人は捕虜であり船内への権限は何一つ持ち合わせていなかったのだが、一念近くが経過して今では完全に仲間となっている。
唯一の例外は海賊入りを拒むカイで、名目上は敵なので権限は与えられていない。もっともカイは常に女性たちと行動しているので、許可そのものが彼にはいらなくなっているのだが。
バートやドゥエロは乗員として、マグノ海賊団のクルーたちと同様の権限が与えられている。許可が必要なのは、こうしたセキュリティ度の高い施設である。
「バートはともかく、ドクターまで積極的にカイの捜索を行うとは意外だな」
「そのカイの考案した作戦により、本作戦そのものは成功。大した怪我人も出ていないので、作戦終了後の時間が余っているのです」
「ふふ、なるほど……船医が暇なのは、我々にとってもいい事ではある」
旅が始まった当初は刈り取りという未知なる敵の襲撃が連続して、怪我人の絶えない毎日だった。
正体不明の敵に加えて男女関係の衝突、身体も心も傷ついて医務室には毎日のように患者が運ばれる始末だった。
それが今最終決戦前となって、怪我人も出さずに完勝した。一人行方不明にこそなっているが、それでも快挙と言えた。
勿論カイも心配だが、ドゥエロが言っている事もまた本心から出たのだろう。怪我人が出なかったからこそ、余計に死傷者は出したくない。
「レーダー室の機能を用いて、カイを捜索するのはかまわない。だがお頭も言っていたように、闇雲に探し回っても貴重な時間を浪費するだけだ」
「ええ、ですので的を絞って捜索を行うつもりです。彼女達にも協力をお願いしました」
「宇宙人さんを探すのは、ディータに任せて下さい。一生懸命、探しますから!」
「だから、無闇に探し回っても仕方がないと言っているでしょう。もう、リーダーとしての自覚が出てきたと思ったらこれなんだから」
「まあまあ、そんなに怒らないでジュラ。この子なりに精一杯頑張りたいのよ」
「ある程度、目星はついています。我々にお任せ下さい」
「ここの施設なら、あたしも使えますので任せて下さい。お姉様の力になりますよ」
ディータにジュラ、バーネットにメイア、そしてミスティ。カイに親しい人物は信用して待つのではなく、信頼しているから助けに行くらしい。
前向きな信頼というのは、行動力が生み出される。探すこと自体を無駄だと思わないのは、カイの生存が彼らの中で確定だからだ。
実際のところ、本当に生きているのかどうか分からない。真実は、残酷かもしれない。
けれど、信じている。本物の真実より、偽りであろうと信頼が勝っている。
「周辺の星系図が、ようやく把握致しました」
「磁気嵐が激しい中で、よく星系を把握出来たものだ。ミスティも優秀な分析能力を持っているな」
「真実を追求するのがあたしの仕事なので、これくらいやってみせますよ」
メイアの依頼とはいえ、短時間でミスティは磁気嵐が起きているこの周辺の星系を分析してみせたのだ。
ブザムが一瞥する限りでも、星系図は高度に分析されていて、表示されている内容もかなり正確であった。
ブリッジクルー要員としてスカウトしたいほどだが、ミスティもどちらかと言えば海賊には否定的だ。本人も、固辞している。
そもそも一般人が憧れる職業かどうかは疑問なので、ブザムも強制はしていない。
「幾つかの惑星の存在も確認できます」
「宇宙人さんも、そこにいるのかな……?」
「小惑星群の何処かに引き込まれた可能性もあるわ」
「……砂山で針を探すとは、このことだな」
メイア達の進捗報告を受けたブザムは、嘆息する。マグノが捜索を積極的に推奨しない最たる理由だった。
地図もない宇宙空間に放り出されたのだ、目で見て探すのは当然不可能。加えて磁気嵐で荒れているのであれば、レーダーで探すのも困難。
星系を把握すればするほど密度がまして、捜索範囲も具体的に広がっていく。単なる空間ではなく、小惑星群まで多数散らばっているとなれば目眩がしてくるというものだ。
ドゥエロも心得ているとばかりに、頷いた。
「ですので、彼を呼びました」
「えっ……僕?」
「操舵手である君ならば、ニル・ヴァーナの機能をフル活用できる。カイの捜索をお願いしたい」
「宇宙が恐ろしく広がっているんですけど!?」
珍しく、ドゥエロが積極的にバートを誘った理由が本人の口から判明した。意気揚々と馳せ参じたバートは、己の役割を知って仰け反る。
面倒どころの話ではない。磁気嵐の中で、小惑星群が散らばっている広大な宇宙空間を一つ一つ見て回らなければならないのである。
人型兵器であるカイのSP蛮型はそれなりの大きさだが、宇宙空間から比較すればそれこそ針一本程度でしかない。
磁気嵐という磁気の砂が荒れ狂っている空間で、針一本を探すなぞ不可能に近い。猛烈な目眩と立ちくらみに襲われた。
「協力は惜しまないと、言ったはずだ」
「心情的には、確かにそうだよ!? でも肉体が、これ以上ないほど拒絶反応しているんですけどね!」
「無茶を言っているのは承知の上だ。それでも我々は君に、こうして頼むしかない」
「全員揃って頭を下げるとは、反則過ぎる!?」
ドゥエロどころか、メイアまで頭を下げてくる始末。人情というのは時として、残酷極まりなかった。
バートが精神的に成長していなければ、面倒事を投げ出していただろう。カイと親密にならなければ、自分から行動なんて絶対にしなかった。
かけがえのないものを手に入れた心が、バートの逃げ道を自ら封じてしまった。皮肉にも成長したからこそ、苦労させられる羽目となっている。
悩みに悩んだ挙句――バートは泣きながら、駆け出した。
「ちくしょう……やればいいんでしょう、やれば!」
せっかく休憩を取ってまでドゥエロと合流したのに、早速メインブリッジへとんぼ返りさせられるバート。
副長であるブザムの許可が出たのであれば、マグノも反対したりはしないだろう。つまり、必ずやらなければならない。
彼は、吠えた。
「こうなったら絶対に見つけてやるからな、カイ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
<to be continued>
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