ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action16 -外来-








 ――どのみち今は動けないので休めと言われた時、バート・ガルサスは反論せず承諾した。


本当に疲れていたのではないし、緊急事態での休息に不満を感じたのも事実だ。カイが生死不明であるのに、休んでなんていられない。

その気持ちこそを、マグノに見透かされたのだろう。焦りは禁物だと言わんばかりに微笑まれて、バートは頷くしかなかった。


操舵席から出てメインブリッジを後にして、カフェテリアの席に座り込む。食欲なんてなかったので、水だけ入れて飲んでいた。


「たく……何だかんだと心配ばかりさせやがって」


 バートは既に、認めていた。心配するに値する友人、死んでいたら悲しい親友――カイ・ピュアウインドとは、バートの中でそれほどの人物だった。

ヒーロー願望なんて幼稚な願いを持っているが、人間的にはまともで前向きな同世代。労働階級として最初は見下していたが、そんな差別意識は完全に無くなっていた。

カイが素晴らしいというより、自分の欠点を思い知らされたのだ。自分の弱さを痛感したからこそ、他人を素直に認められる。


そして何より、弱気になっていた自分をいつも励ましてくれた。


「僕がお前を助けたいと思うのは、変なのかな。それとも僕らしいと、あいつは笑うだろうか」


 故郷が近づくにつれて、嬉しさと同じく寂しさもあった。この共同生活も間もなく、終わりを迎える。

惑星タラークへ変えれば、強制的な階級が与えられる。士官候補生の自分と労働階級のカイとでは、明確な階級差があるのだ。

共同生活なんて、到底送れない。自分がどう思われようとかまわないが、政府の方針に逆らえば三等民のカイに重い罰が下される。


そんな事には耐えられないし、何より馬鹿馬鹿しい限りだった。


「シャーリーが家族となった時点で、僕にはもうタラークへ帰る選択はないんだよね。おじいちゃまには悪い事したな……」


 シャーリーは異星の人間であり、何より異性の少女である。男性社会のタラークで家族となれる道理はどこにもなかった。

シャーリーか、故郷か、どちらを選ぶのか考えるまでもない。たとえ実の家族がタラークに居ようと、バートはシャーリーと生きる道を選ぶ覚悟だった。

そう考えれば故郷に未練なんてないのだが、実の家族を捨てることには若干の罪悪感はあった。せめて元気に生きていることだけでも伝えたいとは思っている。


基本的に、おじいちゃん子だったバート。家族をとても大切にしている、だからこそ勇気のいる決断だった。


「男と女が一緒に生きていける世界――眉唾ものだったけど、今では憧れになってしまったな」


 カイは男女を問わず、一人一人の人間として接していた。人間皆平等という精神ではなく、外の世界の人間達を知ろうとしていたのだろう。

祖先である地球という惑星の環境、地球より飛び出した植民船時代より誕生した多くの惑星。タラークの外は、無限の可能性が広がっていた。

外では男も女も、関係なかった。危険である時は、男女関わらず助け合っていた。そうしなければ生きていけない、厳しい環境だったのだ。


男と女はどちらが優れているのか、関係などなかった。人間一人一人に、価値があったのだ。


「だからこそ……あいつにだって、大いに価値がある」


 あいつと一緒に、これからも生きていきたい。ドゥエロと並んで三人、自分達は家族同様の仲だと勝手ながら思っている。

何もかも全く別々の人間だというのに、これほど大切だと思える友達は今までいなかった。きっとこれから先にも、巡り会えないだろう。

水を飲み干して、立ち上がる。やはり、ジッとしていられなかった。


「よし、休憩は終わりだ。たとえ何と言われたって、僕はアイツを探すんだ。絶対に、生きているのだから」


 今までバートは、無駄なことが嫌いだった。だからこそ面倒は避けていたし、危険なことなんて何が何でもゴメンだった。

思えばそれはきっと、自分が可愛かったからだろう。自分より大切なものがいなかった、だからひたすら自分だけを守ってきた。

今は、違う。シャーリーを、誰よりも家族として愛している。カイと、一緒に生きていきたい。ドゥエロと共に、切磋琢磨していきたい。


自分よりも大切な人達が、いる。


「無駄なことなんてあるものか。あいつさえ見つかれば、何だっていい!」


 こうなったら、盛大に巻き込まれよう。巻き込んでやろう。仲間達に呼びかけるべく、バートは走っていった。

カイが何処にいるのか、検討もつかない。自分が必死に探し回るよりも、優秀な仲間達が見つけるほうがきっと早いだろう。


そんな時、あいつはきっと馬鹿にしながらも――笑ってくれる。


「もしもし、ドゥエロ君。あいつのことを探そうと思うんだけど、僕に何か手伝えることはないかな?」

『君ならきっとそう言うだろうと思っていたよ、バート。私に考えがある』


 ――ほらやっぱり、同じ気持ちだった。絶望的な状況の中でも、希望は見つけられる。


その気持ちこそ、タラークの外から来た光であった。























<to be continued>







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