ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action5 -硬化-
磁気嵐という最悪な環境下においても、マグノ海賊団は優勢に戦況を運べていた。死傷者はおろか、軽傷者でさえも数名ほどにしか出ていない。
強力な磁場の中では圧勝とまではいかないにしても、本作戦においては既に勝利とまで断言しても差し支えはないと言っていい。
勿論優勢に作戦を進められても、カイ達の間に一切の油断はない。どれほど綿密な作戦をねっても、常に想定外は起きていたからだ。
だからという訳でもないのだが――想定外が一切起こらない今の状況こそが、
カイ達にとっての、想定外と言える。
「お姉様、ブリッジに確認を取りました。やはり今回の敵戦力に、新型は見当たりません」
「ニル・ヴァーナに保管された刈り取りのデータに当て嵌まらない無人兵器は、居なかったか……
仮にもチームリーダーである私に秘匿していた、先の戦闘データにも無かったのだな!」
「――あのまま隠しておけばよかっただろう、この馬鹿!」
「ご、ごめんなさい、宇宙人さん!? サプライズ成功が嬉しくて、ついつい話しちゃいまして……」
「まさかあのメイアに嫌味を言われる日が来るとは思わなかったわ、本当に」
スーパーヴァンドレッドの広いコックピットに睨みをきかせるメイアを前に、カイやディータ、ジュラ達は口を閉ざすしかなかった。
言うまでもなく先日のサプライズパーティーの一件、本人には感謝されつつも刈り取りとの戦闘の件まで秘密にしていた事は怒られてしまった。
メイア本人やカイは事故に遭っていたのでどのみち参戦できなかったのだが、それはそれとして大いにお叱りを受けたのである。
だが人間、大成功すると味を占めるものである――来年のサプライズも、水面下で計画されつつある。
「ディータが倒した例の新型、呼称はエイ型だったかしら。あいつが隠れているんじゃないの?」
「あれはディータの大手柄だったね、リーダーの責務をよく果たしたもんだよ」
「えへへ、ありがとうございます! ディータもその事は考えてユメちゃん達に探して貰ったんですけど、見当たりませんでした」
メイアが指示を出す前に予め事態を想定して、指示を出していた。ディータの指揮ぶりに、メイアは口元を緩ませる。
メイアがチームリーダーとして復帰した以上頼り切りにするのかと思えば、自分なりに考えて作戦に貢献しようとしている。
自覚が出来てきている点を考慮しても、与えられた立場に対する前向きさも向上している。
この行動力が実った時は、本当に一チームを預けてもいいかもしれない――メイアはそう評価する。
『ユメから隠れるのは不可能だからね、フフン。てってーてきに探したけどいなかったよ、ますたぁー』
『同じく発見しておりません、マスター』
「分かった、ありがとう。バート、お前から見てどうだ?」
『敵の数は着実に減ってきてる。強そうなのは見かけないし、僕の活躍により大勝利となりそうだよ!』
「はいはい、えらいえらい」
勝って兜の緒を締めよという地球の言があるが、本作戦におけるバートの撃墜数はエース級なので賞賛には値する。
本人は大いに浮かれているが、戦闘においては気を緩めずに順調に敵戦力を削っていた。
やはり何と言っても、守るべき存在が出来たことが大きい。自分の失敗は家族の命運に関わるのだ、本人も張り切るというものだ。
一応シャーリーにも戦果を連絡しておこうと、カイなりに友人を気遣った。
『それにしても、ピョロが融合したこの合体メカは凄いピョロね……やはりピョロの存在は偉大だピョロよ!』
「お前一人を外しても合体を維持できるか、試してみようか」
『やめてください、お願いしますピョロ。仮に維持できたら、立ち直れなくなるピョロ!?』
『ロボットの分際で意外と繊細なやつね、こいつ』
『全員一丸となった故の人機一体と推察されます』
今やマグノ海賊団の切り札でもある、スーパーヴァンドレッド。決戦に向けて、まさかこれほどの切り札を与えられるとはカイ達も夢にも思わなかった。
本作線より正式に投入となったが、その戦力及び機能は絶大なものだった。スペックも桁違いで、要塞としての機能も果たせる。
相手が強大な母艦であっても、スーパーヴァンドレッドのポテンシャルなら十二分に立ち回れるだろう。本当に、地球を守れるかもしれない。
皆の期待は、高まる一方だった。
「磁気嵐という特殊な環境ではあるが、決戦前に実験できたことは大きいな」
「全員それぞれの役割も確認することも出来たからな。ただ実戦投入となると、ガスコーニュやバーネットの存在が欠かせなくなる」
「デリ機も加わっているからね……アタシとしては無論協力は惜しまないが、前線に立つってのは店長としてはしまらないね」
「アタシがガスコさんの代理を務められたら良かったんですけど……アタシも入ってますからね、デリは他の皆に頼むしか」
「ミスティはいいの? あんた、民間人なのに前線に立たされるのよ」
役割を確認したということは、自分の立場や立ち位置を確認した事になる。つまり、ミスティ達は実戦投入となってしまう。
この試験導入は、そうした意味でも試験であったのだ。どれほど強力な機体でも、最前線に立つ事には代わりはない。
カイ達はパイロットだ、覚悟を決めている。ガスコーニュやバーネットも裏方ではあるが、戦場を走り回るデリメンバーである。
だが、ミスティは違う。彼女は最初から最後まで、徹底して巻き込まれただけの形だ。
「もう今更でしょう。それにあたしはできるだけ間近で取材したかったから、いいチャンスよ。
――ま、一応友達を助けられるというのもあるしね」
「ありがとう、ミスティちゃん! ディータも絶対、お友達を守るね!」
「はいはい――あたしだって、覚悟はできてる。絶対地球の真実を、刈り取りの全てを明らかにしてやる。アタシの故郷を、消えたままにはしない」
ミスティは、拳を握る。彼女は決して死ぬのが怖くないのではない、使命感を燃やして恐怖や不安を取り払っているのだ。
彼女の使命感は英雄願望や博愛主義には染まらない、とても人間らしい強さであった。人間らしいからこそ、共感が持てる。
だからこそ――
ヒトではない者達には、理解しがたい感情であった。
『ふーん、みーんななんか頑張っちゃってるねー』
「ユメちゃんはどうなの? やっぱり『宇宙人さんの為』なのかな?」
『とーぜんよ! ユメは「ますたぁーの為に」頑張るんだから!』
――本人としては、本心のつもりだったのだろう。だが、実際に起きた現実は全く違っていた。
彼女の言葉を皮切りに、スーパーヴァンドレッドは解除された。
「……な、何だと!?」
全く突然の事態、意味も理由も分からない。真実なのは本人の意志とは全く関係もなく、分離がされてしまったということだ。
そして当然、今の戦場は磁気嵐の中である。スーパーヴァンドレッドなら耐えられた磁場の中だが、一機体となってしまったからにはそうはいかない。
強大な磁場に無防備に襲われて、カイのSP型は悲鳴を上げた。
「く、くそっ……急いで、再合体を――げっ!?」
そして本作戦において――スーパーヴァンドレッドは、囮の役目を果たしていた。
つまり、今この場には敵戦力が集結している。
正面から殴りかかってきた偽ヴァンドレッドに突っ込まれて、カイのSP蛮型はそのまま磁気嵐に沈んでいった。
<to be continued>
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