ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 22 "Singing voice of a spirit"






Action8 -再試-








 ――宇宙中継基地ミッションで生まれ育ったツバサには、家族と呼べる人が一切いなかった。


物心つく前から一人であり、集団生活の中で孤独に生まれ育っていた。独りではあるが一人ではないという独特の環境が、少女を逞しくも悲痛に育ててしまった。

寂しいと思ったことは、一度もなかった。完全な赤の他人だが必ず誰かがいて、汚らしい生活空間でひもじい食事を齧りながら生きていた。


大人は多くいたのだが、親愛を感じた事はない。人々から尊敬と畏怖の眼差しで見上げられている女ボス、リズでさえも少女にとって他人であった。


家族が欲しいと思った事はない。友達が欲しいと思った事もない。ともかくミッションでの極貧生活から抜け出して、人間らしい生活を送りたかった。

大人に頼ったりしない。神様にも祈らない。子供も信じない。チャンスさえあれば、自分自身でミッションを抜け出したかった。単にそれだけだった。

カイ・ピュアウインドに付いていったのも、本当に縁任せだった。望んでいた機会だと信じて、宇宙へと羽ばたいた彼を必死で追ったのである――


「……あいつが、行方不明?」


 知らせてくれたのは誰だったのか、覚えていない。最近まで自分の名前も無かった少女は、他人にはあまり寄り添わない。

凶報であったというのに、少女は悲しみを覚えなかった。カイはパイロット、危険な戦場に出て戦っているのだ。常に命懸けである。

同じ余所者のシャーリーはバートを実の家族のように慕い、戦場でニル・ヴァーナを操舵する彼を案じていた。彼女と違って、ツバサにそうした気持ちはない。

どういう運命の下で生きているのか、カイはよく事故や事件に巻き込まれる。どうせまたトラブルにでもあったのだろうと、鼻で笑ってさえいた。


「どういう事だ」


 ――トラブルが発生した、原因を聞くまでは。


「どういう事だって聞いてんだよ、てめえに!」

「……何よ」


 子供というのは、なかなか侮れない。時に、大人でさえ知らない事も知ってしまう。大きな好奇心が、余計な情報まで与えてしまう。

カイが行方不明になった原因は、スーパーヴァンドレッドの強制解除。合体が突如解除されてしまい、カイは無防備な状態で磁気嵐に放り込まれた。

予測不可能な事故であり、作戦の想定外だった。敵の殲滅後、捜索が行われているが、今もまだ生死不明――


生きているのか、死んでいるのか、分からない。


「てめえは関係者なんだろう、何で合体が解けたのか聞いてんだよ」

「何よ、ユメが悪いとでも言いたいの!?」


 そして子供同士というのは、連携が強い。大人は誰かと会う時事前に問い合わせるが、子供は相手の事情なぞ考えずに会いにいける。

ニル・ヴァーナには子供が少ないので、特に繋がりが強い。誰とどこで何時会えるのか、大体ではあるが把握している。

原因を知ったツバサは部屋を飛び出して、ユメの居場所を突き止めた。ユメ本人も、ツバサが怒鳴り込んできたことに驚きはない。


そもそもユメは立体映像、姿を消そうと思えばいつだって消せる。逃げようと思えば、逃げ出せたのだ。


「何だよ、お前が悪いのかよ」

「ち、違う……ユメのせいじゃない!?」

「じゃあ、誰のせいであいつは事故ったんだよ!」


 ――合体が解除した原因は不明。ならば機体に問題があった可能性もあるのだが、その機体ごとカイは巻き込まれて行方知れずとなっている。

思慮深い大人でさえも、目の前にないものに責任は押し付けられない。戦闘中に起きた事故は目の前にない機体よりも、まずパイロットに責任を追求してしまう。

ツバサにとって追求しやすい相手は、ユメだった。普段よく話しているし、子供同士とあって遊んだりもしていた。


ツバサは、大人を信じていない。だが大人より子供の方が非力であり、事故を起こす可能性が高いと考えるのも仕方がなかった。


「ユ、ユメのせいじゃない……ますたぁーがやられちゃったのは、ユメのせいじゃない……違う、違う!」

「お前は、元々怪しいんだよ! どこの誰かも分からねえしよ!」

「……っ!?」


 そして子供は、大人が配慮して聞かないことも平気で問い質せる。相手の気持ちや事情など考えず、自分の思い一つで責められるのだ。

ユメに何の問題もなければ、それでも構わなかった。一方的に責められるのを理不尽として、果敢に反論も出来ただろう。

ツバサに怪しまれているのは、ユメが明確に返答しない為だ。何の非もなければ、毅然としていればいい。


違うと言うばかりで、狼狽えるようでは話にならなかった。


「人間じゃねえじゃないか、お前。あのポンコツ連中の仲間なんじゃねえのか、実は!」

「お、お前ぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!」


 龍に逆鱗があるように、ユメにも決して触れてはいけない点が存在する――その急所とも呼べる部分を、ツバサは無遠慮に突き刺した。

この時この船で、この空間で、ここではないどこかで、何が起きようとしていたのか。正確に把握していたのは、同質の存在であるソラ一人だっただろう。


ユメの殺意が臨界点を超えて爆発されようとしたその瞬間、



「アイツを――アタシの家族を返せ、てめえええええええええええええええ!!」



 先に、ツバサが爆発した。少女の生身の拳が、立体映像であるユメの頬を殴り飛ばした。

勿論、当たっていない。少女の拳は通り抜けて、そのまま勢いは流されてしまった。ユメには、全く傷はついていない。


だというのに――ユメは呆然と頬を押さえ、ツバサは芽から大粒の涙をこぼした。


「アイツが死んだら、お前のせいだ!」

「そ、そんな……」


「アイツが死んだら、お前を殺してやる!!」


 誰がどう見ても、八つ当たりだった。何の根拠もなく、ただ一方的に責め立てている。誰がどう見ても、ツバサに非がある。

ツバサの怒鳴り声は周囲に響き渡って、他のクルー達も集まってきている。制止の声もかけられているのに、当人達は歯牙にもかけない。

大人達も率先して、止めようとしていない。ツバサが責め立てる内容は理由なき叱責だが、原因不明であるがゆえに無罪ともならない。


棚上げしていた問題が今、少女の罵倒で無理やり暴き立てられた。


「ユメを……殺す……?」


 ――ユメはこの時、思い知った。

殺すと口にしたことは数あれど、殺すと言われたことは一度だってない。


殺すという言葉はこれほど恐ろしいのだと、ユメは震え上がった。























<to be continued>







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