ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action9 -後住-








「……不思議な心境だな」


 カイ・ピュアウインドが行方不明になった後も作戦を継続して、メイア・ギズボーンは任務を無事に果たした。

現状における捜索は困難であるという見解に賛同、生死も含めた状況分析を行って今後を定めるという方針にも同意した。

壮絶な磁気嵐の中を飛び込むのは自殺行為、艦内での待機を余儀なくされて今座り込んでいる。徹底して落ち着いており、感情面において動揺はない。


不思議なのは、そうした自分の心であった。



「生死不明であると言うのに、変わらずカイを信じられるのか」



 何の根拠もないと言うのに、メイアはカイが生きていると信じて疑わなかった。

周りが狼狽えていることが、それこそ不思議でならない。磁気嵐の中に落ちたくらいで死んだと、本当に思っているのだろうか。

そうした自分の根拠のない信頼こそが正に摩訶不思議であり、メイアは延々と首を傾げていた。


赤の他人を信じられるほど、自分の器は広くない――であれば、カイであるから信じられるのか。


「埒が明かない自問自答だな……我ながらどうかしている」


 メイアは自嘲する。益体もない仮定だが、もしカイがこの場にいれば自分をきっと笑って馬鹿にしただろう。

生きていると信じてはいるが、無傷で平然としているとまでは思っていない。ヒーローを目指していても、彼は人間でしかないのだ。

むしろしなくてもいい怪我をして仲間に心配をかけるのがカイであり、その辺についてはむしろ頭の痛い問題だった。


心配せずとも安心という男では、絶対にない。むしろ心配ばかりかけている馬鹿な男である。


「ふむ、そう考えると皆がカイを心配するのはむしろ当然。じっと待機している私の方が妙なのかもしれんな」


 ――生きていると仮定して、今頃カイはどうなっているのだろうか。

まず怪我はしているだろう、間違いない。何かと怪我をする男であり、有象無象の無人兵器相手でもよく傷を負わされる。

大胆不敵な作戦を平然と実行する割には、つまらない凡ミスや予想外で悪戦苦闘させられる。今回も予想外の事故で、また窮地に追いやられてしまった。


合体が解けた直後、偽ヴァンドレッドに襲われて、磁気嵐の中に消えていった――


磁気嵐の中の戦闘は不慣れだが、カイはガス惑星等の特殊な環境下での戦闘経験はそれなりに積んでいる。

ヴァンドレッドの偽物が相手であろうと、そうそう遅れは取らない。むしろ悪環境での戦いであれば、有利に事が運べるかもしれない。

カイが今乗っているSP蛮型もスーパーヴァンドレッドの誕生による影響で、ヴァージョンアップされている。


大気圏内での戦闘も悠々と可能になった。磁気嵐の中でも、そう簡単には行動不能にはならないだろう。


「難しい問題だな。今生きていることを案じるべきか、帰還した際の負傷を思いやるべきか」


 怪我して帰ってきそうであれば、救命道具や医療準備を促すべきかもしれない。

捜索などむしろ無駄だと言わんばかりの判断に、メイアは嘆息してしまう。どうやら自分で思っている以上に、どうかしているらしい。

心配するべきポイントが、完全にずれている。何故、ここまで自分の判断が鈍っているのか分からない。


それは――



「――自分の事以外を、考えている為か」



 先日の誕生日事件、カイとカルーアと共にメイアは窮地に追い詰められてしまった。

あの時は自分も死んでしまうという状況だったのに、仲間達をどうやって活かすのか焦燥に駆られてしまっていた。

今はカイ一人が生死不明となっている。自分は安全で彼一人が危ういという状況なのに、思考も判断も全くまとまらない。


落ち着いているのは、自分の心一つのみ。信頼の中で、呆けてしまっている。


「お姉様」

「ミスティか、どうした」

「前、いいですか?」


 カフェテラス。カイの生死不明の中で、落ち着いて食事している人間などいない。だから一人だったのに、ミスティが声をかけてきた。

延々と座り込んでいるメイアの対面に陣取って、コーヒーカップを傾けている。口に出して許可していないのだが、もう暗黙の了解だった。

ミスティは声こそかけたが話題を振らず、何も言わない。たった一人座っていたメイアに目も向けず、本当にただ一緒に座っている。


何でもない事のように、ミスティは言った。


「ツバサとユメ、あいつの事で喧嘩になっているみたいです」

「そうか」

「子供ですよね、二人共」

「そうだな」


「誰かの責任に出来れば、一番楽ですもんね――何の解決にもならないのに」

「……本当に、そうだな」


 一体、どうすればいいのだろうか。

この状況下で正しい答えを持っている人間なんて、誰もいない。心配するのも、責めるのも、待ち続けるのも、どれも正しくて、間違えている。

子供達は相手を攻めて、大人達は自分を責めて、大人になろうとしている者達は誰も責められずにいる。


動くもの、止めるもの――それら全てを差し置いて、時間だけが無情に過ぎていく。















 ――乾いた、大地。


燃え上がる、空。


枯れ果てた、山。


吹き荒れる、空気。


穿った、岩場。



地中に突き刺さった――蛮型。





"若者の息吹は、絶えてはおらぬ"























<to be continued>







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