ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 22 "Singing voice of a spirit"
Action2 -含浸-
ラバットやリズから貴重な情報提供を受けたカイが発案した戦術は、実に単純だった。
大規模な磁気嵐の多くはコロナ質量放出と呼ばれるプラズマの塊が惑星から放出され、プラズマが強い磁場をともなって惑星の磁気圏に吹きつけた場合に発生する。
ようするに磁気嵐が発達するのは磁場をもったエネルギー風が磁気圏に吹きつけている時であり、このエネルギー風中の磁場が重要な影響を及ぼしているのだと推察出来る。
ならばいつ生じるか分からない磁気嵐を誘発するには、コロナ放出に匹敵するプラズマエネルギーをぶつければいい。
「パルフェ、ペークシスエネルギーをプラズマ変換する装置を作ってくれ。
以前製作してくれたホフヌング――蛮型用の遠距離兵器を土台に製作してくれたら、機体に積み込んで俺が誘発させる」
「また無茶苦茶な注文をしてくれるね……まあエネルギー変換するだけなら、言うほど難しくはないかな。
ただペークシス君のエネルギーは非常に強いから、磁気を起こす力の強さによってこちらにまで悪影響が出るかもしれないよ」
「その辺は事前に分析させる」
「誰に?」
「当然、アマローネ達だ」
「いきなり呼び出された挙句、無茶振りされてる!?」
「……!」
「まあまあ、落ち着いて。時間はかかるだろうけど、あたし達なら出来るよ。故郷へ帰るために頑張ろう」
「もうカイにすっかり絆されているよね、アマロ!?」
「……! ……!!」
猛抗議するベルヴェデールと、クマの着ぐるみで暴れまわるセルティック。言葉や態度で反対する二人を、アマローネは苦笑いで必死になだめる。
発生日時も不明な磁気嵐に対して、コロナ質量放出を行って磁気嵐を誘発する。作戦内容は単純だが、頭を抱える作戦内容だ。
言葉だけなら容易いが、実際に作戦を決行するのは途方もない事前準備が必要となる。プロなら聞いただけで目眩がする。
装置を実際に制作するよりも、装置を使用する環境を整える方が何百倍も難しい。スキルは勿論だが、分析する時間が死ぬほどかかるだろう。
なまじ可能であるだけに、拒否が出来ない。だから作戦立案者に、猛抗議するくらいしか八つ当たりできなかった。
「ペークシスエネルギーの変換効率については、お前達に任せていいか」
『イエス、マスター。完璧に仕上げてみせます』
『ユメ達におまかせだよ、ますたぁー。安全確実に、やってあげるね!』
ニルヴァーナに積まれているペークシスプラグマの結晶体はオリジナルであり、本来制御不能なエネルギー体である。
精密かつ膨大な変換が必要なこの手の作業には向かないのだが、太陽の光を放つ進化版のペークシスプラグマの安定率は非常に高い。
その上ソラやユメがサポートすれば、ほぼ完璧にペークシスプラグマの制御が行える。この点について、カイは微塵も疑っていない。
カイの信頼を受ければ、ソラやユメもこれ以上ないほど使命感に燃え上がる。
「話をこうして聞かされても、僕は正直ピンとこないんだけど……そもそも何で、磁気嵐をこっちから誘発させるんだ? 僕達に不利になるだけじゃないか」
「予想外の磁気嵐を発生する点が、大きい。こっちはそれに合わせて対処できるけど、無人兵器だと対抗できない」
「プログラム上あらゆる事態に想定しているだろうが、コロナ質量放出が一定を超えれば機体が持たないだろうからな」
「なるほど……確かあの連中は、磁気嵐に隠れて襲い掛かってくるはずだったもんな。隠れ蓑の磁気嵐が荒れ狂ってしまったら、連中だって巻き込まれてしまうのか」
そもそも磁気嵐は地磁気の擾乱なので、無人有人に限らず化学兵器はご法度の空間である。
刈り取り兵器が磁気嵐に耐えられるの高度な科学力による産物なのだが、誘発された磁気嵐となると想定を超える磁気が乗りかかって、急激な磁場が襲いかかる。
本来ならば分解されるのだが、カイ達は地球の無人兵器を決して侮らない。恐らく磁場による重圧でも耐えられる改造がされていると考えている。
とはいえ、従来通りの戦闘なぞ到底行えない。カイやドゥエロの説明にバートも得心はいったが、疑問点は残されている。
「作戦はよく分かったけど、僕達はどうやって対応するんだ? それほど強い磁場だと、僕達の行動も制限される」
「先日のガス星雲におけるマニュアル操作で対応するつもりだが、無論限度はある。荒れ狂った磁場の中では、そもそも視界がきかないからな」
有人機と無人機の決定的な違いである。無人機はレーダーなどによる科学的分析が行えるが、有人機はパイロットに依存する。
勿論有人機でもコンソールが搭載されているが、分析結果を見定めるのはあくまで人間である。人の目で観測出来なければ、行動が束縛される。
マグノ海賊団は一流のパイロットが揃っていて特殊な状況下でも対応できるが、磁気嵐での戦闘は流石に訓練を受けていない。
ガス星雲での戦闘でマニュアル操作は行えるが、敵の補足となると厳しい。
「だったらどうするんだよ。攻撃できなければ意味ないじゃないか」
「何を言っているんだ、お前が居るじゃないか」
「は……?」
「バート、君にはニル・ヴァーナによるホーミングレーザーとペークシスアームが使える。
強力な磁場の中でも、ペークシス・プラグマがエネルギー源であるこの二つの兵器は使用出来る。
観測はソラが行えるので、敵の補足も可能だ。カイ達が追い立てた敵を、君が殲滅してくれればいい」
バート・ガルサス本人はあまり自覚できていないが、この二つの兵器はそれほど強力な武器なのである。
ホーミングレーザーは敵のみを確実に仕留める事が可能、ペークシスアームはホーミングレーザーを防ぐ強力なシールドを持つ敵を粉砕出来る。
二つの兵器を連携して使用すればほぼ敵なしであり、戦況を覆せる戦略兵器なのだ。
単純に本人が自覚していないので切り札的な扱いしかされないのだが、本来このように積極的に使用すべき兵器である。
「おおおおお、いよいよ僕が大活躍の予感……!」
「早く大活躍しろって話だケロー」
「もう故郷まで目前に迫っているピョロよ」
「お前ん所の家族、ようやく活躍できるみたいだぞ、シャーリー」
「えへへ、ツバサちゃんところのカイおにーちゃんにも負けないよ」
パイウェイやピョロはおろか、シャーリーやツバサにまで言われる中でもめげず、バートはガッツポーズをしている。
ともあれ主力となるのはバートとニル・ヴァーナ、パルフェが製造するプラズマ変換装置で磁気嵐を誘発、カイ達は磁気嵐の戦場を駆け回って敵を撹乱する。
奇襲するつもりで待ち構えている敵を、逆に奇襲で仕留めるという荒業。このような手段が取れるのも、事前に情報を得ているからであった。
リズやラバットと情報交換を行えたのは、非常に大きい。
「カイの情報では磁気嵐を抜けた先に、人が住める惑星があるそうだな」
「ラバットの話じゃ、お前さんに是非とも立ち寄ってもらいたいそうじゃないか。リクエストには応じるのかい?」
「タラークとメジェールはもう目の前だけど、念の為補給をしておきたい。それに俺達には分捕った母艦があるからな。
一緒に戦ってくれそうならば、母艦に乗船してほしいと思っている」
「なるほど、母艦の運行は可能となったとはいえ確かにクルーは必要だ」
「アタシら海賊に雇われる連中が居るとは思えないが、世の中そういう物好きが多いのも事実だしね。アタシも興味がある、寄ってみようじゃないか」
「決まりだ――何か、初めてだな」
「初めて……?」
「敵を倒してから、惑星の住民と接触する事だよ。いつも話している最中に敵が襲ってくるから、落ち着いて話せなかった」
「ふふ、言われてみれば確かにそうだな」
カイの溜息混じりの愚痴に、メイアは苦笑気味に同意する。
当然の事がようやく行えるというのは、幸先が良いことであるのかもしれない。
いずれにしてもまずは、敵との戦闘である。
<to be continued>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.