ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action10 -青路
――磁気嵐に飲み込まれたその瞬間、カイ・ピュアウインドは作戦の継続を諦めた。
本作戦における根幹は、自分が握っている。傲慢や過信ではなく、スーパーヴァンドレッドを構成する一部としてカイは自分をそう認識している。
スーパーヴァンドレッドは強力無比な兵器だが、唯一と言い切れる欠点が存在する。人機一体に必要な部品が多すぎて、一部でも欠ければ成り立たなくなる。
要塞として利用していたスーパーヴァンドレッドが構成出来ない以上、作戦の継続は行えない。
あくまでも、自分一人においてのみ。
(後の事は、青髪に任せよう)
自分は作戦を継続できなくなったが、作戦継続に必要な仲間達は多くいる。彼らに任せれば、何の問題もなかった。
故郷を出てから、半年以上。カイ・ピュアウインドにとって最も変化した部分は、まさにこの点にある。自分だけを、頼みにしない事。
英雄願望は今も変わらずに持っているが、自分一人がヒーローである必要はない。自分の代わりに誰かが守ってくれるのであれば、自分が無理をする必要はない。
メイア達なら、安心して任せられる――だからこそ、自分一人の命を守ればいい。
(とりあえず――こうする!)
合体が解けた瞬間に襲い掛かってきた、偽ヴァンドレッド。磁気嵐に落ちたSP蛮型へ破壊するべく追撃してきた無人兵器に、カイは改良型ナイフを突き立てた。
感情無き無人兵器の誤算は、幾つかある。まず第一にそもそも磁気嵐での戦闘を想定していた為、カイは訓練をきちんと積んでいた事。
磁気嵐という極めて特殊な環境を再現すること自体は不可能だが、強い磁気を帯びた環境そのものはデータ化出来る。
そのデータとSP蛮型の機能データを照らし合わせて、イメージトレーニングは行える。
次に、機体。スーパーヴァンドレッド頼みを良しとしないカイの専用エンジニアは、SP蛮型が磁気内でもある程度活動出来るように必死で改良を行っていた事。
単純に性能や機能を上げるのではなく、付属品を付けていざという時活動できるように備えるのはエンジニアとして当然である。
そうした人間の矜持を、無人兵器は知らなかった。矜持さえあれば予想外の事が起きたとしても、対応ができる。そう出来るように全て仕上げられている。
そして何よりの誤算だったのは――たとえ地獄の底に、落ちようと。
(お前達だけは、許さない)
地獄の鬼に噛み付いてでも、戦える人間がいる事だった。
無人兵器に突き立てられたのは、牙。胸のど真ん中に刺さったナイフは急所であり、人であろうと人形であろうと変わりはない。
偽ヴァンドレッドの機能は本物同様で脅威ではあるが、あくまでその脅威は通常の宇宙空間。磁気嵐の中では、偽ヴァンドレッドであろうと劣化する。
それでもSP蛮型との機能に差はある事は、事実。ヴァージョンアップされたとはいえ、元は蛮型だった代物。合体兵器を相手に、性能で勝つのは至難。
だがその性能も磁気嵐の中超近距離まで詰められたら、何の意味もない。
(さっさと逃げないと、お前も死ぬぞ)
カイは磁気嵐の中では、満足に動けない――ならば、動ける機体に運んでもらえばいい。
偽ヴァンドレッドにナイフを突き立てたカイは、大暴れする偽ヴァンドレッドに必死でしがみついてナイフを離さなかった。
猫はネズミに噛みつかれたら、必死で暴れて離そうとする。この偽ヴァンドレッドもカイ機を引き離すべく、縦横無尽に飛び回った。
結果として磁気嵐の中を突き進んでしまい、難所を突破したのである――カイ機と、一緒に。
(わざわざ運んでくれてありがとうよ――じゃあな)
危険地帯である磁気嵐の底から這い上がったカイ機はナイフを引き抜いて、そのまま偽ヴァンドレッドを殴り飛ばした。
いきなり殴り飛ばされた偽ヴァンドレッドは慌てて体勢を立て直そうとするが、そこへ投下されたナイフが猛然と踊りかかってきた。
何とも皮肉なことに奇襲を仕掛けてきた偽ヴァンドレッドが、想定外の逆襲に遭って先程のカイ機と同じくそのまま磁気嵐の中に落ちていってしまった。
突き刺さったナイフもそのままとなってしまったが、いずれにしてもカイは何とか勝利を収めた。
――ただし。
(ニル・ヴァーナに帰還するのはやはり不可能、か……ちっ)
敵は倒して、磁気嵐の底からはなんとか這い上がった。だからといって、元の場所に戻れたのではない。
完全に明後日の方向へ飛ばされたカイ機は、方向を見失って漂っている。連絡しようにも磁気嵐に阻害されて、通信は行えない。
ペークシス・プラグマの破片が搭載されているSP蛮型はエネルギー不足になることはないが、さりとて人型兵器。無茶すれば、機体だって壊れてしまう。
パイロットの生命維持装置は万全のエネルギー補給により正常に機能しているが、奇襲を受けた衝撃で活動継続は困難だった。
(このままだとスペースデブリとなって、延々と漂う羽目になってしまうな)
敵の攻撃よりむしろ恐ろしいのは、宇宙の遭難である。誰一人果ての知らないこの空間で遭難にあれば、待つのは死のみである。
融合戦艦ニル・ヴァーナは全長三キロを超えるが、広大な宇宙空間から見れば塵も同然。少しでも逸れてしまったら、合流するのは困難となる。
まして磁気嵐がまだ荒れ狂っているとなれば、突破するのも難しい。通信手段も合流手段も無いのであれば、このまま無作為に飛び回るのは無謀極まりない。
カイは熟考した挙句、舌打ちした。
(ラバットのおっさんに頼るのは癪だが、今は同盟相手の情報に縋るしかない)
ミッションで同盟を組んだ謎の商人ラバットが、耳寄りな話を言ってくれた――磁気嵐が発生する空間に、人が住まう惑星があるのだと。
水の惑星や病の惑星と同様、地球に狙われている惑星の一つをラバットが確認していた。その情報を、彼はカイに提供してくれたのである。
当然だが、惑星の座標も教えてもらっている。となれば、ここで取るべき進路は2つに1つだ。
何処にいるか分からないニル・ヴァーナを探すか、確実に近くにある惑星を目指すか――
(磁気嵐の影響を受けて、機能が狂っている機体で大気圏降下できるのか――)
SP蛮型が大気圏降下が可能となった機体ではあるが、それはあくまでも機体が大気圏突入に耐えられると言うだけである。
大気圏突入が可能であっても、その機体を操作するのはパイロットである。単純に落ちるだけでは駄目なのだ。
それでは単なる墜落と変わらない。バージョンアップした機体であっても、大気圏から地表に落ちれば機体が原型を留めても、パイロットが衝撃で死ぬ。
今まで数ある惑星で大気圏突入が出来たのは、ニル・ヴァーナからの補助があってこそである。
(危険な賭けだが、やむを得ないな)
――カイが幸運だったのは、ここまでであった。
めでたく大気圏突入に失敗した彼は岩場に思いっきり不時着して、豪快に転がり回って気を失った。
生命があったのは、それこそ不幸中の幸いと言うべきなのだろうか。
<to be continued>
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