ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action11 -闇紅-








 痛みで目が覚めた時、カイ・ピュアウインドは自分が生き残った事を実感した。

死んでいればそもそも痛みなど感じない。大気圏で焼かれていたら、痛みどころの話ではないだろう。一か八かだったが、惑星の地表までは着地出来たのだろう。

着陸ではないのもまた、この痛みが証明している。無事に着陸出来ていれば、全身に痛みなど感じない。着陸より着地、着地よりむしろ不時着に近い。


墜落にまでなっていれば、地表面に激突して死んでいただろう。



(くっ……コックピットは頑丈なんだが、衝撃で放り出されたか)



 惑星に辿り着けるように必死で機体を操縦したのだが、上手く着地する余裕まではカイにはなかった。

宇宙船を想定されたコックピットは、単なる衝撃で開閉したりはしない。となれば、よほどの衝撃や負荷が伸し掛かったのだろう。

そういう意味では墜落に近いのだが、生きているだけでも幸運と言わざるを得なかった。痛みこそ酷いが、身体の内部からの違和感はない。


出血でもしていれば体温が低下していただろうが、少なくともカイは血を流している様子はない。


(ぬぐっ……骨まで折れていないみたいだが――た、立てない……!?)


 ――けれど、幸運もこれまでだった。

宇宙から落ちて骨が折れていないのは奇跡的だが、身体を貫く衝撃というのはなかなか侮れない。

衝撃は体の外部よりむしろ内部を壊すので、負傷の度合いを本人が見た目で感じ取れない。それこそ身体を実際に動かして、初めて実感できる。

骨が折れていなくても、肉は確実に痛めている。骨の芯は健在でも、骨を守っている肉が壊れていたら、肉体を動かす力が失われる。


カイは干上がったカエルのように、地面に倒れていた。


(……しかも落ちた場所が、最悪だ。人が住める惑星と聞いていたのに、殺風景過ぎて泣けてくる……)


 寝転がっているカイの目に飛び込んできたのは、果てしない荒野だった。

海の惑星では潤いのある水が広がっており、病の惑星では荒廃こそしていたが緑は残されていた。今回不時着した惑星は、広々とした荒野である。

以前地球に滅ぼされた惑星があったが、あそことは趣が異なる。悪辣な罠が仕掛けられていたあの惑星は死んでいたが、この惑星は生きている。


むしろ生命という意味では、カイの見る光景が力強いと言える。荒野ではあるが退廃しておらず、厳しい自然の生命力を感じさせられる。


上空から照り付ける陽の光は強烈で、砂の混じった風が地表に吹き荒んでいる。磁気嵐が惑星の外で発生しているのだ、影響を受けているのだろう。

厳しい大自然の世界では、人間はひたすら無力である。文明開化されていない惑星は原始的であり、弱肉強食の世界であると言い切れる。


知恵豊かな人間であろうと、怪我で弱っていれば死んでしまう。


(人が、住んでいるのは、間違いない――助けを、呼ばないと……)


 強烈な日差しの下で、怪我をして倒れたままだと死んでしまう。

カイは悪戦苦闘するが、身体は指一本動かせない。痛みも確かに強く走っているが、それ以上に体に無理が全然きかなかった。

何より力が全く入らない。微塵も動かせない。自分が今どういう状態になっているのか、見当もつかなかった。


このままでは間違いなく、死ぬ。


(……誕生日の時と同じか)


 カルーアとメイア、二人を載せる形で起きた事故。廃棄処分が決定したポットに乗り込んでしまい、漂流事故により酸欠で死にそうになった。

あの時も必死で足掻いたのだが、どうにもならなかった。身体が健全でも、状況が生還を許してくれない。

今の自分とほぼ同じ状況、努力ではどうにもならない絶体絶命。自分が無理であれば、誰かの助けを待つしかない。


死ぬまでに猶予がないとなると、待つ時間でさえ苦痛でしかない。


(何でも体験してみるもんだ)


 だからこそ、カイは大人しく運命を受け容れた。死ぬ運命ではない、死ぬかもしれない運命。

少なくとも自分は最善を尽くした。だからこそ磁気嵐を逃れて、敵を倒し、惑星に不時着して、何とか生き延びている。

人自を尽くしたのであれば、天命を待つ。諦めたのではなく、最善を尽くした上で結果を待つのだ。


それでも駄目だったのならば、少なくとも後悔はしない――カイはそうして、救われた。


メイアと、共に。



"大したものだ、大地に自ら身を委ねている"



 カイはこの時、真剣に自分は死んだのだと思い込んだ――頭の中から、神様の声が雄大に響いたのだから。

幻聴だと断じるのは、あまりにも重々しい声。言葉よりも雄弁に、声よりも雄大に、心の隅々まで響き渡ってくる。

これほど偉大な声を、それこそ耳にした事はない。目を開けるのも億劫な状態だが、不思議な安堵感に包まれる。


この世には本当に、神はいるのか。


"『サム』との面識もある――ほう、奴め。今はラバットと名乗っているのか"

(ラバット!? だ、誰だ……)


 先程とは違う"声"、そしてラバットという名前。ようやく神ではないと悟ったカイは、自分が死んだのではないと分かった。

語りかけて来る声は分からない。けれど、正体そのものは知っている。他ならぬラバット本人から教わったのだ。


この惑星に生きる、住民達の存在を。



(案ずる事はない。"精霊"はまだ、お前達を見捨てていない)



 安らぎに満ちながら、どこか含んだ"声"――何を意味しているのか悟って、カイはようやく口元を緩ませた。

自分達は、神ではない。神がいるのかどうかは、定かではない。神とは一体何者なのか、分からない。


けれど――確かに、存在する。人が人として尽くしたその先に、結果は訪れる。


祝福を受けるのか、天罰を受けるのか。それこそ神のみが知る。

確かな存在は、確実に感じ取れる。最善を尽くせば、きっと。


お前の行動は報われたのだと、"声"が教えてくれた。























<to be continued>







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