ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action4 -論地-
要塞化したスーパーヴァンドレッドを司令塔とする作戦は、見事に功を成した。目論見通り、敵はスーパーヴァンドレッドに火力を集中させる。
持ち得る限りの戦力を投入しての一斉放火ではあったのだが、磁気嵐という特殊な環境においては想定通りの火力はとてもではないが発揮出来ない。
特に要塞化しているスーパーヴァンドレッドは、全てのリソースを防御に費やしている。無人兵器がどれほど攻撃を集中してもビクともしない。
そして戦力を集中させてしまっている分、敵はスーパーヴァンドレッド周辺に集まってしまっている。
『そこを狙って、ホーミングレーザーを発射!』
本作戦で主力と位置付けられているニル・ヴァーナが、全砲門から発射。一極集中してしまっている敵陣営に突き刺さって、被爆した。
正直に言ってしまうとこの点においては少々カイの誤算――というよりも見積もりの甘さもあった。磁気嵐の中では、索敵が難しい。
ホーミングレーザーの利点は敵を正確に捉えられる点にあるのだが、索敵を行う全システムが現在マニュアル起動となっているので、自動索敵が行えない。
ソラも全面的に協力しているのだが、百発百中とまではいかなかった。
『むむむ、ちょいと敵を逃してしまったか。一撃必殺で片付けたかったんだけどな』
「主役ぶるのはお前さんの勝手だが、着実に仕事は行っておくれよ」
『わ、分かってますよ!?』
マグノ海賊団のお頭であるマグノから豪快に釘を差されて、操舵席で仰け反りながらもバートはこれまた着実に敬礼して返す。
マグノも実際、怒っているのではない。磁気嵐に襲われている中で、バートが懸命に戦ってくれているのは分かっている。
作戦通りに事が進んでいるとはいえ、多くの敵を前にして果敢に挑むその姿勢は大したものだと言える。悲鳴を上げていた昔が、嘘のようだった。
そもそもの話、バート・ガルサスという男は名誉より安全を重んじていた男である。勲章より自分の生命を第一としていた。
ヒーロー願望のあるカイとは違って、ある種健全に生きていた男であった。臆病ではあるが、その臆病さが戦場では必要不可欠である。
そんな彼が今意気揚々と敵と戦っているのは、殊勲賞を狙ってではない。形ある名誉よりも、仲間からの賞賛を望んでいるのだ。
子供っぽいといえばそれまでだが、賞賛を望んで戦うのもまた健全だ。仲間を守ることで、仲間から褒められるのであれば、それはそれで素晴らしいことだ。
やはりシャーリーという家族が出来たことが、一番大きい。愛する家族の前で胸を張って戦う姿は、一家の大黒柱の如き頼もしさだった。
「現在、順調に敵戦力を削っております。磁気嵐をこちら側で誘発できた事で、敵の動きにも乱れが生じております」
「故郷を前にして、ようやく立場が逆転したね。毎回準備万端な敵さんに、こちらはいつも不意をつかれていたんだ。
決戦を前にここは一つ、海賊なりの戦い方ってのを教えてやろうじゃないか」
海賊家業は常に先手必勝、奇襲を仕掛けて不意をついて物資を奪う。戦力差のある敵を想定とした、海賊流の戦い方であった。
地球は常にこちらの動きを補足しており、毎回新型の無人兵器を用意してマグノ海賊団に奇襲を仕掛けてきた。
準備万端の敵に対して準備も情報も不足気味とあって、毎回苦労させられてきたのである。ここへ来て、ようやく逆転できた。
作戦通りだと余裕を見せるつもりはないが、意趣返し出来た事にはマグノ達も満足していた。
「バート達もよくやってくれていますが、やはりソラやユメの協力が大きいですね」
「磁気嵐の中では、こちら側もどうしても抑制されてしまうからね。システム面であの子達が補佐してくれているから、上手く戦えている。
あの子達はあくまでカイへの手助けとして働いてくれているんだろうけど、それでも大きな力となっている」
強大な磁気が荒れ狂う空間では電子機器系の使用はほぼ不可能に近いが、ペークシスを通じてソラ達がシステムを稼働している。
あの二人が来てからペークシス・プラグマも安定稼働を行っており、暴走どころか不安定になることも殆どなくなった。
それどころかスーパーヴァンドレッドの誕生を筆頭に、システムや機器系統もバージョンアップが行われていて機能面も大きく向上していた。
今も二人は作戦に貢献する形で、全力で働いてくれている。
「これまで素性を敢えて問いませんでしたが、カイが今後あの子達をどうするつもりか、気になるところではあります」
ソラやユメは言うなれば、ニル・ヴァーナの密航者である。許可なく乗船して、我が物顔で居座っている。
海賊にとって余所者は最大の禁忌とも言える。素性もあかせぬ人間なぞ、スパイと疑われても仕方がなかった。
ましてソラはともかくとして、ユメは人間を忌避する傾向にあった。無邪気に殺意を振りまくユメは、子供であっても厄介な存在だった。
そんな子供二人が今も乗船させているのはカイへの忠誠心であり、そのカイへの信頼の高さが大きい。
「特殊な子達であることには変わらないからね。BCの懸念は、アタシもよく分かる。ツバサもカイを家族として慕っている」
だからこそカイがあの子達をどうするつもりなのか、気掛かりではあった。マグノから見れば、カイもまだまだ子供である。
立体映像のソラやユメだけではなく、生身の少女であるツバサもカイを慕ってミッションから出てきたのだ。
カイに養育する義務自体はないにせよ、カイが面倒を見なければあの子達は行く宛がなくなる。
そして子供とは、寄辺ががなくなって生きていける存在ではない。
「バートにもシャーリーの事で前々から相談は受けているからね……この際、カイも相談に乗ってあげようと思っているんだよ」
「――いざとなれば、我々のアジトで面倒を見ると?」
「あの子達も言うならば孤児だ、今更だよ。それにこうして同じ戦場で戦っているのであれば、大事な仲間でもある。
全員可愛い盛りの女の子であれば、アジトの連中も可愛がってくれる。逞しい子達だ、どこでも生きていけるさ」
「あるいは我々が、カイへ支援を申し出る事も出来ます。カイもあれで責任感はある、あの子達を放り出したりはしないでしょう」
「戦いが終われば、アタシら大人の出番だね」
とはいえやはり――ソラやユメの素性は、気になる事ではある。
子供のスパイは珍しくはないが、その線はないとマグノ達も確信は持っている。ユメの敵対心は、スパイとしてみれば不適格でしかないからだ。
さりとて、善良な一般市民というのはありえない。そもそも人間ではないのだ、幽霊などの怪奇かつ不可解な存在であるのは確かだ。
その点を考慮すると――
「正直な所、私にはあの子達の正体について推測はあります」
「アタシもだ。些か以上に突飛ではあるが、あの子達の言動や能力を考えれば推測は立つね」
「いずれ、打ち明けてくれるのでしょうか?」
「出来れば――と言いたいところではあるが、どうもまだ壁を感じてはいる。
その壁を壊すのか、それとも乗り越えるのか――坊やにかかっているね」
当事者ではない大人達に出来ることは、限られている。心の中にまで踏み込む権利は、我が子であろうとない。
だからこそ大人として出来ることは、全て行う。養育だの養子なんてものは全て、大人が面倒を見ればいい。
ソラやユメが本当の少女となれるのかどうかは、カイにかかっている。
<to be continued>
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